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分娩台の上で「かわいい、かわいい」と涙しながら語りかけるお母さん。これも1つの本当のお産なのです。特別養子縁組で子どもに“新たな親子のきずな”を結ぶ【鮫島医師インタビュー】

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病院で出産後、生まれたばかりの赤ちゃんを抱いた幸せな母親。
●写真はイメージです
globalmoments/gettyimages

「特別養子縁組」は、生みの親が、特別な事情で育てることのできない子どもを、育ての親が実子として法的な親子関係を結んで迎え入れる制度。この制度が発足した当初から現在に至るまで、さまざまな支援活動を続けている鮫島浩二先生。
自分の子を手放す決意をしなくてはならない母親や、里親として子どもを迎える両親、養子として育てられる子どもたちの実際の姿と、この夏実施した養子当事者である子どもたちを養子制度が当たり前のものとして定着しているアメリカへホームステイ留学させるという「スターキッズプロジェクト」について、先生に聞きました。2回インタビューの前編です。

わが子を手放すとき悩み、考え抜いて…

病院で妊娠中の女性
●写真はイメージです
Melpomenem/gettyimages

――まず、「特別養子縁組」について教えてください。

鮫島先生(以下敬称略) 「特別養子縁組」は1988年に制定された制度で、特別な事情で生みの親が子どもを育てられないとき、育ての親が子どもを引き取って、自分の子として育てられるようにと発足したものです。この制度では法律上も親子関係が成立し、養子であるという真実の告知は、子どもの豊かな心の形成を考えて「幼少期に」と推奨されています。本人が家庭裁判所に行けばいきさつがわかるようにもなっています。

――鮫島先生は制度発足当初から支援活動を続けていますが、2013年には医療機関ネットワーク「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会(以下あんさん協)」を立ち上げられました。この会はどのような特徴がありますか?

鮫島 「あんさん協」は、施設に預けられている子どもを児童相談所があっせんする一般的なものと違い、生まれて間もない赤ちゃんを子どもを望む夫婦に託します。生まれて間もない赤ちゃんの置き去り事件、0才児の虐待死が増えているという悲しい現実。こうした赤ちゃんを救いたいという一心で、そして「どんな子でも精いっぱいの愛情を注いで育てる」という両親の元で、生まれてすぐから育てられたほうが、赤ちゃんの幸せによりつながるという思いから活動を開始しました。

若年妊娠、性的暴力、経済的困窮などの複雑な理由で望まぬ妊娠をする女性がいます。一方では、赤ちゃんを望んでもなかなかできない夫婦がいます。この方たちの橋渡しをするのが私たちの行っている活動です。

――自分が産んだ子を手放す決心をしたお母さんは、きっと様々な事情があってのことと思います。複雑な心境のお母さんたちと接するときに気をつけていることはありますか?

鮫島 まずは、おなかの子を愛せないという深刻な問題や、産んでも育てられないと追いつめられているお母さんたちと信頼関係を築くことから始めます。出産のサポートやその後の相談もします。

産後のお母さんたちを見て感じることは、「生まれたらすぐに手放そう」と思っていても、実際に産んで赤ちゃんと触れ合っているうちに愛情が芽生え、子どもを手放す悲しみがとても深くなるということです。でも、だからといって気持ちが変わるわけではありません。愛情が芽生えたことで、自分1人で育てるのと、赤ちゃんを望む夫婦に育てられるのと、どちらが幸せなのか?入院中、そんなことをずっと考えながら、一生懸命に赤ちゃんの世話をしている様子を目にします。

親は悩んで苦しみますが、子どもを手放すということはそういうことなんです。苦しんで悩んで考えなければいけない。「自分で育てる」と気持ちが変わるお母さんもいて、それならそれでいいのです。だれも強制はできません。じっくり考えられる環境づくりをするのも私たちの役割。これまでも少数派ではありますが自分で育てることを選んだ母親もいました。

ただ多くの母親は子どもを手放す決意をしました。
そして、その赤ちゃんたちには、新たな出会いが待っています。

子どもができなかったのはこの子に出会うため

明るい部屋で赤ちゃんの手を握る母親の手
●写真はイメージです
west/gettyimages

――子どもを迎える、育ての親となるお母さん・お父さんが子どもと出会うときは、どのような様子ですか?

