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新米パパが“ママの視点”で見つめたら、世界が変わった。朝から晩まで仕事に没頭していた「普通のパパ」が育休を経験して、たどりついた答え

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本特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも育てやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

今回は、たまひよが掲げる「つながる、チーム出産育児」のヒントを探るべく、『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』の著者である前田晃平さんにインタビュー。令和元年に第一子となる娘さんが生まれ、パパとなった前田さん。2カ月間の育休をとり、育休後も妻と一緒に家事・育児を担う生活を送ることで、社会の見え方が一変したと語ります。育休を取得したことで前田さんに起こった変化とは? 

■profile

前田晃平さん

パパだって当事者なのに…家庭における“父親の不在”への違和感

前田晃平さん

―― 前田さんは5月に、書籍『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』を上梓されました。どんなきっかけで、この本を書かれたのでしょうか。

前田さん(以下敬称略):僕自身、子どもが生まれて育休をとったことで、見えていた世界が一変しました。家事や育児を担うようになって初めて気づいたことがたくさんあります。

その一つが、親子にまつわる社会問題について語られるとき、いつも当事者は「女性」であるということ。

たとえば子どもが車の中で熱中症になったというニュースが流れると、まっ先に「そのときお母さんは、どこにいたの?」と言われます。不思議と「お父さんは、何してたの?」とは言われません。シングルマザーの貧困問題だってそうです。シングルマザーの給料や生活費ばかりが注目されますが、養育費を払うべき父親は、一体どこにいるんでしょう? そういった家庭や親子問題における違和感をブログで発信するようになったことがきっかけで、本を出すことになりました。

―― 近年、「男性の育休」や「男性の家庭進出」が語られる機会が増えてきましたが、メッセージの発信者は「女性が多い」印象を受けます。

前田:そうなんですよね。この本を出版したあと、「男性が『パパこそ家庭進出をしよう』と言ってくれたことがうれしい。ありがとう!」という反響をたくさんもらいました。

男性の育休や家庭進出の当事者は、当然ながら男性です。そして親子や家庭にまつわる社会問題は男性も当事者であるはずなのに、女性にばかり戦わせてしまっている現状があります。どんなにママが変わろうとしても、もう一方の当事者であるパパが変わろうとしなければ、社会は変わらない。

でも逆を言えば、パパが気づいて、主体的に動き出したとき、この社会に大きな変化が訪れるのではないか、と思っているんです。

新米パパが“ママの視点”で見つめたら、世界が一変した

―― 先ほど「育休をとったことで、見えていた世界が一変した」とおっしゃいました。育休中にどんな体験をされましたか。

前田:挙げたらキリがないほどたくさんあります…。その中でも、忘れられない体験となったのは、幼い娘を連れて電車移動したときに受けた“舌打ち事件”です。

その日、電車は少し混んでいました。ただ、ベビーカーではなく抱っこ紐でしたし、娘の機嫌もよかったので、まぁ大丈夫だろうと思っていました。でも駅に着くまでにトラブルがあり、電車が止まってしまったのを合図に、娘がカナキリ声で泣き始めてしまったんです。

一斉に集まる周囲の視線が、本当に痛かった。どうにか娘を泣きやませようと焦りました。電車は動かず、娘は泣き止みません。ほんの数分が永遠の時間に感じられました。

やっと電車が動き始めて、「次の駅で降りて娘を落ち着かせよう」とほっとした瞬間、背後から「チッ」という舌打ちが聞こえてきたんです。振り返ると、ビジネススーツを着た中年男性がこちらをにらみつけ、もう一度、舌打ちをしました。

普段なら「こういうこともあるか」と思えたかもしれません。でも当時は、娘の連日の激しい夜泣きによる寝不足で精神的にとても参っていて。じわっとこみあげてきた気持ちを必死に堪えて、電車を降りました。次の電車がきても、また娘が泣き叫ぶかもしれないと思うと足がすくみ、何本も電車を見送ったのを覚えています。

―― つらい経験をされたんですね。想像しただけで泣けてきます。

前田:このとき、「女性は、出産・育児をしはじめた途端に、弱者になる」とおっしゃった社会学者の上野千鶴子さんの言葉を思い出したんです。

「そうか、僕は、そうとは知らずに弱者になっていたんだ。これまでママたちが味わってきた理不尽のほんの一部を体験したのだ」と思いました。子を持つ一人の親として、この社会の雰囲気を変えていくことはできないだろうか…と考えるきっかけにもなりました。

育休をとったことで、私に起きたいちばんの変化は「視点が変わった」ことです。男性の家庭進出というのは、男性が家事・育児をもっと多く担っていくことも当然ながら、「社会をより複眼的な視点で見られるようになる」ということなのだと捉えています。

―― 社会をより複眼的な視点で見られるようになる、ですか?

前田:はい。少し話は変わりますが、女性の社会進出が進まない理由として「女性が管理職をやりたがらない」「女性にやる気がない」と語られるケースってありますよね。

いかにそれが的外れなことか、自分が育休をとって子育てしてみれば、わかるはずです。

「やりたくない」ではなく、「無理」なんです。慢性的な睡眠不足を抱えながら子どもの世話をして、山のように積みあがった家事をこなし、その上残業をしながら働いて、上のポジションを目指すなんて。普通の人には無理です。でも悲しいことに、いまの社会はそんな無理難題を女性に求めていますよね。男性が家事や育児を“当事者”として担うようになれば、そういったことにもすぐ気づけるはずなんです。

育休パパの勇気は伝染する!?

