ワーキング妊婦のつわりや体調不良 知っておきたい法律や制度、相談窓口
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つわりが始まる妊娠初期は、まだ職場に報告していない人も多いのでは。仕事を続けるつもりの人も、辞めることを考えている人も、知っておくべきことや気を付けたいことがあります。
法律や制度、相談窓口など、ポイントを厚生労働省に聞きました。
上司に報告 つわりがひどい人は「早め」
妊婦さんが無理なく働くには、周囲の理解が必要。とくにつわりがつらい人は、早めに職場に報告したほうがよい場合があります。
安定期に入るまでは秘密にしたい気持ちもわかりますが、報告が遅かったことで上司や同僚との関係が気まずくなったケースや、「負担の重い仕事を続けて切迫流産(せっぱくりゅうざん)になり、後悔した」という声も。
上司や信頼できる同僚にのみ早めに伝え、全体には安定期に入ってからオープンという方法もあります。自分なりのベストなタイミングと方法を見つけて、報告しましょう。
先輩ママ体験談
「妊娠4週に報告。かなり早い時期でしたが、激しいつわりでお休みをお願いするために正直に話しました。初期こそ安静が大事なので早く報告して正解でした」
「勤務中につわりで何度も気分が悪くなり、上司に理由を聞かれ、そのときに伝えました。気まずかったです」
つわりで休む?
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つわりがつらくて働けないママは、職場に相談することが必要になります。そのためには早めにママを守ってくれる法律や制度はもちろん、産休・育休や退職日のルールなどを決めた会社ごとの“就業規則”も知っておきましょう。
医師に「母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)」を書いてもらうという方法もあります。
「迷惑をかけたくない」我慢し過ぎは禁物
働く妊婦は「職場に迷惑をかけたくない」と無理しがち。でも、今いちばん大事なのはおなかの赤ちゃんですよね。上司や同僚に声をかけてもらう前に、自分から「無理をしない」という強い意思を持って。
また、出血やおなかの張りなど、体の異変や不安を感じたら、主治医に相談しましょう。
退職する必要はない
会社が妊娠・出産を理由に解雇したり、退職を強要することは違法です。妊娠したら辞めることが慣例になっている職場でも、仕事を続けたいなら勇気を出して上司に自分の意志を伝えましょう。
それでも退職を強要される場合は、都道府県労働局へ相談しましょう。法律や制度がママを守ってくれます。会社の就業規則や社会人としてのマナーは守りながら、自分の意思はしっかりと伝えましょう。
先輩ママ体験談
「一度辞めると正社員雇用が難しい時代。子育てが一段落したら私は何をするんだろうと考えると不安になり、辞めるという選択肢は出てきませんでした」
「喫煙部屋で片づけをする仕事が毎日あるので続けることは難しくて。理解を得られる職場ではなかったんです」
法律があなたを守ってくれます
●妊娠、出産、産休・育休取得などによる不利益取扱いの禁止
妊娠中の時差通勤や、時間外、休日労働、深夜業の制限、軽易業務転換を請求したことや、妊娠や出産で会社を休んだことなど、妊娠や出産に起因する能率低下等を理由に、解雇や不利益な取扱いをするのは禁止されています。
●時間外、休日労働、深夜業の制限、変形労働時間制の適用制限
妊婦は、時間外労働、休日労働、深夜業の免除を請求できます。業務の繁忙期や暇な時期に応じた労働時間の配分がとられる場合にも、1日および1週間の法定労働時間を超えて労働しないことを請求することもできます。
●軽易業務転換
妊娠中、心身の負担になる重い業務は、負担の軽い業務への転換を請求できます。
●危険有害業務の就業制限
一定以上の重量物の取り扱い、生殖にかかわる有害物質が一定濃度以上発散する場所の業務は妊娠の有無や年齢にかかわらず、全女性が就業禁止です
●妊娠・出産等に関するハラスメントの防止
妊娠した人に対して、産前産後休暇などの制度を利用することへの嫌がらせや、働きにくくする言動などのハラスメント防止対策を会社は講じる義務があります。
休むときはどうしたらいい? 労務担当や労働局に相談を
休む(休むことを考えている)のなら、まずは上司に相談。
その際、退職強要や配置転換などの不利益な扱いを受けたら、まずは会社の労務担当に相談を。労務担当が法律を熟知していない場合もあるので、厚生労働省のサイト「妊娠・出産をサポートする女性にやさしい職場づくりナビ」(→詳しくはこちら)を参考にして。
妊娠・出産をサポートする職場づくりや、働く女性の法制度、問題解決に向かうヒントが紹介されています。労務担当とこのサイトを見ながら相談してもいいですね。
それでも解決できないときは、各都道府県の労働局雇用環境・均等部(室)(→詳しくはこちら)に相談を。
「母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)」を活用しよう!
