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やっぱり妊娠…。梅原佐波どうする? どうなる?【小説「ご懐妊!!」Vol.2】

更新

『ご懐妊!!』Vol.2
スターツ出版文庫の大人気小説『ご懐妊!!』が、たまひよWEBにて連載中。「たまごクラブ」でもおなじみの産科医・大浦訓章先生のひと言解説もお見逃しなく。

●これまでのあらすじ
広告代理店で仕事に打ち込む佐波。悩みといえば、上司の鬼部長・一色が苦手なことくらい。それなのに、お酒の勢いで彼と一夜を共にしてしまい、しかも後日、妊娠が判明!


プロローグ~奇跡は突然やってくる~②

翌日から土日祝日と三連休の間、なにも手につかず悶々と家で過ごした私は、火曜日に出社した。オフィスに到着するなり、デスクに突っ伏す。
 別につわりで気持ち悪いとか、そういうのはない。でも、これから顔を合わせる相手が問題……。私、正常に反応できるかわからない。
「おい、梅原」
 来た! おそるおそる後ろを振り向く。そこには部長、一色(いっしき)褝(ひとえ)がいた。
「一色部長……おはようございます」
「なんだ、おまえ。死にそうな顔だな。生理か?」
 明るくセクハラ……っていうか、その生理が来なくて困ってんじゃい!
 とは言えないので、ひきつった笑顔を返す。それをどう取ったかはわからないけど、部長はふんと鼻で息をついた。
「なんでもいいが、松井(まつい)地所の案件、今日納期だからな。忘れるなよ」
「ああ~、はい! そうでしたね! 松井地所の京橋(きょうばし)のね」
「わかってるなら、とっととやれ」
 彼は冷たく言って、もう私のほうは見ない。
 颯爽(さっそう)とオフィスのデスクの間を抜けていく精悍(せいかん)な姿。
 普段なら、心の中で後ろ姿に悪態をつく。しかし、今日はそんな気分になれない。
 どうしよう……。あんな冷血上司に言う自信ない……。
 お腹の子の父親はあなたです、なんて。

 ランチは近くの牛丼屋にした。別にひとりで入るのなんか気にならない。時間がないときはだいたいひとりで格安ランチだ。
 でも、妊娠報告は気が重い。いや、まだ言う必要ないよね。確定してないし。少なくとも今週の金曜日、産婦人科を再診するまでは、疑いの段階だ。
 よし、仕事を片づけてしまおう。そして今のところは、なるべく接点を減らしておこう。決意して、会社に戻った。
 それほど大きくないけど、業績優秀な広告代理店『アプローズ株式会社』。私はこの会社の不動産担当グループで、グラフィックデザイナーをしている。具体的には物件広告のデザインをする仕事だ。自分で一から作り上げるわけではなく、必要な素材はクライアントがくれる。それらを並び替えてデザインを構築することがほとんどで、それほどクリエイティブとはいえない。それでも、毎日楽しくこなしている。
 昼休みの残りを使って、本日が納期の仕事を片づけた。
 よーし、一色大部長殿に見せてやろうと探すけど、部長はいない。営業に同行していて、いないのなんてしょっちゅうだけれど。
「あの……、一色部長は?」
 副部長にあたる女性、和泉(いずみ)さんに声をかけた。
「あら? ウメちゃん知らないの? 部長なら、今日からシンガポールに出張」
「え!? いつまでですか?」
「十二月の頭。何日までだっけなぁ。あ、松井地所の案件は私がチェックするよう言われてるから、見るわよ」
 完成したデザイン見本を渡しながら、愕然とした。
 十二月頭って、三週間後じゃん……。もし妊娠してたら、お腹の子は何ヵ月になるんだろう。
 いっ……言いそびれた! 完全に機を逸した……。
 うわぁぁぁ! どうしよう!

 翌日、いても立ってもいられなくなった私は、有給休暇を使って再び病院へやってきた。本日も二時間以上待って、診察室に呼ばれる。
「すみません。仕事の関係で今日しか来られなくて」
 軽く嘘をつきつつ、嫌な思い出の残る内診台へ向かう。例の妙な機械を下から入れられ、気持ち悪いと顔を歪めていると、おじさん先生の声が聞こえた。
「お、見えた、見えた」
 え?
「ほら、梅原さん。モニター見て」
 言われるままに、天井に斜めにくっついたモニターを見る。
 例の真っ黒な画面に、ポチッと細いラインでイビツな円ができている。すごくちっちゃいけど。
「これ、胎嚢。赤ちゃんの姿はまだ見えないけどね。はい、妊娠してますね」
 ここにきてようやく、先生は『妊娠』と言いきった。それは、まだどこかで間違いだと思いたかった私の、安易で薄っぺらい気持ちをぶっ飛ばした。
「おめでとうって、言っていいのかな?」
 おじさん先生が言った。私が〝未婚〟欄に丸をしていることを先生は知っている。
「か……考えさせてください……」
 私は内診台の上で言った。声が震えていた。
 梅原佐波、二十七歳。
 やっぱり、やっぱり妊娠してます……。 

つづく
【小説「ご懐妊!!】次回をお楽しみに


大浦先生アドバイス

【大浦先生アドバイス】妊娠の診断は1週間ごとでなければ何も診断できないことが多いものです。たとえば、妊娠反応がでてから約1週間で胎嚢がみえ、その後約1週間で胎児の心拍が見えます。知りたい気持ちはとてもよくわかりますが、がまんして一週間後に病院にいくのがおすすめです。

著者/砂川雨路  イラスト/くにみつ 監修/大浦訓章先生

この小説はスターツ出版文庫から刊行されている『ご懐妊!!』より掲載しています。たまひよWEB版は産婦人科医大浦訓章先生の監修のもと一部改訂しております。


砂川雨路
Profile
群馬県出身。東京都在住。著書に、『愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~』『クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした』(ベリーズ文庫)、『僕らの空は群青色』(スターツ出版文庫)などがある。現在、小説サイト「Berry's Cafe」「ノベマ!」にて執筆活動中。『ご懐妊!!』(スターツ出版文庫)は現在3巻まで発売中。テキストリンクなどもはれる。

大浦 訓章先生
Profile 
南流山レディスクリニック院長 慈恵医大卒。産婦人科准教授、同大付属病院総合母子健康センター産科部門長、東京母性衛生学会理事、日本周産期新生児学会評議員・副幹事長、日本周産期新生児学会新生児蘇生法委員などを歴任。現在、周産期メンタルヘルス学会評議員、女性スポーツ研究会理事、2020年産科婦人科学会、医会産科診療ガイドライン作成委員、2023年同評価委員。「たまごクラブ」でも監修をつとめる。

南流山レディスクリニック

ご懐妊!!3~愛は続くよ、どこまでも~

OLの佐波は、苦手な超イケメンの鬼部長・一色とお酒の勢いで一夜を共にしてしまう。しかも後日、妊娠が判明! 迷った末、彼に打ち明けると…。大人気シリーズ、ついに3巻発売!

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