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増える日本の無痛分娩希望者、安全性は? 今後の普及の可能性と課題について【専門家】

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コーヴィッド-19の帝王切開によって生まれた
Dario Sintoni/gettyimages

最近、よく耳にする「無痛分娩」という言葉。産婦人科医と麻酔医のダブル専門医であり、現在は無痛分娩を行う産院に対し、質と安全性をより高めるためのコンサルティングを手がける、LA Solutions代表・入駒慎吾先生に、無痛分娩の施設を選ぶポイント、気になる安全性、日本でもっと普及するためのポイントなどについて聞きました。

過去には、医療事故の報道も。無痛分娩の安全性は?

――最近は、妊娠したら、出産は無痛分娩と考えている人も増えてきているようです。いい施設かどうかを見極めるポイントはありますか?

入駒先生(以下敬称略) これは実際に経験された妊婦さんたちの、口コミ情報がいちばんだと思います。僕のクライアントである産院はもちろんおすすめですが、そうでない場合、実際に経験された人に聞くのがいちばんです。

――日本では2017年に無痛分娩の医療事故について、センセーショナルに報道されたことがありました。無痛分娩の安全性については、だれもが気になるところだと思います。

入駒 安全性については、実はものさしがないんです。たとえば、日本の無痛分娩は麻酔科医ではなく、産婦人科の医師が麻酔を行うことが多いですが、それが危険かというとまったくそうではありません。逆に専門の麻酔科医がクリニックに在籍しているとうたっていても、24時間365日いるわけでもありません。

ただ、ふつうのお産でも悪いうわさが聞こえてくるような施設では、無痛分娩をするのはやめておいたほうがいいということは言えると思います。

無痛分娩に対する緊急提言はどう考える?

――医療事故報道のきっかけとして、2017年4月の日本産科婦人科学会において無痛分娩に対する緊急提言がありました。

入駒 そうですね。当時、妊産婦死亡症例検討評価委員会が調査したところ、死亡症例の5.2%に無痛分娩が施行されていたと出てしまい、あのような提言が出されることになりました。ただ、これは10年も前の2007年の無痛分娩率・2.6%をもとに計算されたもの。ただ、提言が出されたあと、徹底的に調査したところ、2016年の時点で日本の無痛分娩率はお産全体の6.1%まで引き上がっていることがわかり、そもそもの母数がまったく違っていたわけですね。そのことを踏まえて計算し直すと、結局、妊産婦の死亡率は、ふつうのお産と変わらない、無痛分娩だからといって亡くなりやすいわけではないということになったのです。

――そうなんですね。当時のあの緊急提言と医療事故報道はとても衝撃的でした。

入駒 そもそも無痛分娩の医療事故報道は、事故が急増したように見えているものの、2017年時点で過去に起きたものをピックアップしただけで、決して急に増えたわけではありません。ただ、2017年の緊急提言と報道以降、無痛分娩にていねいに向き合っていなかった病院は無痛分娩をやめたと思われるので、ボトムアップになったかもしれません。
今は多くの産院で「ちゃんとしなきゃ!」という気運が高まっていて、いろいろな取り組みがされていますし、僕も無痛分娩の質と安全性を高めるために、コンサルティング業を行っています。

日本の無痛分娩普及率は6.1%。これからもっと増えるには?

――日本の無痛分娩率は先ほどの6.1%が最新の数字ですよね。これから日本で拡大していくには、何が必要だと思いますか?

