どれも危険度大!ママと赤ちゃんを結ぶ「胎盤」のトラブルを産婦人科医が解説
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受精卵が子宮内膜に着床(ちゃくしょう)後、細胞の一部が変化して形成されるのが「胎盤」です。妊娠16週ごろに完成し、出産直後にはがれて出てきます。胎盤を通して赤ちゃんはママの血液中から必要なものを受け取り、不要なものを戻すほか、有害物質をある程度遮断する役割もしています。産婦人科医の小川隆吉先生に、妊娠中に気をつけたい胎盤のトラブルについて教えていただきました。
胎盤とは?
「胎盤の内部にはママの血液で満たされたプール(絨毛間腔<じゅうもうかんくう>)があり、そこに赤ちゃん側の毛細血管組織(絨毛)が枝状に伸びている構造になっています。ママと赤ちゃんをつなぐ大切な器官です」(小川先生・以下同)
●大きさ:直径約15~18㎝ 厚さ約1.5~2㎝
●重さ:約500g前後
どんな働きをする?
「胎盤内では、栄養や老廃物などの物質交換、そして酸素や二酸化炭素などのガス交換が行われます。血管内皮と絨毛細胞がフィルターのように隔てているので、ママと赤ちゃんの血液が直接混ざり合うことはありません」
胎盤のトラブル
「胎盤のトラブルは、どれもおなかの赤ちゃんの命にかかわる可能性がある、妊娠中は要注意のトラブルばかりです」
【トラブル1】前置胎盤・低置胎盤
「胎盤と子宮壁にずれが生じた際の出血に注意が必要です」
★どんな症状?
「普通は、子宮の上部に形成される胎盤が、子宮口にかかっていたり覆っていたりする状態を「前置胎盤」、かかっていないけれど位置が低い状態を「低置胎盤(ていちたいばん)」と呼びます」
★原因は?
「原因は不明ですが、受精卵がたまたま低い位置に着床した可能性もあります。また、過去の子宮の手術などによって、上部の子宮内膜の状態が悪いため、子宮口付近に着床せざるを得なかったことも考えられます」
★出産・赤ちゃんへの影響は?
「妊娠32~34週に大出血を起こす場合があり、早産につながる危険性があるので少量の出血でも受診を。お産は、管理入院の上、帝王切開になることが多くなります」
常位胎盤早期剝離
「常位胎盤早期剝離(じょういたいばんそうきはくり)は、母子の命にかかわる、胎盤の緊急トラブルです」
★どんな症状?
「分娩前に胎盤がはがれることで、胎盤と子宮壁の間に血がたまり、胎盤が機能しなくなります。強烈な痛みと、おなかが板のようにかたくなる症状が特徴です」
★原因は?
「多くは原因不明ですが、たまに事故などで強くおなかを打ったときや妊娠高血圧症候群によって引き起こされる場合があります。経験者は、次の妊娠でのリスクが約10倍になるといわれています」
★出産・赤ちゃんへの影響は?
「胎盤の剝離面が広い場合は、子宮内に大出血を起こしやすく、母子ともに危険な状態に。診断されたときは、緊急帝王切開になります」
胎盤機能不全
「胎盤機能不全(たいばんきのうふぜん)は、
胎盤本来の働きができなくなるトラブルです」
★どんな症状?
「胎盤の機能が低下し、赤ちゃんに十分な栄養や酸素が届かなくなるため、赤ちゃんの発育や健康状態に影響することもあります」
★原因は?
「ママが妊娠高血圧症候群や糖尿病などの合併症を抱えていたり、妊娠42週以降の過期妊娠で起こりやすい傾向があります」
★出産・赤ちゃんへの影響は?
「胎盤機能の低下が進行すると、赤ちゃんの元気度が落ちてきます。悪化しないうちに分娩を誘発しますが、経腟分娩が難しい場合は帝王切開になります」
癒着胎盤(ゆちゃくたいばん)
「子宮の手術歴がある人、前置胎盤の人は注意が必要です」
★どんな症状?
「赤ちゃん誕生後間もなく、胎盤が子宮壁からはがれて出てきます。しかし、ごくまれに癒着してはがれないことがあり、これを癒着胎盤と呼びます」
★原因は?
「よくわかっていませんが、子宮筋腫や流産、帝王切開の手術をした人、また、子宮内膜炎、子宮奇形、前置胎盤の人などは、なりやすいといわれています」
★出産・赤ちゃんへの影響は?
「癒着の程度によりますが、医師が手で胎盤をはがす場合も。癒着の程度が強く手でもはがれない場合は、ごくまれに子宮を摘出する例もあります」
こんな症状は緊急受診を!
胎盤にトラブルが起きた場合、下記のような症状が代表的なサインです。すぐ産院に連絡して指示をあおぎましょう。
1.持続的な子宮収縮
「通常のおなかの張りと異なり、しばらく横になっても治まりません。こまかく持続的に起こるさざなみ状のおなかの張りが特徴です」
2.激痛&おなかが板状にかたくなる
「動けないほどの激しい痛みと、おなかが板のようにカチカチにかたくなる症状が続きます。出血はあるケースとないケースがあります」
3.胎動が急になくなる
「2の症状に加え、突然、胎動がまったく感じられなくなってしまった場合は、胎盤がはがれ、赤ちゃんが苦しくなっている可能性があります」
胎盤は、おなかの赤ちゃんがママから酸素や栄養をもらう大切な臓器。胎盤に起きるトラブルの多くは原因がわかっていないものが多く、予防することはむずかしいですが、自分の体に現れた小さなサインも見逃さないことは大切。持続的な子宮の収縮やおなかの激痛、出血などを感じたら、産院に連絡をしてから受診しましょう。(イラスト・堀川直子 文・たまごクラブ編集部)
■監修:小川クリニック 院長 小川隆吉先生
日本医科大学卒業。同大学産婦人科講師、都立築地産院産婦人科医長を経て、1995年より現職。セックスカウンセラーセラピスト協会会員、日本不妊学会会員。
■参考:たまひよブックス「いつでもどこでもHAPPY妊娠・出産ガイドBOOK」(ベネッセコーポレーション刊)
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