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内祝い日本人初！ダウン症でパリコレに。あきらめずに親子でつかんだ夢の先に【ダウン症モデル菜桜さんのママ・齊藤由美さん】
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齊藤由美さんは、2004年に第３子の菜桜さんを出産。菜桜さんは生まれてすぐダウン症と診断され、合併症の手術を40回以上行いながら成長してきました。一方で、菜桜さんは14歳から本格的にモデル活動を始め、2024年にパリコレに、2025年に東京ガールズコレクションに出演したことで「ダウン症モデル」として注目されています。菜桜さんがモデル活動を始めたきっかけや苦労、パリコレ出演の軌跡などを由美さんに聞きました。全2回インタビューの後編です。
14歳から本格的にモデル活動。ハンデを抱えながらウォーキングとポージングのレッスンを続けた
――菜桜さんがモデル活動を始めたきっかけを教えてください。
齊藤由美さん（以下敬省略） 菜桜ちゃんが９歳のとき、日本ダウン症協会の会報誌にファッションショーのモデル募集があるのを見つけて、「菜桜ちゃんに出てほしいな～」とパパに相談したら、パパも「応募してみればいいじゃん」と言ってくれたので、応募しました。
本番ではかわいい服を着て、大勢の人の前でポーズを決め、楽しかったようです。菜桜ちゃんが「続けたい」と繰り返し言っていたので、機会があればまた参加しようと思っていました。
――菜桜さんがモデル活動をする中で、どのような苦労がありましたか？
齊藤 いわゆるモデルポーズやモデルウォーキングが難しいことです。ダウン症の子は筋力が弱く猫背になりがちなんです。練習するにも、菜桜ちゃんは重度の知的障害があるので、「背筋」といった難しい言葉を理解できなかったり、言われたことをすぐ忘れてしまいます。
そんな菜桜ちゃんを成長させてくれた出会いが、14歳のときにありました。障害者のファッションショーに出演したときにウォーキングを指導してくれたLB-MODEL SCHOOLの望月ちか先生です。ちか先生は、ダウン症の特性を理解したうえで、やさしい言葉で、根気強く、何度も一緒に歩いて指導してくれました。このとき以来、ちか先生のもとへ車で片道１時間、月２回のレッスンに通うようになりました。
また、ウォーキングの練習には足が見える服装がいいと先生に言われ、ミニスカートをはくようになったり、メイクもするようにしました。
私は、菜桜ちゃんにかわいいメイクをするために、SNSで若い子向けのメイクを勉強。さらに、Instagramで菜桜ちゃんの活動を発信し始めました。
――菜桜さんが注目されるようになったのも、この頃でしょうか？
齊藤 はい。14歳からの1年間はショーに８回くらい出たし、AERA dot.の取材を受け、その記事がヤフートップニュースに上がったんです。その記事のおかげで「ダウン症モデル」というワードで広く知られるようになり、Instagramのフォロワーは1日に1万7000人増えました。
こうして活動の幅が少しずつ広がり、17歳のときに24時間テレビや、東京ガールズコレクションteenにも出演しました。
夢をあきらめない。縁と運をつないでパリコレとTGCに出演
――2024年にパリコレに出演されました。その経緯を教えてください。
齊藤 菜桜ちゃんは、取材で夢を聞かれると、「東京ガールズコレクションに出たい」「海外のファッションショーに出たい」と言っていました。夢というものは、言い続けると縁と運がつながっていくものですね。知人でSDGs推進団体「Music for SDGs」代表のマック大久保さんがパリファッションウィーク（パリコレ）と縁があって、声をかけてくださったんです。デザイナーのサミーナ・ムガールさんのショーにゲスト出演することが決まりました。
そこから３カ月は、ものすごいバタバタでした。まず、サミーナ・ムガールさんの服は身長141㎝の菜桜ちゃんが着られるサイズがないことがわかり、知人が貸衣装店「みやび」さんと連絡をとってくれました。店主の池田 雅さんを訪問してお話をしたところ、快く引き受けてくださることに。雅さんは、菜桜ちゃんの衣装を作り、パリへ同行して着付けとヘアメイクまでしてくださることになったんです。
さらに、私と菜桜ちゃんの渡航費は自費だったため、クラウドファンディングに挑戦し、300人以上の方から支援をいただきました。
