おむつに手を入れて便をいじるのをやめさせたい…発達障害がある息子。ウエアの工夫で乗りきるために【体験談】
発達障害のある息子がおむつに手を入れて便をいじる「弄便(ろうべん)」に困っていた、隈本納実さん。おむつに手を入れないようにロンパースを着せるなどして対策していましたが、市販製品がすべてサイズアウトし、途方に暮れてしまいました。そこで、隈本さんは大きめロンパース専門店を自ら立ち上げる決断をします。なぜ、隈本さんは起業の道を選んだのか。その思いや、 息子の成長など、隈本さんに聞きました。全2回のインタビューの後編です。
弄便対策アイテム、ロンパースがなくなる!?「ならば自分でロンパースを作ろう」
――息子さんが3歳半のとき、弄便対策のために着せていたロンパースがすべてサイズアウトして、困ってしまったとのこと。
隈本 はい。私が知る限り、一般的なロンパースは、国内メーカーは90㎝くらいまで、海外メーカーも105cmまでしか市販されていません。末っ子は体が大きかったので、その105cmも3 歳半でパツパツにきつくなっていました。もっと大きいサイズは、肌着や介護用品として販売されていましたが、1枚で着られるような、おしゃれなものがなく、買うのをためらっていました。
息子には発達障害があり、おむつははずれそうもないし、発語がなくて「うんちが出た」と伝えることもできません。そうなると、残された弄便対策は、家族が今まで以上に息子から目を離さないようにするしかない…。でも、それには限界があります。
――そうですよね。24時間ずっと見ているわけにはいきませんよね。
隈本 夫に「どうしよう~?」と相談すると、マーケティングの専門家である夫は、「じゃあ、大きいロンパースを作ってみなよ」と。「あなたが困っているということは、きっと、ほかにも困っている人がいるよね」と言うんです。
この言葉に、私は納得するところがありました。当時、大きめサイズのロンパースを販売していた国内メーカーが、ロンパース市場から撤退するのではないかと、SNSがざわついていたんです。このような嘆きが一定数あるということは、大きめロンパースがほしくて困っている人は私だけではない。ならば、私がメーカーを立ち上げて作ろうと考えました。
――息子さんのものだけを手作りするのではなく、起業を選んだ理由はなんでしょうか?
隈本 息子に必要なロンパースを作って販売すれば、同じように悩むママ・パパの役に立てると思ったからです。また、幸運にも、私は仕事柄、在宅ワーク中心。その合間にできると考えました。
「起業したのに売れないかもしれない」という不安はありましたが、お金を借りない範囲でやってみて、「売れなかったら、末っ子に着せればいいや」くらいの気持ちで、踏み出しました。
半年でオンラインショップをオープン
――発達障害のある、大きな子どものためのロンパースを作るにあたり、こだわったことを教えてください。
隈本さん(以下敬称略) 大事なポイントは、ロンパースが、自分でおむつに手を入れられない構造であること。そのために、おしりまわりにギャザーをしっかり入れて、体にフィットさせたいと考えました。また、着たときにチクチクしないように、タグは外側に。そして、いちばんのこだわりは、いわゆる「肌着」ではない、おしゃれなデザインであることでした。赤ちゃん用のロンパースは、かわいいデザインがたくさん販売されているのに、海外メーカーでも105㎝までしかなく、それ以上は「肌着」や「介助用」で、おでかけで着せたいようなデザインがなかったんです。
――隈本さんは、起業もアパレル業界も未経験なんですよね。オープンまでに、どういう準備をしましたか?
隈本 商工会議所の無料相談を利用して補助金を申請したり、試作品を作ったりしました。試作品の作り方は、本を読んだり、ネットでリサーチ。個人事業主とのマッチングサイトで、型紙を作ってくれるパタンナーさんや、ロンパースを縫ってくれるハンドメイダーさんに依頼し、着想から2カ月で試作品1号ができあがりました。
早速、ドキドキしながら息子に着せてみました。彼は、服がチクチクしたり、着心地が悪いと、嫌がりますが、すんなり着てくれたんです! 「着心地がいいんだ、大成功だ」と思いました。
このロンパースをたくさんの人に届けたくて、少数ロットを工業生産できる会社をネットで探し、50着製造。同時に、ホームページを簡単に自作できるサービスを利用して、オンラインショップも準備完了。こうして市販品のサイズアウトから半年で、ロンパース専門店surge(サージ)をオープンしました。
なかなか売れない! でも、楽しくてやめようと思わなかった。
――オンラインショップの売れ行きはどうでしたか?
