おたくマンガ家が巨匠の作品にふれて思ったこと【御手洗直子のコマダム日記】
今回は直子の学生時代のお話。大センセーションを巻き起こした「婚活コミック」著者、御手洗直子さんが結婚して2児の姉妹の母に。あいかわらずのつっこみどころ満載の日々、渾身のひとコママンガ&エッセイでお送りします。「つっこみが止まらないコマダム日記」#75
印刷物にはない原画のおもしろさ
学生時代、上野美術館にウイリアム・モリスという人の展覧会を見に行った事がある。モリスはモダンデザインの源流となった人だと言われているのですが、『ああ…こんなすごい絵を描く人もやっぱり神様じゃなくて人間なんだ…』(遠い目をした顔文字)と思ったのが、展示されているモリスの作品がかなりの割合で未完成だったことであった。
途中まで色が塗ってあるのに、いかにも『あ~…ここらへん細かいから塗るのめんどくさい…』という感じで途中からぶっちぎれて塗られていなかったり(私目線)もしくは下書きのみだったり、下色しか塗っていない状態のものだったりとそんな作品が異様なほどの高確率で展示されていた。
モリス…展示だけ見ると飽きっぽいじいさんのようになっている……
専門学校の研修で行ったのだがむしろ当時の私達に勇気と希望を与えたのであった。
未完成でも作り始めることに意義があるのだ。たぶん。
そういう意味で原画を見られる美術館や原画展というのはとてもおもしろい。手塚治虫記念館で手塚治虫先生の原画を見たこともあるが、こちらも凄まじかった。
修正と切り貼りのオンパレードなのであった。ホワイトが高さが3ミリとかくらいであろうかモリモリに盛られていて、同人印刷(安い)だったら影がでるのではないだろうか…という状態である。商業印刷では版で修正してもらえるのだ。うらやましい。
カジュアルに切り貼りも多用されており、明らかに紙質の違う原稿用紙がコマ内にはめ込まれていたりした。修正することを厭わない、印刷されてばいいんだろォ!という意志の強さが原稿からにじみ出ている。さすが月産300枚描いていただけある。すごすぎて意味がわからない。
一方でジャンプ展で見た荒木飛呂彦先生のカラー原画は一ミリの修正すら無い完全に完璧なる絵画であった。意味がわからない。美しすぎて目の前に生原稿を見ても印刷後のイラストのような完璧さでアラが一つも無いのだ。それに加え生原稿の美しさがある。こちらもすごすぎてよくわからない。これを週刊連載で描いていたというのが一番意味がわからない。その日一日で一生分の『意味がわからない』を使い果たしそうになるくらい意味がわからなかった。
『な…何を言っているのかわからねーと思うが おれも何を見たのかわからなかった…』を地でいける恐怖である。
飽き性であったり、成果主義であったり、完璧超人でったり、印刷された物からは伝わらない人間の個性がや性格が出るなあと思ったのであった。まあとにかく、原画展をひらけるだけの人はとにかくすごい。(おわり)
御手洗直子
Profile pixivで大人気。累計閲覧数1100万を誇る爆笑コミックエッセイスト。なんでそんなにネタ満載人生を・・・という謎の人。既刊に「31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる」「31歳ゲームプログラマーが婚活するとこうなる」(共に新書館)、「腐女子になると、人生こうなる!~底~」(一迅社)、「つっこみが止まらない育児日記」「さらにつっこみが止まらない育児日記」(ベネッセコーポレーション)など。たまひよのサイトで、数話限定公開中。
御手洗直子twitter:@mitarainaoko