――菜桜さんがランウェイを歩く姿を、由美さんはどのような思いでご覧になりましたか？
齊藤 夢じゃないかという気持ちで見ていました。菜桜ちゃんが生まれたときは、こんな日が来るなんて想像もできなかった。これまで40回以上も手術をして、苦手なレッスンも頑張ってきた菜桜ちゃんは、私の誇りです。そんなことを思いながら、雅さんと一緒に号泣していました。
――由美さんと菜桜さんの努力でつないだ縁ですね。2025年１月の東京ガールズコレクション（TGC）に出演したのは、パリコレ出演の影響もありますか？
齊藤 そうなんです。パリコレ出演の報告で地元の静岡県庁を表敬訪問したとき、「次はTGCに出たい」とアピールできました。幸運にも、2024年から菜桜ちゃんが「しずおか楽しみ大使」を任命されたこともあって、ダウン症で初めてTGCのランウェイを歩くことができました。本当に、菜桜ちゃんは縁と運を持っている子だと思います。
「生まれ変わっても菜桜ちゃんを産みたい」。走り続ける菜桜さんの次の夢は
――さまざまな出会いがつながって、夢をかなえられてきたんですね。中でも忘れられない出会いはありますか？
齊藤 １つに絞れません。今まで出会ったすべての方のおかげで今の菜桜ちゃんがいます。ウォーキング講師のちか先生、菜桜ちゃんが広く知られるきっかけになったAERAの記者さん、パリコレにつないでくださったマックさん…。すべての出会いがつながっています。
私にとっても、その出会いはすべて菜桜ちゃんがいたから得られたもの。生まれ変わっても、また菜桜ちゃんを産みたいです。
――由美さんはSNSのコメントにすべてていねいに返信されていますが、心ないアンチの声もあると聞きます。由美さん流のアンチコメントとのつき合い方はありますか？
齊藤 それは私が教えてもらいたいです(笑)。アンチコメントは、菜桜ちゃんには見せていません。菜桜ちゃんのInstagramのフォロワーは８万人以上いて、コメントのほとんどは応援の声ですが、たった１つでもアンチコメントがあると、いつもナイフに刺されたように傷つきます。でも、炎上を避けるために、ぐっと我慢しています。
SNSは、このように傷つけられるツールである一方で、このストレスを吐き出せるのもSNSやブログなんです。私は、今の気持ちをたくさんの人と共有して励まされることで、心をととのえています。
――最後に、菜桜さんと由美さん、それぞれの夢を教えてください。
齊藤 菜桜ちゃんの夢は、あるアイドルに会うこと。レッスンがつらいときも、「いつか彼に会うために頑張ろう」と声をかけると笑顔になれるんです。
また、菜桜ちゃんは「みんなが笑顔になれるモデルになりたい」とも言っています。そのために、最近は「ニューヨークのショーに出たい」と言うようになりました。TGCのランウェイでは緊張のあまりエンジェルスマイルを出せなかったのが心残りだったので、今度こそ大舞台を笑顔で歩くことを目標にしています。
私自身の夢は、菜桜ちゃんにたくさんのランウェイを歩かせてあげること。また、ブランドモデルにも挑戦させてあげたいです。海外では、ダウン症の人がグッチのモデルに起用されています。菜桜ちゃんも、ダウン症初の日本人ブランドモデルをめざしていけたらと思っています。かなわぬ夢かもしれませんが、これからも夢は口に出して、追い続けていきたいですね。
お話・写真提供／齊藤由美さん 取材・文／大部陽子、たまひよONLINE編集部
「ダウン症だからとあきらめるのではなく、何度も挑戦し、経験させることが大切」と由美さん。菜桜さんがレッスンに集中できないときは「モデルを辞めていいんだよ！」と叱責する場面もあります。そのたびに菜桜さんは「辞めない！」と立ち上がってきました。夢に向かって走り続ける菜桜さんと由美さん。これからも、菜桜さんのエンジェルスマイルが楽しみですね。
齊藤由美さん（さいとうゆみ）
PROFILE
2004年に第３子の菜桜さんを出産。菜桜さんは生まれてすぐダウン症と診断される。胃と食道がつながっていない食道閉鎖症や心疾患などの合併症の手術は、現在までに40 回以上。一方で、菜桜さんは14歳から本格的にモデル活動をスタート。2024年にパリコレ、2025年に東京ガールズコレクションに出演。由美さんは、「ダウン症モデル」として注目される菜桜さんを献身的に支え続けている。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2025年5月現在のものです。
