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772gの二女を出産した母。「大丈夫」と強がっていたけど、本当は全然大丈夫じゃなかった。不安な胸の内をだれにも話せず苦しかった【体験談】

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生後2カ月になった愛乃ちゃん。日奈さんの手と比べると体の小ささがわかります。

北海道に住む髙橋日奈さん(35歳)は、妊娠25週のときに帰省していた実家で破水し、緊急帝王切開で第二子の愛乃ちゃんを出産しました。愛乃ちゃんは出生体重772g、身長31cmの超低出生体重児として生まれ、ママの日奈さん、パパの正樹さん(仮名・40歳・公務員)とお姉ちゃん(9歳)との4人家族です。愛乃ちゃんは現在は4歳になり、幼稚園の年少クラスに通っています。ママの日奈さんに、愛乃ちゃんが生まれてからNICUを退院するまでの話を聞きました。全3回のインタビューの2回目です。

週6日、片道1時間半の距離を面会に

生後2カ月を過ぎたころ。閉鎖式保育器から出て、ベビー服を着られるようになった愛乃ちゃん。

愛乃ちゃんは道東にある病院で生まれてすぐにNICU(新生児集中治療室)に入院となりました。日奈さんは産後5日で退院。それからは、実家から病院まで片道1時間半の道のりを、週6日ほど面会に通う日々になりました。

「ほとんど毎日、搾乳した母乳を持って私と長女と母と3人で病院に通いました。でも長女はNICUに入れないので、私が1〜2時間の面会をしている間は母が長女を公園に連れて行ったりしてなんとか時間を過ごしてくれました。長女にも毎日のように往復3時間も車に乗る生活で負担をかけてしまったと思います。それに、年長になる前の春休みの帰省中に急きょ出産になってしまって、その後自宅ではなく私の実家での生活が続くことになったので、年長さんになってから半年間お友だちに会えなかったこともストレスをかけてしまったと思います」(日奈さん)

4月初めに生まれた愛乃ちゃんの退院予定は、早くても予定日だった7月ごろになると言われていました。愛乃ちゃんの退院までは日奈さんと長女は道東にある日奈さんの実家、夫の正樹さんは道央の自宅と、家族がバラバラになってしまったそうです。自宅から愛乃ちゃんが入院している道東の病院までは、車で3時間かかる距離。夫の正樹さんは会いに来たくても頻繁に日帰りで行き来できる距離ではありません。

「愛乃が小さく生まれて健康状態が安定せず、ただでさえ不安でいっぱいの中、夫が近くにいないことが本当に心細かったです。
愛乃の状態についての医師からの説明を1人で聞くことには、かなりの重圧がありました。医師の説明があるときって、大体があんまりいい話じゃなくて、愛乃の健康状態と、これから受ける処置についての説明が多いんです。だから医師から呼ばれると、何か悪いことを言われるんじゃないかといつもとってもドキドキしていました。1人で抱えるには大きすぎる不安の中、夫が隣で一緒に聞いてくれたら・・・と何度も何度も思いました」(日奈さん)

「大丈夫」と強がって、だれにも不安を話せなかった

愛乃ちゃん生後3カ月のころ。日奈さんに沐浴(もくよく)してもらって気持ちよさそう!

毎日のように「未熟児」「超低出生体重児」と検索ばかりしては、病気の可能性や障害が残るかもしれないという情報を見て、落ち込んでいたという日奈さん。当時、そんな不安な胸の内をだれにも打ち明けられなかったと言います。

「看護師だったので医師から説明される病状や薬剤などの理解はできていましたが、小児科勤務の経験はなかったので説明がわからないこともありました。でも『そんなこともわからないの?』と思われたくないという変なプライドがあって、質問もなかなかできませんでした。不安なことがあっても『先生が治療してくれているからきっと大丈夫なはず!』と強がっていたということもあるかもしれません。

心配した看護師さんに『お母さん大丈夫ですか?』と声をかけられても、なぜか強がって『大丈夫です!』としか答えませんでした。
本当は、大丈夫じゃなかったんです。でも、わからないことも、不安なことも、だれにも打ち明けられませんでした。夫や母に話すときには、『こんなことがあったんだよね、ちょっと悲しかった』と、軽い日常会話のように、できるだけなんでもなく聞こえるように話していました。自分の気持ちにふたをして、夜な夜な搾乳をしながら1人で泣いていました」(日奈さん)

小さな体でいくつもの合併症や手術を乗り越えた

初めて愛乃ちゃんを胸に抱き、カンガルーケアをした日奈さん。

日奈さんは自分のつらさを胸にしまい、毎日面会に通って愛乃ちゃんが少しずつ成長する姿を見守りました。

「面会では、保育器に手を入れてタッチングしたり、声をかけたり写真を撮ったりしました。生後56日での初めてしたカンガルーケアのことは忘れられません。そのときの愛乃の体重は1000g超えるくらいで、まだ両手に収まるくらいの小さい赤ちゃん。でも私の胸にのせたときにずっしりとした重さを感じました。命の重さを感じたんだと思います。愛乃の肌と私の肌がくっついて、あたたかさと幸せも感じました。わずか772gで生まれた子が、1000gまで成長してくれたことがとってもうれしかったです」(日奈さん)

