コロナ禍、子どものスマホやゲームの時間が増加傾向。ブルーライトカット眼鏡では目の健康は守れない【眼科医】
子どもがスマートフォンやタブレットなどで動画を見たり、ゲームをしたりすると気になるのが目のことです。2021年4月には日本小児眼科学会などが「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」を発表しています。気になるブルーライトのことや、子どもが液晶画面を長時間見続けるリスクについて、国立成育医療研究センター眼科診療部長 仁科幸子先生に聞きました。
ブルーライトカット眼鏡が、子どもの目を守る根拠はなし!
2021年4月、日本小児眼科学会などが「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」を発表しました。理由の1つには、文部科学省のGIGAスクール構想により、ブルーライトカット眼鏡を子どもにかけさせようとする動きが出てきたためだといいます。GIGAスクール構想とは、小学校などで1人1台の端末(タブレットなど)をそろえてICT(情報通信技術)環境を整えていく試みです。
「GIGAスクール構想に伴い、都内のある自治体では、眼鏡店から区立の全小中学生にブルーライトカット眼鏡の寄贈を受ける予定がありました。しかし東京都眼科医会や関連学会からの反対意見があり、この企画は中止になりました。
ブルーライトカット眼鏡というと“タブレットやパソコンなどから発せられる強い光(ブルーライト)から、子どもの目を守れる”と考えているママやパパは多いのですが、それは間違いです」(仁科先生)
ブルーライトカット眼鏡を常時つけるほうが、子どもの目にはリスクが
ブルーライトとは、可視光線の一部で380~495nm(ナノメートル)の波長をもつ青色光のこと。太陽光にも含まれていますが、パソコンやスマートフォン、タブレットなどの画面やLED照明から発せられるブルーライトを浴び続けていると眼精疲労や頭痛、肩こり、睡眠障害をもたらすという説があります。
ブルーライトカット眼鏡は、そうしたブルーライトを抑え、眼精疲労などを防ぐための眼鏡として販売されており、度が入っているものと、度が入っていないものがあります。しかし最新の研究結果では、ブルーライトカット眼鏡に眼精疲労を軽減する効果はないと報告されています。
「タブレットなどの液晶画面から発せられるブルーライトは、太陽光に含まれているブルーライトよりもごく少ないです。ブルーライトカット眼鏡を使わないと網膜に障害を受けるレベルではありません。ブルーライトをカットする効果があるとうたわれている、ゲーム機などの画面を保護するシートなども同様です。ブルーライトを過度に恐れる必要はありません。それよりもブルーライトカット眼鏡を常時つけるほうが、子どもの心身や目にとってリスクが大きいかもしれません。子どもの目は十分に太陽光を浴びることで近視の進行を抑えることができます。しかしブルーライトカット眼鏡をしていると、十分に太陽の光を浴びられず、近視が進行しやすくなる可能性があります」(仁科先生)
子どもの目は0~6歳に発達。ゲームの時間などを見直して
子どもの目は0~6歳が最も発達する時期だそう。仁科先生は、ブルーライトカット眼鏡を装着するよりも、ゲームの時間など環境を見直すほうが、子どもの目を守るためには必要と言います。
「視力は、
生まれたばかり 0.01程度
1歳ごろ 0.1程度
2歳ごろ 0.2~0.3程度
3歳ごろ 0.5程度
4~5歳ごろ 1.0程度
8~9歳ごろ 1.5程度
になります。目を動かしたり、遠近にピントを合わせたり、両目で立体視をする機能も6歳までに発達します。そのためとくに6歳までは、近距離でのゲームのし過ぎには注意してください。2歳まではとくに感受性が高いので、ゲーム機器を与えないほうがいいでしょう」(仁科先生)
仁科先生がすすめる、子どもの目を守るためのポイントは次の4つです。
【Point1】ゲームや動画の時間は親が管理する
0~2歳は、目や脳が最も発達する時期。そのためスマホやタブレットで動画などを見せるのはやめましょう。3歳以降は1日30分まで。15分したら1回休憩。小学生は1日1時間まで。30分したら1回休憩をとるのが基本です。子どもに任せるのではなく、親が時間を管理して声をかけてください。ゲームや動画は依存性があるので、15分で終わるなど時間で区切れるものを選びましょう。
【Point2】目の休憩は遠くを見せる
ゲームや動画をして、目を休憩させるときはなるべく遠くを見せるようにしてください。「15分ゲームをしたから、公園で遊ぼう」など、外に誘うといいでしょう。
【Point3】なるべく大きい液晶画面を選ぶ
近視などを防ぐには、なるべく大きい液晶画面のものを選びましょう。携帯用のゲーム機やスマートフォンよりは、タブレットのほうがいいでしょう。またタブレットよりは、テレビ画面を離れて見たほうが目を守ることができます。
【Point4】乳幼児期は、目と手を使った遊びをさせる
目の発達は、脳の発達とも深いかかわりがあります。そのため乳幼児は、とくに目と手を一緒に使う遊びをさせましょう。積み木を積んだり、ブロック遊びをしたりするのがおすすめです。
コロナ禍、長時間におよぶゲームや動画から急性斜視になる子も
長時間におよぶゲームや動画の視聴が習慣化すると「近視が心配」というママやパパは多いのですが、中には急性斜視になる子もいます。
「子どもの斜視は、早期に発見して対処しないと治らないこともあります。コロナ禍で、ゲームや動画を見る時間が増えて、急性斜視になる子もいます。そんなお子さんの例を紹介します。
親が在宅ワークをするため、静かにしてほしくて2歳の子に、1日6~7時間タブレットを与えていました。そうした習慣が3~4カ月続いたある日、子どもの黒目が内側に寄る内斜視に。小さなお子さんはいったん斜視になってしまうと、自然に回復しないことが多く、手術でしか治すことはできません」(仁科先生)
子どもは、大人のように眼精疲労を感じにくいので、目が疲れたから自分からゲームをやめたり、親に目の不調を伝えたりすることがあまりないそうです。そのため早期発見・早期治療をするには、親が子どもの異変に気づくことが大切だと言います。
「わずかな時間でも黒目が寄っていたり、黒目が外側を向いていたりした場合は、すぐに小児眼科を受診してください。まばたきが多い、目つきが悪い、目をこする、目を細める、見にくそうにするときも受診が必要です。子どもは両目で見る機能が未発達なので、中には片目でしか見ていない子もいます。6歳までにしっかり両眼視機能(立体視)を発達させておかないと、その後の生活にいろいろと支障が出てきます。そのため気になる様子があるときは、子どもの目に詳しい小児眼科を受診しましょう」(仁科先生)
取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
目の検査は生まれてすぐには行わないので、小さな子どもの異変に気づけるのは、ママやパパだと仁科先生は言います。子どもの目は未発達で、大人の目とは違います。そのためブルーライトカット眼鏡のように、たとえ度が入っていなくても安易に眼鏡を与えるのは慎重に考えた方が良さそうです。子どもの目のことで迷われたら、ぜひ眼科に相談を。