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「逃げ恥」でも話題の無痛分娩、少子化対策やコロナ対応にも貢献【専門家】

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新しいボルン、彼の母親と赤ちゃん
AleMoraes244/gettyimages

2021年の年始に放送された「逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル‼︎」(TBS系)で、主人公のみくりが、無痛分娩で出産したことを覚えている人も多いのではないでしょうか? ここ数年、よく耳にするようになった無痛分娩。
無痛分娩とはどんなものか、日本で多いスタイル、メリット・デメリット、新型コロナウイルスとの関連話まで、入駒慎吾先生に聞きました。入駒先生は産婦人科医と麻酔医のダブル専門医であり、現在は無痛分娩を行う産院に対し、より安全性を高めるためのコンサルティングを手がける、LA Solutions代表です。

日本で主流の無痛分娩は、硬膜外麻酔&計画分娩

――無痛分娩とはどんな分娩方法でしょうか? わかりやすく教えてください。

入駒先生(以下敬称略) 痛み止めの麻酔薬を注入して陣痛をやわらげるプロセスのことを、無痛分娩と呼びます。方法としては、一般的に硬膜外麻酔(こうまくがいますい)と脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔の2種類です。どちらも、薬を通す管(カテーテル)を硬膜外腔というスペースに入れておくことは同じです。ただ、脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔は、最初に硬膜外腔のより奥にある脊髄くも膜下腔という脊髄と髄液で満たされたスペースに麻酔薬を注入します。

また、そういった麻酔薬を注入する場所の違いに加えて、注入のタイミングの違いがあります。入院する日を決めて、促進剤で陣痛を誘発して麻酔を始める計画分娩と呼ばれる方法と、自然に陣痛が来てから入院して、麻酔を始める方法があります。

麻酔法が大きく分けて2つ、麻酔を始めるタイミングも大きく分けて2つ。日本で主流なのは、硬膜外麻酔の、計画分娩です。ちなみに計画無痛分娩は、欧米などではほぼ見られず、日本で生まれた出産方法といえます。

日本と無痛分娩が盛んな欧米では医療構造が異なる

――日本の計画無痛分娩は、欧米ではスタンダードではないのですね。それは、なぜでしょう? 

入駒 日本と北米などの国々では、医療の構造がまったく違うからです。無痛分娩が盛んなあちらでは、お産の施設が集約されていることが多く、施設が大規模で、一施設での分娩数もものすごい数です。その施設には産婦人科医と麻酔科医の両方が在籍しています。

一方、日本は、小規模の産婦人科が点在し、クリニックで産婦人科の先生が麻酔を行うのが主流です。人的リソースも限られているので、より安全な環境が整えられる、日中の時間にお産が進むように、計画無痛分娩を取り入れている施設が多いんです。
日本で多い計画無痛分娩ですが、これは無痛分娩の手技や考え方が他国に比べて劣っているというわけでは決してなく、むしろ安全に行うために進化を遂げたものなのです。

「痛みが減る」ことが、さまざまなメリットを生み出す

――入駒先生の考える無痛分娩のメリットとデメリットを教えてください。

入駒 妊婦さんにとってのメリットは痛みが軽くなることですよね。痛いのが嫌という人や、痛すぎた結果取り乱してしまう妊婦さんもいるので、そういう心配がある場合におすすめです。また、陣痛による痛みで心臓に負担がかかる恐れがあるケース、血圧が上がって困るといったケースには、リスクが下がるので、とてもいいと思います。

逆にデメリットは、薬を入れているときに足がしびれる、尿が出せない、皮膚がかゆくなるなどの症状が、ときどき見られることです。また、分娩時間が長くなりやすい、鉗子(かんし)分娩や吸引分娩の確率が高くなる、そのため、出血量が多くなる可能性があるなどが知られています。    

――陣痛の痛みはゼロになりますか?

入駒 陣痛の痛みがゼロになるかどうかは、挿入したカテーテルの先端の位置がいい場所にあって、薬がきちんと広がるかによるところが大きいのです。実際、カテーテルは背骨の隙間すき間挿入し、医師も見えない中で進めていきます。ですので、運による要素も大きい。あとは、もちろん、医師のテクニカルな要素もあります。ただ、薬を注入すると、実際に「痛みがゼロだった」とおっしゃる妊婦さんは多いですよ。ただ、日本においては無痛分娩の方法と考え方がまだ統一されてはいないので、産院によっては「痛みを残しておく」という方法をとることもあるようです。

――メリットに関して、ママのお産の疲労が軽いということをよく聞きます。

入駒 痛みが少ないぶん、疲労は軽いと思います。たとえば、イギリス王室のキャサリン妃は、出産後すぐにメディアの前に出てきましたよね。あれはきっと無痛分娩をしているからこそ、なせることではないかと思います。ただ、会陰(えいん)の傷などの痛みは、麻酔が切れると痛いので、それはふつうのお産と同じです。

無痛分娩は少子化の解決に貢献するかも!?

――お産の痛みが怖いけど、無痛分娩だったら、妊娠しようという人もいるかもしれません。

入駒 僕も調べたことがあるのですが、今のところは、無痛分娩があるから妊娠しようという人はあまりいないようです。ただ、経産経産婦(けいさんぷ)がもう1人産むための動機づけにはなるかもしれません。

今、アンケート調査を進めているんですが、無痛分娩のお産をし終わった直後に『無痛分娩があったら、もう1人産みますか?』という質問を、初産初産婦(しょさんぷ)84名、経産婦さん110名の計194名に聞いてみました。
初産婦さんで“もう1人産める!”と回答をした人が72名、 “いやー”といった類の回答をした人がたったの12名。この194名から335名の子どもがすでに生まれているのですが、さらに72名が回答に答えたようにもう1人産むと、407名になりますよね。407名(子どもの数)を194名(母親の数)で割ると、2以上になります。
つまりは、無痛分娩を行った人たちは、1人あたり子どもを2人出産すると仮定できます。日本の合計特殊出生率を考えると、これはとんでもない数字。僕は無痛分娩が少子化対策の貢献になるのではと考えています。

――コロナ禍において、無痛分娩は増えてますか? 減っていますか?

入駒 今、少子化で世の中のお産総数は減っています。しかし、僕がコンサルしている施設の無痛分娩数は、増えています。これには僕も驚きました。“コロナ禍で立ち合いができないなら、1人でがんばるためにも痛くないほうがいい”という考えの妊婦さんが増えているようです。

お話・監修・資料提供/入駒慎吾先生(LA Solutions)取材・文/江原めぐみ、ひよこクラブ編集部

新型コロナウイルス対策の影響で、無痛分娩を選択する妊婦さんが増えているという話は興味深いです。今の日本では、まだまだ普及率が低く、したいと思っても、対応する産院が少ないことが現状であるという課題でもありますが、将来、多くの妊婦さんが一つの選択肢として、あたりまえのように選べる未来も来るかもしれません。


入駒慎吾先生(いりこましんご)

Profile 
1971年熊本県生まれ。1997年島根医科大学(現・島根大学)卒業。産婦人科専門医と麻酔科専門医、MBAの資格を保持。「無痛分娩の安全性と質の向上」を掲げて、2017年にLA Solutionsを立ち上げ、世界初の無痛分娩コンサルティング業に従事する。

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