【医師監修】無痛分娩のリスクとは?赤ちゃんへの影響はあるのか詳しく解説
無痛分娩では、麻酔薬や陣痛促進剤といった薬や、器具による医療処置が行われることがあります。それはどのように使われるのか、赤ちゃんやママの体に影響する可能性はあるのか、詳しく解説します。
無痛分娩のリスクってどんなもの?
普通分娩(自然分娩)は、薬や器具などの医療処置をなるべく少なくすることを目標としています。一方、無痛分娩は麻酔薬を使う時点で医療処置を行うことを前提に進めることになります。そういった違いはあっても、厚生労働省が設置した研究班は、2018年に「無痛分娩とそれ以外の分娩のリスクに、大きな違いはない」と発表しています。
無痛分娩で生じる可能性がある副作用や合併症
無痛分娩で生じる可能性のある副作用
無痛分娩は、医療処置を行う分娩方法のため、副作用や合併症が生じる可能性はあります。たとえば、比較的よくみられるものでは、皮膚のかゆみ、低血圧、吐きけや嘔吐、発熱などがあります。しかし、これらは適切な処置を行うことで母体への影響を抑えられ、麻酔薬の使用が終了すれば、すぐに解消するものがほとんどです。
また、非常にまれではありますが、麻酔薬の合併症として麻酔薬の中毒や、麻酔薬の効きすぎ、麻酔薬に対するアレルギー反応、薬を入れる管が硬膜を傷つけてしまうといった、「無痛分娩の事故」と言われることが生じる可能性もあります。ただし、これらは妊婦健診をしっかり受け、医療環境の整った施設で受けるのであればまず回避できると考えていいでしょう。
また、リスクというほどではないかもしれませんが、吐きけを起こしやすくなるため指定の飲み物は飲めますが、食事はできません。また、麻酔薬を注入したあとは転ぶ心配があるため、立ち歩くことはできません。でも足が全く動かないわけではないので、ベッドの上で過ごす分にはどんな姿勢でいても大丈夫です。
妊娠中は、さまざまな要因から血管内に血の塊(血栓)ができやすい傾向があります。帝王切開では手術中の痛みを感じないようにしっかりと麻酔をかけるため、足の血流がうっ滞しやすく(悪くなりやすく)、より血栓ができやすい状況に。そのため血栓症予防を行って手術をするのですが、無痛分娩では足を動かすことはできるので、足を動かしたり姿勢を変えることで血流のうっ滞を予防し、特別な予防処置は行いません。
無痛分娩による出産への影響
無痛分娩は、最終的に産婦さん自身のいきむ力を借りて赤ちゃんを押し出せるよう、下半身の感覚がある程度残るように麻酔をかけます。しかし、痛みがやわらいでいるといきむタイミングがわかりにくくなったり、力が弱くなりやすい傾向はあります。
また、研究の結果、子宮口が全開大になって赤ちゃんが出てくるまでの時間が、普通分娩(自然分娩)より多少長くなる傾向はみられます。多少長くなる分には心配いりませんが、著しく長くなると赤ちゃんにも産婦さんにも問題が生じる心配があるため、すぐに赤ちゃんを出す必要がでてきます。そのような場合に、「鉗子」や「吸引カップ」という医療器具を使って、赤ちゃんを取り出す「器械分娩」を行うことになります。
無痛分娩の場合は、いろいろな要因から自然分娩と比べて「器械分娩」が多くなることがわかっています。しかし、看護師や助産師がタイミングやいきみ方をアドバイスするので、いきめないということはありません。また、分娩の進行が止まって帝王切開を行う確率が高いと考えられていたこともありますが、今は帝王切開率が高くなるということはないとわかっています。
分娩が終わり薬の注入を止めると、その後2時間ほどで麻酔が切れ、下半身の感覚も普通に戻ります。その後の経過や産院での過ごし方は、自然分娩と違いはありません。自然分娩よりも体力の消耗が少ないので、母体の産後の回復はよりスムーズになります。
無痛分娩時の麻酔は赤ちゃんや母乳にほとんど影響しません
無痛分娩の際に使用する硬膜外麻酔<こうまくがいますい>は、限定された範囲にのみ作用します。そのため、使用する麻酔の濃度は低めで量も少ないので、血液内に入る薬の量はごく少量ですみます。そのうえ現在使われている麻酔薬は、わずかに胎盤を通過しますが麻酔薬そのものに鎮静作用があるものは少ないため、過量に入らない限り赤ちゃんが眠ったまま生まれるといったような、麻酔の影響もありません。
また母乳についても、麻酔薬が影響することはほとんどなく、赤ちゃんが母乳を飲んでも麻酔が作用することはありません。
無痛分娩と自閉症や広汎性発達障害との関連はありません