入駒 妊婦さん側の話だと、お産に対するリテラシーの向上でしょうか。お産の見方を変えるということですね。もともと日本では、“出産とは産みの苦しみを味わってこそ”、“痛みはしかたのないもの”ととらえるカルチャーがあって、それが普及を止めていると考えられます。ただ、それはどうにもできないわけはなく、無痛分娩を経験した人の比率が自分の属するコミュニティーの中で高まると、“出産だって痛くないほうがいい”という考えが、これまでの考えを凌駕していくはずなんです。

たとえば、身近なものを例にすると、最初にiPhoneが出たときは、よっぽどの新しもの好きしか手を出さなかったわけですよね。“iPhoneってのが出るらしい。便利らしいよ”と言われても、ほとんどの人は動きませんでした。でも、今ではみんな当たり前のように持っている。それと一緒で、まずは無痛分娩というものを目の当たりしないとダメで、無痛分娩を経験したことがある人がまわりで増えていくと、あるところでブレイクスルーが起きて、一気に広まるのではないかと僕は考えています。

――知らないものに対しての恐怖っていうのはあると思います。先ほどの医療事故の話を引き合いに両親や夫に反対されたという話も聞いたことがあります。

入駒 “親ブロック”、“夫ブロック”といわれるものですね。自分の持つ少ない情報が医療事故に関するものなら、そうなると思います。ただ、両親や夫のブロックにあったとしても、知り合いの人何人もから『いいよ!無痛分娩!』と言われて、そのメリットとデメリットが論理的に説明できるものなら、それだけでブロックはすぐに崩れるのではないでしょうか。

無痛分娩の普及には地域差が。東京に一極集中!

――無痛分娩の普及率に地域差はありますか?

入駒 明らかにあります。個人的な印象だと、東京の産院だけが無痛分娩をしたい妊婦さんの取り合いになっています。無痛分娩の施設が多い東京では、経験した人の数も多いぶん、すでに価値観のブレイクスルーが起き始めていて、無痛分娩に対する抵抗感が少なくなっていると考えられます。だから、余計に選択する人が増えていきますが、地方だとそうなるのは、なかなか難しいのかもしれません。

先ほども言ったように、普及には、まずサービスを提供して目の当たりにすることが大事。つまりは無痛分娩を行う医療機関がどれだけ増えるかにかかっていると思われます。ただ、世の中の無痛分娩に対する潜在ニーズがあると仮定しても、どのくらいの医療機関がサービスを提供できるか、残念ながら僕にはわかりません。今はコロナ禍の影響で、どこも苦しい状況なので…。

――無痛分娩のサービスを提供といっても、ハードルが高そうですね。

入駒 ベテランの産科医が、今から新しく無痛分娩を始めるというのはなかなか難しいと思います。開業産科医院の2世3世の医師が新しく勉強して取り入れるとか、若い医師が無痛分娩ありきで開業するなど、次世代の医師の取り組みがメインになるのではないでしょうか。
また、総合病院になると、いろんな科の医師やスタッフがかかわってくるので、その病院の院長直々のプロジェクトくらいでないと、部門間の衝突が起きて本格的に進めることは難しいと感じています。

――入駒先生自身は無痛分娩をもっと普及していきたいとお考えですか?

入駒 実は僕自身は、無痛分娩を世に広げるためにやっているわけではないんです。そうではなく、ただ、質と安全性の高い無痛分娩をそれぞれの産院が提供できるようにと考えて、仕事をしています。しかし、いい無痛分娩を提供すると、必然的に選択する妊婦さんの人数が増えていきますし、サービスの質を上げるためには、たくさんの人が利用して、スケールアップさせる必要がある。マイナーなサービスでは、向上は見込めないからです。ですので、普及を掲げてやっているわけではないけれど、質と安全性を上げるには、普及の道を避けて通れない。それが僕の本音です。

お話・監修・資料提供/入駒慎吾先生(LA Solutions) 取材・文/江原めぐみ、ひよこクラブ編集部

無痛分娩の質と安全性の向上をめざしている入駒先生は「無痛分娩の普及には、コミニティの中で、どんどん広まっていくことが大事」と言います。経験したママは、これからの妊婦さん、これから妊娠する女性のためにもどんどんその体験を伝えていってはいかがでしょうか。あなたのその声が、普及拡大の一助となるかもしれません。

監修/入駒慎吾 先生(いりこましんご)

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