鮫島 私たちの「あんさん協」では自治体に里親と認定され登録されることを条件にしています。やっぱり手続きをきちんとして、それからトレーニングを受けて、だいたい1~2年くらいかかります。

そして育ての親になるお母さんには、まず分娩室に入り、分娩台に乗ってもらいます。多くは、長年不妊治療を続けたが、子どもが望めなかった人たちです。分娩台に乗って母親としてゼロからスタートしてほしいという気持ちと、長くつらい不妊治療を経験して、どんなに分娩台に乗りたかったことか…と考えると、そうせずにはいられません。

分娩台の上では、ここで生まれる一般的なお産と同じように、素肌で赤ちゃんを抱いてもらい、助産師の元で互いの服のぬくもりを感じる早期母子接触をしてもらいます。そして、産科医や助産師などのスタッフで母子を囲み、誕生のお祝いも。明かりを落としてキャンドルを持ち、ハッピーバースデーを皆で歌い、ここで産んだという状況をつくります。
「こんなにかわいい子が私のところに」「かわいい、かわいい」と涙しながら語りかけるお母さん。これも1つの本当のお産なのです。

入院中は母子のきずなを結ぶ時間と考えています。2人っきりの時間をつくり“わが子”になってから家に帰ってもらう。お父さんになる人との時間も大切です。ここで新しい親子のきずながつくられる。赤ちゃんの立場から見ても人生が大きく変わるときです。
もしかしたら実親に子育てを放棄されていたかもしれない、虐待で命を落としていたかもしれない。そういう子どもたちが、本当に赤ちゃんを望んでいた家庭で望まれて育っていく…。

「この子を育てるために、私は子どもが産めない体だったんですね」

「この子を産んでくれたお母さんに、ありがとうと伝えたいです」

「こんなにかわいい子を手放すしかなかった生みのお母さん、どんなにつらかったでしょうか」

「この子の親になれなかったら、無条件で愛されること、無条件で信頼される喜びは経験できなかった」

時折送られてくる、育ての両親からの手紙や写真を見ると、今の幸せな生活が伝わってきます。だから私は“新しい形の出産”“新たな親子のきずなづくり”を、これからもずっと続けていこうと思っています。
1人でも多くの子どもが、計り知れないほどの愛情を注いでくれる親の元で育ってほしいですから。

「特別養子縁組」制度の現在について、縁組のそのあとのサポートまで考えてほしい

手をつないで歩く3人のアジアの若い家族
●写真はイメージです
TATSUSHI TAKADA/gettyimages

――制度が施行されてから36年、「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」発足から11年を経て、現在の「特別養子縁組」事情はどのような状況でしょうか?

鮫島 民間のあっせん団体もわりと増えてきています。私たちの「あんさん協」は産婦人科の中での活動なので、参加している25施設の外来に相談に来たなかで「養子縁組しかない」という人がいたら、こちらに相談がくるという形が多いです。
最初は相談に来ても、健診に通ううちに安心感が生まれて、最終的に家族を交えたり、行政も入って話し合っていくと、結局1/3は自分で育てる決断をしています。
とにかく、産むまでは養子縁組ありきではなく、いろいろやり取りをしながら問題を解決していく。“とにかく無事に産む”ということをめざす。入院中も赤ちゃんと接触してもらいます。最終的に養子縁組にまでなるのは、だいたい年間でも20件くらいです。

あっせん団体によっては、ガイドラインでもしてはいけないとされているにも関わらず、とにかく生みのお母さんと赤ちゃんを接触させない、顔も見せないというところもあるようです。インターネットでマッチングして駅で引き渡す…なんて事例もあったり、海外との養子縁組で人身売買まがいの行為を行っていた団体もあったりして、非常に問題を感じます。

またマスコミは生まれた赤ちゃんを預ける“赤ちゃんポスト”について取り上げることが多いですが、これは問題を抱えたお母さんが自分だけでこっそり赤ちゃんを産んで預けようとする、孤立出産を選択する可能性を高めます。孤立出産は母体にも赤ちゃんにも大変危険なことなので、賛成できません。

そもそも孤立出産を選択するような人は、妊娠したかもしれないと思った時点で産婦人科に行くお金もない…という事情の人が多いです。私たちの「あんさん協」では未成年者は無料で診察をするというのを4年前から決めて実施しています。今後は全国的にそのようになってほしいですね。
厚生労働省で令和5年から「低所得の妊婦に対する初回産科受診料支援事業」が始まっているので、自治体によって条件は異なるかもしれませんが初回の受診料を補助してくれるから、ぜひ住んでいる自治体に問い合わせてほしい。

自分と赤ちゃんのために、思いがけない妊娠に悩んでいる人こそ、ひとりで悩まないで、とにかく産婦人科とつながってほしいです。

監修/鮫島浩二先生 取材・文/たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>後編

「妊娠したけれど、赤ちゃんを育てることができない」という事情をかかえた女性たちを産婦人科医として支援してきた鮫島先生。養子縁組で絆を結んだ子どもたちとは、その後も交流を続けています。インタビュー後編では、「自分は養子である」ということを抱えて生きる子どもたちに、新たな視点を持ってもらおうと米国でのホームステイを計画、この夏実施した「スターキッズプロジェクト」について聞きました。

鮫島浩二先生

PROFILE
産婦人科医。さめじまボンディングクリニック院長。1981年東京医科大学卒業。中山産婦人科クリニック副院長などを経て、2006年さめじまボンディングクリニックを開業。2013年「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」を設立、代表を務める。

さめじまボンディングクリニック

あんしん母と子の産婦人科連絡協議会

●掲載している情報は2024年9月現在のものです。

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