―― 男性の育休や家庭進出を促進していくために、何をすればいいのでしょうか。

前田:僕は、いつだって社会を変えてきたのは「名もなき普通の人たち」だと思っています。政治家でも有名な起業家でもなく。どこにでもいる普通の人たちのちょっとした勇気や、踏み出した一歩が、波紋のようにじわじわと広がっていくのだと。

一つ、勇気づけられる事例をご紹介します。
ノルウェーは、パパの育休取得率が「約8割」と高い数値を誇る国なのですが、1993年時点ではわずか3%だったそうです。ノルウェー政府はこの理由を検証し、1995年の政府白書で「父親たちは、会社や同僚から仕事に専念していないと見られることを心配しており、職場のこれまでのやり方と違ったことをすることに対する不安を抱いている」と記しています。

いまの日本の現状と似ていますよね? では、どうやってこんなにも取得率があがったのでしょうか。そのヒントは「育休パパの勇気は伝染する」という事実にありました。

同政府白書によると、育休を取得したパパが同僚、あるいは兄弟にいた人たちは、そうでないパパたちよりも育休取得率が「11~15%ポイント」も上昇したそうです。さらに上司が育休を活用したパパたちは、同僚が取得したパパたちよりも「2.5倍」も多く育休を取得していました。

大事なのは、勇気あるパパの行動を、周囲にいる人たちが後押しすることではないか、と思うんです。育休をとったパパに対して「いいね!がんばって!」と声をかけたり、定時で帰宅するパパをあたりまえのこととして応援したりすることが、“勇気の伝染”を加速させるはず。そしてなによりパパたちに「自分の家族を守ることは、実は、社会を変えることにつながっているんだよ」と伝えたいです。

とはいえ、男性の育休があたりまえになるのは、そんなに遠い未来でもないと、僕は楽観視しています。新入社員向けの調査で「男性の8割弱が育休取得を希望した」ことを示すデータもあります。社会は確実に変わってきている。いまはその過渡期なのだと思います。

自分の幸せを、社会に決めさせない

娘さんの爪切りをする前田晃平さん

―― 最後に、新米パパや、これからパパになる“プレパパ”へのメッセージをおねがいします。

前田:私も普通の新米パパですから、偉そうなことはいえません。日々子育てに悪戦苦闘したり、家事の分担が不平等だと妻に叱られて大喧嘩したり(笑)…決して上から何かを語れるようなパパではないんです。

ただ、パパに伝えられるメッセージがあるとすれば、「自分自身の幸せにちゃんと向き合ってもらいたい」ということ。あなたと、あなたの家族の幸せを、社会の慣習や常識に決めさせないでほしいということです。

男性が育休なんて取るべきじゃない。子どもがいるからこそ、男が人の倍働いて稼ぐべき。休みの日も接待ゴルフに参加するのはあたりまえ。その世間の声は、あなた自身の声でしょうか。本当に、そうしたいと思っているでしょうか。

僕自身は、育休をとり、主体的に家事や育児を担うようになって、本当によかったと思っています。男性の家庭進出は「人生を豊かにすること」だと考えています。たしかに子育ては大変ですし、思った通りにいかないことばかりです。ただ、妻と同じだけ家事育児を担当してみると、子どもは妻と同じように私のことを好きでいてくれます。もし仕事だけに没頭して、娘との信頼関係を築けていなかったら…これほど寂しいことはありません。

「そうはいっても、仕事よりも家族を優先したら、給料が下がって家計がまわらなくなる」。これはよくいわれることです。

実は、僕も仕事と家庭を両立できる職場に転職したことで給与が下がりました。ただ、世帯年収で見たら、下がっていないんです。僕が家庭進出をした分、妻が社会進出できましたから。女性が出産などの理由でキャリアを継続できなかった場合、家庭内の所得損失が2億円以上に及ぶことを示した内閣府の調査もあります。夫婦はチームなので、世帯で見たときに収入がどうなるのかを見ておきたいですよね。

朝から終電まで働き、毎晩のように飲み歩いていた若かりしころ、「家族を守る」なんて、ちっぽけなことだと思っていました。それから10年以上を経て、当事者になったいまの私にとって、「家族を守る」は壮大なミッションです。

会社や組織に対する責任を果たすことも大事ですが、それ以上に、家族に対する責任を果たしたい。それが家庭を中心とした社会問題を解決することにつながり、なにより自分自身が幸せになれる、と思っています。

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書籍『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』の最後で、前田さんはこう綴っています。

「日本の長い歴史の中には、社会の分岐点が何度もありました。そのたびに、日本の男たちは甲冑を身につけ、刀を手に取り、命を賭して戦ってきました。(中略)でも刀や甲冑はもはや必要ありません。現代の日本男児が身につけるべきはエプロンで、手に取るのはスポンジです。お皿を洗い、お風呂のカビを落とし、定時に会社を出て、子育てをするのです。昼間は別の戦場で戦う妻と、支え合って生きるのです。それが、私たちの戦いです」

クスっと笑え、頑張りすぎているママの肩の力が抜けた先に、未来への希望が見える言葉だと感じました。これからの時代、本当の意味での夫婦連携・チーム出産育児のヒントがつまった一冊です。興味のある方はぜひ手にとってみてください。


取材・文/猪俣奈央子

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