硬膜外麻酔による無痛分娩で生まれた赤ちゃんが「発達障害」になりやすいのでは?といううわさがあるようです。しかし、結論を先に言えば、オーストラリアでの調査の結果、無痛分娩と自閉症や広汎性発達障害との関連はないとされています。
なぜ無痛分娩で生まれた赤ちゃんが発達障害になりやすいといううわさになったのか
そもそもなぜ無痛分娩と発達障害との関連がうわさになったのかというと、海外で発表された研究論文が原因のようです。器械分娩や陣痛促進剤を使ったケースで、自閉症(自閉スペクトラム障害)の発症リスクが0.1%ほど上がったというものがあったり、麻酔薬の使用で発症リスクがわずかに上がったという話が、マスコミに取り上げられ広まったためのようです。
そもそも発達障害は脳の機能障害であり、遺伝をはじめ妊婦さんの喫煙など妊娠中の要因や、36週以前の早産、分娩時のトラブルによる赤ちゃんの酸素不足など、さまざまな因子が発症にかかわっていると考えられています。
そのため、無痛分娩に使用される麻酔薬や陣痛促進剤、器械分娩が原因で引き起こされるとは考えにくく、実際、関連を示す結果を否定する論文も発表されています。
また、無痛分娩で生まれた子の追跡調査では、学習障害(LD:読み書きや計算などを行うのが困難な発達障害)と診断される割合が、それ以外の方法で生まれた子よりも多くなることはないという結果も出ています。
併用することの多い「陣痛促進剤」について
分娩日を決めて行う「計画無痛分娩」では、陣痛促進剤を使うのが一般的です。陣痛促進剤に不安を抱く人は多いですが、事故がみられた時期に比べ、現在ではそのリスクが格段に低くなっています。
なぜ陣痛促進剤を使う必要があるの?
無痛分娩には、大きく分けて自然な陣痛が起きてから硬膜外麻酔をして分娩を進める無痛分娩と、分娩日を決めて硬膜外麻酔をし、人工的に陣痛を起こして進める「計画無痛分娩」の2つがあります。日本では、計画無痛分娩を行う施設のほうが多いのが現状です。無痛分娩を安全に行うには十分なスタッフや部屋数などの確保が重要で、ある程度予定を立てる必要があるのが大きな理由です。また、計画的に行うほうが、分娩開始から痛みをやわらげることができるというメリットによるところもあります。
計画無痛分娩の場合、人工的に陣痛を起こすために「陣痛促進剤」を使うことになります。陣痛促進剤とは子宮頸管をやわらかくする作用や子宮の筋肉を収縮させる作用のある薬。妊婦さんの体の中で分泌されているホルモンと同じ成分でつくられていて、点滴と錠剤があります。
薬なので以下のような副作用がありますが、無痛分娩では麻酔の効果で副作用を感じない場合が多いようです。
<陣痛促進剤の副作用>
頭痛、発汗、指先のしびれ、血圧低下、悪心など
陣痛促進剤のリスクは?
陣痛促進剤に心配なイメージを持つ人がいるのは、かつて陣痛促進剤を使った分娩で事故が起きていたことによるところが大きいと思います。
かつては陣痛促進剤を使った分娩で、過強陣痛(陣痛が強くなりすぎること)により子宮破裂や胎児仮死といった赤ちゃんや産婦さんに重篤な事故が生じていたことがありました。原因は、陣痛促進剤の使用量が多すぎたり、モニタリングがしっかり行われていないなど、適正に使われていなかったためでした。
しかし現在では、陣痛促進剤を安全に使用するためのガイドラインが作成され、多くの施設でガイドラインに沿って用いられるようになりました。医療処置には副作用が全くないとは言えません。しかし、メリットがデメリットを上回ると予測される場合に、ガイドラインに沿って適切に使用すれば、陣痛促進剤は安全に使うことができると思います。
実際、分娩日を決めて行う計画無痛分娩の際でも、分娩を予定日内に終わらせるためなどに陣痛促進剤を使う、といった医療本位なことは通常は絶対にしません。あくまでも自然な陣痛を誘発し、自然な分娩進行に近づけるサポート役として使います。そのため、陣痛促進剤を使ってもお産が進行しない場合は、薬の使用を中止して分娩日を改めることもあります。
自然分娩を選んでも、場合によっては陣痛促進剤を使用することはありますし、吸引などでの器械分娩になることもあります。どんな分娩方法でどんな医療処置を受けるにしても、それは産婦さんと赤ちゃんの安全を考えて行うことです。「患者さんファースト」の精神で、誠実に取り組んでいる医療機関であれば、心配しなくて大丈夫といえるでしょう。
取材・文/笹川千絵、ひよこクラブ編集部
現在行われている無痛分娩は、かつての医療事故などを踏まえて、ママや赤ちゃんへのリスクを避けるよう進化した形になっていることがわかりました。むやみに怖がることなく、周囲に流されることなく選択できるといいですね。