隈本 それが…、まったく売れなかったんです。経営コンサルタントに相談すると、課題は、お店の存在が知られていないこと。だからオンラインショップのアクセス数が伸びないと言われました。そこで、発達障害のある息子の経験を交えたブログを書いて、オンラインショップに掲載することにしました。同じ悩みを持つママたちが興味を持ってくれそうな、トイレトレーニング、発語がないときのサポート、療育、診断などをテーマにすれば、ブログを読みにアクセスしてくれると考えたんです。すると、ブログの本数が増えるにつれて、アクセス数が少しずつ増えていきました。
また、大きめロンパースの存在をPRするために、展示会やイベントに積極的に出展しました。地元の小さなイベントから、自治体の経営支援法人主催の展示会、子どもの福祉用具展として歴史がある「キッズフェスタ」にも出展しました。
――ロンパースが売れず、もうやめようとは思わなかったですか?
隈本 それはなかったですね。できあがるまでの工程が楽しくて。自分の思いや工夫をギュッと詰め込んだロンパースが形になったときの、あのうれしさは格別です。むしろ夢中になって、新しいデザインを作っていきました。
しかも、そのロンパースを、ほかでもない息子が快適そうに着ています。このロンパースは、同じように弄便で困っている親子の役に立つに違いない、という思いが強くなっていきました。
イベント出展も楽しいんです。同じ悩みをもつ家族と会って話すことができたし、私がブログをフォローしている障害児家族がブースに来てくれたこともありました。それに、家族みんなが助けてくれて。小学生の娘がブースの準備を手伝ったり、夫はブースに立って海外バイヤーと英語で対応したり、大学生の息子は私の代わりに末っ子の保育園のお迎えをしてくれて、ありがたさを感じました。
――初めて売れたのは、いつでしたか?
隈本 オープンから1年3カ月後です。受注が入ったとわかった瞬間、朝から「っしゃ~!売れた~!」と家族と大騒ぎでした(笑)。オープンから試行錯誤してきたことが、やっと実ってきたと感じています。
子育てはRPGのよう! 息子とともにレベルアップ中
――現在、息子さんは5歳、年中さんですね。成長を感じることはありますか?
隈本 おむつに手を入れておちんちんを触ったり、弄便することが減り、保育園ではロンパースを卒業できました。自宅では、安心のために自社製ロンパースを着せていますが、この前、初めてトイレでうんちができたんです! この数カ月は、弄便の回数がガクンと減りましたね。自宅でもロンパースを卒業できる日が近いかもしれません。
言葉も少しずつ増えています。2年前から療育に通っていますが、以前は、私が「これちょうだい」と言っても無反応だったのに、「ピンクのクレヨンちょうだい」と言うと、ピンクのクレヨンを渡してくれるように。また、文字への興味が進んでいるようで、毎日、絵本を15冊×10回=150回の読み聞かせをしているうちに、ひらがな、カタカナ、アルファベットの絵カードを順番どおりに並べられるようになりました。
ほかにも、運動会のリレーで、ニコニコしながら走りきることができたんです。ゆっくりだけど、確実に成長している。そんな息子の姿に、私は保育園の先生と抱き合って泣いてしまいました。
――すごい成長ですね! 息子さんも、surgeも、これからが楽しみですね。最後に、隈本さんの今後の目標を教えてください。
隈本 ロンパースに限らず、発達障害の子どもがいる家庭の困りごとを、さまざまな視点で支援していきたいです。たとえば、障害のある子どもがいるご家族は、お出かけをあきらめたり、預け先がなくて仕事をあきらめたりしています。私は行政書士なので、行政の複雑な手続きなどについて相談を受けることもできます。障害児に関する支援制度をご家族に伝えることで、あきらめない世界をつくりたい。すべての子どもがすこやかに育つ手助けができればと思っています。
この思いは、末っ子との時間を通して強くなっていて、私自身、息子とともに成長しているなと感じます。なんだか、子育てってRPG(ロールプレイングゲーム)に似たところがあるなと、ふと思うことがあって。もちろん子育てはゲームではありませんが、フィールドに出て行って、いろいろな試練を乗り越えながら、自分のパーティーである家族と共にレベルを上げていく。そこが、RPGと似ていると思うんです。これからも家族と一緒に一つ一つ前進していきたいと思います。
お話・写真提供/隈本納実さん 取材・文/大部陽子、たまひよONLINE編集部
息子の弄便対策に行き詰まったとき、あきらめるのではなく、打開しようと起業した隈本さん。初受注までは試行錯誤でしたが、いまや完売モデルも。当事者ママならではのアイデアで、えりつきロンパースやオーバーオールなど、ハレの日にも使えるモデルも展開されています。
隈本納実さん(くまもとなみ)
PROFILE
発達障害の子ども服専門店 surge代表。行政書士・ファイナンシャルプランナー(AFP)・不動産管理会社代表。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年11月の情報で、現在と異なる場合があります。


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