【産科医に聞く】妊婦は新型コロナウイルスワクチンを接種できる?できない?
日本でもようやく接種が始まった新型コロナウイルスワクチン。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかけるものとして、大きな期待がかかっていますが、妊婦はこのワクチンを接種していいのでしょうか。2021年3月時点での日本国内での見解について、昭和大学江東豊洲病院周産期センター長の大槻克文先生に話を聞きました。
*新型コロナ感染症は未知のことが多い病気です。本記事掲載後に新しい知見や情報が発表される可能性があります。その点も考慮しながらお読みください。
新型コロナウイルスワクチンの安全性と有効性に関するデータはまだ不十分
――日本産婦人科感染症学会と日本産科婦人科学会が1月27日に出した「COVID-19ワクチン接種を考慮する妊婦さんならびに妊娠を希望する方へ」という文書には、「現時点では妊婦に対する安全性、とくに中長期的な副反応、胎児および出生児への安全性は確立していない」とあります。日本より早くワクチン接種を開始した国では、妊婦への接種でのトラブル例は報告されていますか。
大槻先生(以下、敬称略) 新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでいる国では、医療従事者などで希望する妊婦さんにも接種していて、2月までの時点で、妊婦さんに接種したことによる有害事象は報告されていません。
ただし、新型コロナのワクチンは半年間という非常に短い期間で開発されたため、十分な臨床データは集まっておらず、有効性や安全性に関してはまだはっきりしたことは言えないのです。
――アメリカの製薬会社ファイザーとドイツのバイオ企業ビオンテックは、3月から妊婦さんを対象にした臨床試験(治験)を始めたそうです。妊婦さんへの安全性や有効性が明らかになるのはどれくらい先になりそうでしょうか。
大槻 妊婦さんへのワクチン接種の有効性や安全性の臨床研究を行うには、接種した妊婦さんの追跡調査を行わなければいけません。しかも、データの信ぴょう性を高めるには、相当数の接種例が必要になります。臨床研究の結果が出るには数年かかるでしょう。
現状では妊婦さんへの十分な知見がないことから、「妊婦をワクチン接種対象から除外はしないけれど、感染リスクや重症化リスクが高くない妊婦には奨励しない」というのが、日本産婦人科感染症学会と日本産科婦人科学会の見解です。
――日本以外の国ではどのような考え方をしているのでしょうか。
大槻 イギリスは「リスクが高い妊婦さん以外は受けるべきではない」、EUは「よく考えてから接種しましょう」、WHOは「接種のリスクより感染リスクが上回る場合だけ接種しましょう。推奨はしません」、アメリカは「妊婦さんも接種することはできます」といった説明をしています。
国によって考え方がかなり異なっているのがわかりますね。ワクチンの有効性や安全性に関するデータがそろっておらず、「これが正解」というものがないからです。
感染リスク・重症化リスクが高い妊婦さんはワクチン接種を検討しても
――日本国内で、妊婦さんが新型コロナウイルスワクチンの接種を検討するのは、どのようなケースですか。
大槻 妊婦さん本人および同居している家族が、感染リスクの高い医療従事者や高齢者施設の従事者であったり、感染すると重症化するリスクが高くなる肥満、糖尿病、高血圧などの基礎疾患があったりする場合です。
これらに該当して接種を希望する妊婦さんは、まず、新型コロナウイルスワクチンについての説明を十分に受け、長期的な副反応は不明で、胎児および出生児への影響についてはまだわかっていないということを納得したうえで受けることが大切です。
そして、母児管理のできる産婦人科施設などで接種するようにしてください。接種後30分は院内での経過観察が必要で、接種前と後にエコー検査などで胎児の心拍数を確認するのが望ましいとされています。接種の影響で胎児に何かトラブルが現れるとしたら、心拍数に変化が出ると予想されるからです。
なお、新型コロナウイルスワクチンが胎児に与える影響が不明なため、胎児の体の基礎が作られる器官形成期(妊娠12週まで)は、接種を避けてください。
これから妊娠したいと考えていて、ワクチン接種も希望する人は、可能であれば妊娠前に接種しましょう。
――妊婦さんは、妊娠していない人に比べて副反応が出やすいなどのリスクはあるでしょうか。
大槻 妊娠しているという理由で、副反応が現れやすくなったり、反応が激しく現れたりしたということは、今のところ報告されていません。妊婦さんの接種が増えてきたら見解が変わる可能性がないとは言えませんが、今のところ、副反応については妊娠していない人と同じと考えていいでしょう。
手指消毒などの感染予防対策+家族のワクチン接種でウイルスを遠ざけよう
――新型コロナウイルスワクチンについてはまだわかっていないことが多いので、感染リスクや重症化リスクが高くない妊婦さんは、ワクチン接種以外の方法で感染を予防することを考えるべきなんですね。
大槻 そうです。手指消毒を徹底する、不要な外出を避ける、仕事をしている人は可能な限りテレワークにして人との接触を避けるなど、これまでも行ってきた方法で感染を予防してください。
一般の人もワクチン接種ができるように
なったら、妊婦さんと同居する家族がワクチンを接種して、家庭にウイルスを持ち込まないようにすることも考えましょう。
取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
世界的に見ても、新型コロナウイルスワクチンに関するデータは少なく、安全性や有効性についてはわからないことが多いというのが現状のようです。感染リスクや重症化リスクが高くない妊婦さんは、ワクチン以外の方法で感染予防対策を徹底しましょう。