もう無理かもしれない。絶望感の中で考えた「女性が働き続ける」ということ
大企業からスタートアップ、ベンチャー企業まで経験したなかで、企業の規模に問わずジェンダー問題を深く感じたことをきっかけに、「自分らしく働き続けるには」を常に考え続けてきた志賀祥子さん。理想のライフワークバランスが実現できる環境を自ら作ろうと決意し、2015年に独立。現在はブランディングプロデューサーとして活躍しながら、企業の女性活躍推進、キャリアデザインサポートにも取り組んでいます。
そんな志賀祥子さんが自ら実践する「自分らしく働く!」ための思考術を本コラムでは紹介していきます。第2回目の今回は、私がキャリアを考え出すきっかけになった出来事についてお話ししたいと思います。
絶望したあの日、初めて見つめ直した自分の価値観
社会人になってから仕事の楽しさを知り、魅了されていった私。自分のキャリアについては、社会人になってからいろいろと考えてきたつもりでした。でも、初めてきちんと向き合ったのは「結婚」という大きなライフイベントがきっかけでした。
その頃の私は、大企業からベンチャーに転職して結果が出せるようになり、実績もついてきた日々。とてもやりがいを感じて仕事にのめり込んでいました。ですが、結婚をきっかけに自ら仕事をセーブしようと決意。残業がない条件で転職をしたある日、私は絶望を味わうことになりました。
それは、なんと入社初日に「子育ては3年後にしてほしい」と当時の上司に言われたのです。
正直この一言を受けて思ったことは「またか…」ということ。それまでの私は様々な企業でいろんな先輩の女性を見てきました。制度があっても環境が整備されていない、上司に理解がないなどの原因で辞めざるを得ない先輩ママをたくさん見てきました。なので、会社員で働き続けることの大変さは若い頃から身近で見てきたんです。
そして、新規事業でトップ成績を獲得したときは、実力ではなく「若い女性だから」、「女性だから」という色眼鏡でみられてしまうこともありました。どんなに悔しい思いをしたか。そしてそういった企業では、結婚や妊娠をきっかけに退職する女性がほとんどでした。
社会人生活でこのように多くの女性が諦めざるを得ない瞬間を見てきました。そして自身も理不尽な思いをしてきた原体験があります。だからこそ、結婚しても今までのキャリアを活かして働けるであろう会社を選んで転職した矢先の出来事でした。
もうこれから先、働き続けることが難しいのかもしれない…と絶望に近い思いをしたことを今でも覚えています。それはもう「ガッカリ」の一言では言い表せないほど、落胆した私。
そこで初めて、「どんな条件で、どんな組織で働くか」という視点ではなくて、「自分はどう生きていきたいか」、「どんなキャリアを描きたいか」を考え始めたんです。「女性が自分らしく働きつづけられる環境ってどんな環境なんだろう」ということを漠然と考え続け、自分の価値観と向き合っていきました。
キャリアへの再挑戦。自分で人生の選択を決断してきた事実が私を動かした
とても悲しく、絶望をも感じた出来事でしたが、今思えばこのことが私の人生のターニングポイントとなりました。
これを機に自分ととことん向き合ったことで、昔からの自分の思考の癖なども見えてきたんです。実は、私は子どもの頃から進路や習い事などすべて自分で選んできました。自分を見つめなおす時間があったからこそ、こうした幼少期や学生時代からの自分の思考の癖や、人生での決断軸をじっくりと振り返ることができたんです。
すると、どんなときも何かしらの外的要因や物理的制限がある環境の中で「今」の自分が納得できるベストな選択を考え、決断をしてきたことに気づくことができました。そこで、これからも自分が納得して人生の選択ができるように「今から事前にできることはあるのではないか」と考えていったのです。
そんななか私の出した答えは「キャリアへの再挑戦」でした。一度セーブをしたからこそ気づけたことがたくさんありました。そこでこれからは、キャリアの蓄積を積んでいこうと考えたのです。
今までのキャリアの延長戦上で仕事を継続していたのが功を奏し、希望する経験が積める企業へ転職することができました。そこで将来の育児期までに自分のスキルをつけて、独立を目指そうと決意。そこで新たな経験を実際に積んで、きちんと結果を出せたことで、独立し、今に至ります。
自信があったか、といったら、全くありませんでした。でも、子どもがいない「今」だからこそ挑戦できる。ダメだったら会社員に戻ることもできる。そう考えて、一歩ずつ踏み出していきました。
それに「仕事も育児も、どちらもあきらめない働き方、生き方にはどんな選択肢があるんだろう」と考えたとき、どちらも100%両立することは、スーパーマンでも不可能だろうと思ったんです。
仕事が忙しい時期もあるように、子どもの発熱など予期せぬことで思うように仕事ができない時期もあるだろう。完全にバランスよく50:50で両立することは出来ないだろうと考えました。
子育て中に物理的な制限が生まれてくるのは誰しもあり、仕方ないことではあります。でも、そうしたときに、「仕方ない」で終わらせたらもったいないと思ったんです。
自分の心の声を聞いてみよう
自分の意志とは違う形で、今までのキャリアを止めざるを得ない、諦めざるを得ないようなことは、あってはならないと思うんです。それには自分が納得して、意志をもって、仕事や環境を選んで行く必要があります。全ての要件を満たすベストな条件に出会えることは、稀ですから。
従来のワーママのイメージにある「キャリアを制限される・諦めなければいけない」といったネガティブな捉え方は、令和の時代ではもう終わりにしたい。
そこで私の考える「産後のセカンドキャリア」は、子育てをしながら、これまでの人生やキャリアの蓄積の上で新たなステージで仕事をすること。今の環境の中で、子育てと仕事の両輪を回していくためのベストを見つけること。ポジティブな意味合いとして捉えています。
「人生100年時代。おばあちゃんになったとき、どんな人生を歩んでいたら幸せ?」
私は自分と向き合う際に、この問いを自問自答してきました。外的要因などは一旦取り払って、「何も制限がない環境で自由だったら?」という観点で考えてみると、自分の心の声が聞こえてくるはずです。まずは焦らずに自分と向き合うこと。そして自分を理解した上で、産後のセカンドキャリアを描いてみてはいかがでしょうか。
志賀祥子
Profile
1986年生まれ。東京都出身。上場企業からスタートアップまで様々な企業で経営企画・広報に従事。企業規模に問わずジェンダー問題を深く感じ、2015年に将来の育児期を見据えて独立しリモートでのコンサルティング事業を立ち上げる。出産を経て、2019年に株式会社MaVieを創業。ブランディングや戦略コンサルティングの支援を行う傍ら、働く女性を取り巻く社会課題の解決を目指したコミュニティやオンラインラーニングの提供を行う。ブランディングやコーチングのメソッドを取り入れた「自分らしさ」を明確にする独自のカリキュラムは幅広い女性に支持されている。プライベートでは一児の母。
■メディア出演・掲載
日本経済新聞/日経DUAL/日経doors/日経WOMAN/日経xtech/NIKKEI STYLE/
TBSグッどラック!/テレビ朝日 スーパーJチャンネル/Markezine/FNN PRIME NEWS など