え? 突然の妊娠発覚!梅原佐波、27歳 【小説「ご懐妊!!」Vol.1】
『ご懐妊!!』Vol.1
スターツ出版文庫の大人気小説『ご懐妊!!』が、たまひよWEBにて連載スタート。
広告代理店で仕事に打ち込む佐波27歳。悩みといえば、上司の鬼部長・一色が苦手なことくらい。それなのに、お酒の勢いで彼と一夜をともにしてしまい…
果たして佐波の運命は?
「たまごクラブ」でもおなじみ産科医・大浦訓章先生のひと言解説もお見逃しなく。
プロローグ~奇跡は突然やってくる~①
丸窓に縦線。
この意味がわかる人は、これを手に取ったことのある人。
私は一度上を向いて、「ああ」と呻(うめ)いた。それからもう一度、手の中のスティックを見下ろす。丸窓の縦線は、よりくっきりしていた。
あぁ~マジですか~。
妊娠検査薬、陽性。
梅原(うめはら)佐波(さわ)、二十七歳、独身。私、妊娠している。
心当たりはひとつだけ。彼氏の涼也(りょうや)とは一ヵ月は会ってないし、そういうことは二ヵ月はしていない! ってことは、やっぱりあれだよなぁ。
私の脳裏にうっすら浮かぶ映像。思い当たるのはあの夜だけ……。
あー、私のバカバカバカバカバカ! なんで避妊せずにしちゃったかなぁ?
っていうか、私もあっちもベロベロに酔ってたから……。いやいや、最近のドラマだって、そんなベタな展開はない。あげく妊娠って……。
どうしよう! 私、どうすべき?
ちなみに私は、ひとり暮らしの自宅のトイレでこの煩悶(はんもん)をしております。
とりあえず、これ持って出よう。
トイレから出て、検査したスティックはティッシュを敷いてキッチンカウンターに置き、スマホで妊娠検査薬の当たる確率を調べる。
え? ほぼ百パーセント?
驚愕(きょうがく)の数値に固まる。しかし、正常妊娠か異常妊娠かはわからないらしい。
そうか、子宮外妊娠とか聞いたことあるし……。私は『妊娠してないかも』という期待を込めて考える。
まず病院に行ってみよう。保険証と、あとなにがいるのかな? この検査スティックは持っていくべきなの? 一応、ポリ袋に入れてバッグの内ポケットにイン。
家から出て、会社に休む旨を電話する。時刻は八時少し前。始業は九時だけど、総務の誰かは出社しているだろう。
案の定、二歳上の男性社員が電話に出た。電波の向こうで彼は呑気(のんき)な声。
「お大事に~」
お大事というか、一大事なんだけど。
私はヨロヨロと駅に向かって歩きだす。
ふたつ隣の駅の総合病院を目指す。あそこなら、産婦人科があったはず……。
総合病院の産婦人科で受付を済ませると、まずは検尿コップを渡されてトイレへ向かった。それからたっぷり二時間待って、診察室に呼ばれる。
「最終生理日がこの日で……。今朝、検査薬で陽性ね」
おじさん先生が言った。
「あー、検査薬は見せなくていいから」
あ、そうなのね。私は頬を赤くしながらスティックをバッグに戻した。
「じゃー、診てみましょうか。お隣の内診室に移動してください」
私は看護師さんに案内されながら、お隣に移動。
「下は全部脱いでしまってくださいね。バスタオルをかけて、こちらの椅子に座ってください」
看護師さんに指示され、驚く。
「あの、お腹に機械を当てるんじゃないんですか?」
「お腹にプローブを当てて見えるのは、もう少し赤ちゃんが大きくなってからですよ。子宮や卵巣のチェックもあるし、今日は下からね」
椅子状の内診台に乗せられ、恥ずかしいくらい足が開いていく。
消毒をされたと思ったら、冷たい棒みたいなのが入ってきた! 気持ち悪い感触に、私はうぇーっと顔をしかめた。
「うーん」
グリグリと棒を左右に動かしながら、おじさん先生が言う。
「見えないねぇ」
「え? 赤ちゃん、いないですか?」
思わず嬉しそうに聞いてしまった。先生は答えない。もう一度棒をグリグリやって、最後に指でもグリグリ触って内診終わり。
診察室に戻ると、先生が紙を一枚手渡してくる。
「はい。これエコー写真ね」
それは白枠に真っ黒のペラペラした写真だった。中央に扇状の無数の白のラインが描かれている。
「梅原さんの最終生理日からすると、今日は五週一日にあたるんだけど、排卵日がズレたかな? まだ見えてこないねぇ」
「それは、赤ちゃんはできてないってことですか?」
期待を込めて、身を乗り出してしまう。しかし、先生は持ち上げた右手を左右に振って、あっさり答える。
「いやいや、尿検査でも反応出てるし。妊娠はしてますね」
「子宮外妊娠とか……」
「可能性はゼロじゃないけどね。ほら、このエコーを見て」
おじさん先生が人差し指でエコー写真を指した。
「ここ」
目を凝らす。
「ここに胎嚢(たいのう)が見えてくるかなあって感じ?」
「胎嚢?」
「赤ちゃんが入ってる袋ね」
「はあ」
よくわからず、曖昧に返事する。赤ちゃんって、袋に入っているものなの?
「まあ、まだよくわかんないから、来週また来て」
その言葉に、私は口をポカッと開けた。
はー!? 病院でもよくわからないって、なんなんじゃい! え? 妊娠ってそんなものなの? っていうか、私はどう受け止めればいいわけ?
大混乱のうちに帰宅した私に、その日できることはもうなかった。パニックすぎて会社に行く気力が湧かない。今日中に仕上げなければならない仕事はないし、このまま休みをもらってしまうことにした。
つづく
【小説「ご懐妊!!】次回をお楽しみに
大浦先生アドバイス
【大浦先生アドバイス】市販の妊娠検査薬の妊娠反応はかなり正確ではありますが、説明書の時間通りに使用しないと、妊娠反応が陽性となってしまうことがあります。また、妊娠反応が陰性でも、子宮外妊娠では反応が遅れて出るということもあります。いずれにしても、必ず医師の診断を受けましょうね。
著者/砂川雨路 イラスト/くにみつ 監修/大浦訓章先生
この小説はスターツ出版文庫から刊行されている『ご懐妊!!』より掲載しています。たまひよWEB版は産婦人科医大浦訓章先生の監修のもと一部改訂しております。
砂川雨路
Profile
群馬県出身。東京都在住。著書に、『愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~』『クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした』(ベリーズ文庫)、『僕らの空は群青色』(スターツ出版文庫)などがある。現在、小説サイト「Berry's Cafe」「ノベマ!」にて執筆活動中。『ご懐妊!!』(スターツ出版文庫)は現在3巻まで発売中。テキストリンクなどもはれる。
大浦 訓章先生
Profile
南流山レディスクリニック院長 慈恵医大卒。産婦人科准教授、同大付属病院総合母子健康センター産科部門長、東京母性衛生学会理事、日本周産期新生児学会評議員・副幹事長、日本周産期新生児学会新生児蘇生法委員などを歴任。現在、周産期メンタルヘルス学会評議員、女性スポーツ研究会理事、2020年産科婦人科学会、医会産科診療ガイドライン作成委員、2023年同評価委員。「たまごクラブ」でも監修をつとめる。
ご懐妊!!3~愛は続くよ、どこまでも~
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