小さく生まれた赤ちゃんは体のいろんな機能が未熟なため、さまざまな合併症にかかることが少なくありません。愛乃ちゃんも、生後2カ月半ころまでの間にいくつもの合併症やその治療のための手術を経験したのだそうです。

「生後数日の間に動脈管開存症になりかけて手術が必要かもしれないと言われましたが、それは投薬でなんとか改善したそうです。また、生後2カ月のころに輸血をした際に、血管から血がもれて腕が真っ黒になってしまいました。血管の外にもれた血液が自然に吸収されなかったら、腕が壊死(えし)してしまう可能性があるとも説明されました。腕が壊死してしまったら切断になるかもしれないと、不安でたまりませんでしたがそれも幸いなことに大事に至らずすみました。

さらに生後2カ月半のころには、未熟児網膜症の光凝固術(レーザー治療)を受けることになりました。治療のために挿管チューブを挿入していたときにだえきを誤えんしてしまって誤嚥(ごえん)性肺炎になってしまったこともあります。愛乃の小さな体に医療処置が必要になるたびに、『小さく産んでごめんね』と申し訳なさを感じ、そのたびにかなり落ち込みました」(日奈さん)

生後4カ月、やっと妹と会えた喜び

生後4カ月で退院する日、迎えにきてくれたパパに抱っこされる愛乃ちゃん。

肺炎が無事に治ってからは、愛乃ちゃんの体調は安定し、生後3カ月では開放式保育器に変わり、NICUからGCU(新生児回復室)に移動しました。そして、生後4カ月で退院。愛乃ちゃんは体重2738g、身長48.8cmにまで成長しました。数種類の薬を毎日飲む必要はあったものの、在宅医療ケアなどはなく退院できたそうです。

「退院が決まって何よりうれしかったのは、やっと長女に会わせてあげられることでした。長女は『赤ちゃんが欲しい』と神様にお願いをしてくれて、赤ちゃんがおなかにきたことをとっても喜んでくれていました。愛乃の名前をつけてくれたのも長女です。愛乃が生まれてからも、写真を見ては『早く帰ってきてほしいな』とずっと言っていましたから。

退院の日、姉妹の初めての対面は病院の1階の待合所でした。長女は緊張しながらツンツン、と愛乃に触れていました。実家に戻ってからは、愛乃の横で一緒にゴロンとしたり、くっついたり、話しかけてあげたりしていました。妹のことがかわいくてしかたなかったらしく、抱っこしてくれたり、ミルクを支えて飲ませるお手伝いもしてくれました」(日奈さん)

ただ、お姉ちゃんにとっては妹をかわいいと思う気持ちの反面、ママを取られてしまった寂しさもあったようです。

「愛乃が入院中は長女と一緒に遊んであげていましたが、愛乃が退院してからはどうしても愛乃に手がかかってしまって。長女は当時5歳だったけれどかなり赤ちゃん返りがありました。私にもかまってほしい、赤ちゃんと同じことをしてほしい、と言うんです。だから、ミルクも、おしゃぶりも、沐浴も赤ちゃんと同じようにひと通りやってあげたこともあります」(日奈さん)

愛乃ちゃんは、退院後1カ月で検診を受けたあとに、道央の自宅へ帰ることに。愛乃ちゃんの緊急帝王切開での出産の日から5カ月。ようやく家族がそろって一緒に暮らせるようになりました。

【早坂先生より】不安や孤独感を感じる長期入院

NICUは限られた時間内での面会となることもあり、また、遠方からの面会に通われる家族も多く、心労は絶えないと思います。愛乃ちゃんは里帰り先での急な出生となり、家族は離れ離れとなり、お母さんは心ほぞかったと思います。周囲に同じような状況の方は少なく、理解を得ることは難しかったのではないでしょうか。ご家族へのケアも新生児医療の重要な課題の一つです。

お話・写真提供/髙橋日奈さん 監修/早坂 格先生 協力/板東あけみ先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

突然の出産で、家族が離れ離れに暮らすことになること、生まれた赤ちゃんの体調のこと・・・心配事が多くても日奈さんは「大丈夫なふりをしていた」のだそうです。「今思えば、当時だれかに話せていたら、もっと心が楽だったかもしれません」とつらかった日々のことを振り返って話してくれました。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年6月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

早坂 格先生(はやさか いたる)

PROFILE
2006年 旭川医科大学卒業。室蘭日鋼記念病院、小児科長。医学博士(北海道大学大学院 医学院)。
日本小児科学会認定 小児科専門医・指導医。日本周産期・新生児医学会認定 周産期専門医(新生児)・指導医。日本周産期・新生児医学会認定 新生児専門医・新生児蘇生法「専門」コースインストラクター。

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