つわりがひどく、医師から勤務時間の短縮などを指導されたものの上司に言いづらいときは、「母健連絡カード」が助けになります。医師や助産師から事業主に対し、「妊婦さんの症状に応じて職場ではこういう措置をとってください」という指示が書かれたものです。
主治医などの指導内容を書面にして伝えるため、症状や会社にとってほしい措置を的確に会社に伝えることができます。
母健連絡カードは、厚生労働省のHPからダウンロード(→詳しくはこちら)するか、母子健康手帳に記載されているので(一部を除く)、コピーして産院で記入してもらって、会社に提出しましょう。
引き継ぐときは体調をみながらしっかりと
仕事を引き継ぐことになったら、お互いに負担がかからないよう少しずつ準備を進めておきましょう。だれが見てもわかる引き継ぎマニュアルを作る、取引先や関連部署に後任者を紹介するなど、自分の体調をみながら、できることはしっかりと。
「産後も戻ってきてほしい。一緒に頑張りたい」と思われる働き方をして、産後復帰を歓迎してもらえるといいですね。
先輩ママ体験談
「仕事を頼むことが増えて申し訳ない気持ちに。自分でできることはきちんとこなし、頼んだときはしっかりと感謝の気持ちを伝えました」
通勤がつらいなら時差通勤を検討しよう
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つわり期には「車内のにおいでますます気分が悪くなった」、おなかが大きくなると「混雑でおなかが圧迫された」と、妊婦の電車通勤は大変…。
つらいときは時差通勤や勤務時間の短縮をお願いしたり、マタニティストラップを利用して周囲のサポートを受けられるようにしましょう。
うまく利用したい!マタニティストラップ
妊娠初期はおなかが目立たず、周囲に妊婦さんだと気づいてもらえないことも多いので、外出するときは、ぜひマタニティストラップを身に付けて。
「“妊婦だから配慮して”とアピールするのはちょっと…」と、付けない妊婦さんも増えていますが、「妊婦さんなのか迷って席を譲れなくて困ったこともあった」という声もあります。マタニティストラップは「妊婦さんを助けたい」と思う人にも役立っています。
そして、何よりママの力だけではおなかの赤ちゃんを守れないこともあります。マタニティストラップを上手に利用して、周囲の厚意やサポートを感謝の気持ちを持って受け取れるようにしましょう。
退職するなら「健康保険」「年金」「失業給付」を忘れずに
いろいろ考えた末に退職がベストと決断した場合は、社会保険や失業給付に関する手続きがあります。大事なお金に関わることなので、書き換えや申請を忘れずにやっておきましょう。
●健康保険
選択肢は3つ。
1.国民健康保険に入る、2.夫の健康保険に扶養家族として入る、3.(条件を満たしていれば)勤め先の健康保険の任意継続(原則2年)。
まずは会社の総務担当や夫と相談を。
●失業給付
会社を退職した場合、一定の要件を満たせば雇用保険の「失業等給付」を受給できます。受給手続きを行うためには、退職後に会社から発行される「離職票」と必要書類をハローワークまで持参して。
なお、出産、育児などの理由ですぐに働くことができない場合は受給期間を延長することも可能です。受給期間(通常は離職日の翌日から1年間)に加えることができる期間は最大3年間。詳しい手続きについては、厚労省HPもしくは近くのハローワークに問い合わせを。
●年金
年金は加入先の変更が必要です。現在の厚生年金から(1)国民年金、(2)夫の厚生年金、のどちらかに加入することになります。(2)の場合、妻の収入の上限があったり、夫が妻の分の年金を払うことになるので、夫や総務担当と相談を。
妊娠は女性のターニングポイント。「職場に迷惑をかけたくない」「仕事は続けたい」「でもつわりがつらい」…。この決断が人生を左右するとなると、本当に迷いますよね。
つわり期を乗り切れたとしても、「育児休業の期間」「復帰」のタイミングは早めに考えをまとめ、職場に相談する必要があります。
自分を守ってくれる法律や制度は上手に利用しながら、家族と赤ちゃん、そしてママ自身の人生にとって、ベストアンサーを見つけて。
(文/大部陽子、たまごクラブ編集部)
監修/厚生労働省
■文中のコメントは口コミサイト『ウィメンズパーク』の投稿を再編集したものです。