ワクチン接種と不妊の関係は…?!コロナ禍、周産期医療や不妊治療の課題とは
新型コロナウイルス感染症の収束が見えない状況の中、コロナ禍での周産期医療や不妊治療のあり方について、発表して考える学術集会が開催されました。
メインテーマは「激動の時代の生殖看護―COVID-19の影響を考えるー」というもの。2021年9月12日にオンラインで開催された第19回日本生殖看護学会学術集会の内容をリポートします。
コロナ禍の生殖医療の看護を振り返り、今後、必要なことを考える
学術集会会長の、湘南鎌倉医療大学看護学部看護学科教授の森明子先生は、コロナ禍での生殖医療の状況を、以下のように話しました。
「2020年の幕開けとともに、日本は新型コロナウイルス感染症のパンデミックという、かつて経験したことのない事態に見舞われました。
生殖医療の現場では、グローバルな動きとして、専門学術団体から新たな治療周期の開始を停止し、延期可能な治療は延期し、対面での対応を最小限にして遠隔医療を導入するようになどの声明が発表されました。
新型コロナウイルスは医療だけでなく社会経済にも、また、大人だけでなく子どもや学生たちの生活、教育にも影響を及ぼしました。
1年半が過ぎ、ワクチンがフルスピードで接種されるようになっていますが、最近では、ワクチン接種と不妊の関係に言及するデマ情報が出ています。患者さんの戸惑いや不安を耳にして、どのような看護を提供すべきなのか、看護師も戸惑いや不安を抱えながら、日常の診察にかかわっているのではないかと思います。
だれも経験がない、知識も情報も十分にない、そんなときに生殖医療の現場で何が起こったのか、不十分で必要だったこと、逆に十分に満たされていたことは何だったのかを振り返り、今後どのような備えをするべきなのかを考え、行動する必要があると考えています。
またポストコロナ時代の生殖医療は、これまでの価値観や前提が崩れ、想像を超えて変化していく可能性があるではないかと予想しています」(森先生)
オンライン診療やDVDによる育児指導などで、感染リスクを減らす工夫を実施
「妊娠に備える女性を感染から守るためには」というテーマでのシンポジウムも開かれました。
生殖医療専門医、産婦人科医、不妊症看護認定看護師、母性看護専門看護師という、生殖医療のエキスパート4人の講演です。それぞれのクリニック・病院で行っている新型コロナウイルス感染予防対策、患者さん・妊婦さんがコロナ陽性と判明したときの対応、今後の課題などについての内容でした。
医療現場で患者さんや妊産婦さんのサポートを行っている、看護師2人の発表内容を簡単に紹介します。
【不妊治療の現場から】ITの活用は、患者さんに向き合う時間の確保にもつながる
「患者さんが安心して治療を受けてもらえるように、新型コロナウイルスへの標準的感染予防に加え、クリニック内が密にならないよう通院回数や施設内の滞在時間を減らす工夫を最大限に行っています。
また、遠方の患者さんや検査結果の説明を聞くために受診する患者さんに対しては、2020年7月からオンライン診療を始め、通院による感染リスクを減らす試みを行っています。
院内滞在時間短縮への試みとして、診察後の待ち時間に検査や治療についての説明動画を患者さんのスマートフォンに配信し、見てもらうことで、説明の時間を短縮しています。
これは結果的に、患者さんの不安や悩みに耳を傾ける時間の充足にも役立っています。
コロナ禍で感染症拡大防止のために取り組んだ医療提供方針の変化は、結果、患者さんの利便性アップにもつながっています。さらなるIT化やデジタルトランスフォーメーションを進める必要があると考えています」(IVFなんばクリニック 看護師長 不妊症看護認定看護師 皆吉田津子さん)
【周産期医療の現場から】対面指導の中止に伴い、DVDでの妊産婦教育を開始
「2020年2月から、新型コロナウイルス感染症における妊産婦の管理について、NICU・感染管理室・感染管理室とともに対策を練り、マニュアルやフローを作成しました。同時に立ち合い分娩や両親学級が中止されたので、代わりにDVDを利用した妊産婦教育を始めました。5月からユニバーサルスクリーニング(全分娩患者にPCR検査を実施)も導入しています。
両親学級が病院でも市町村でも開催されないことで、妊婦さんから『育児用品は何をそろえたらいいのか』『お産の流れが知りたい』『沐浴などの育児指導がないことが不安』などの意見が届いています。また、出産後には『家族にすぐに会わせたかった』『思い描いていた妊娠生活やお産ができなかった』という意見がある一方、『先生や助産師さんがずっとそばにいてくれて心強かった』という言葉もいただきました。
さまざまな制約がされてきたこの1年で、妊婦さん、産後のママへの保健指導や両親学級のあり方、入院生活の支援には大きな課題が残っていると感じています」(大学病院周産母子成育医療センター 母性看護専門看護師)
コロナ禍での子育てママの不安や抑うつは、子どもが癒してくれていた
「COVID-19流行下における人間の心理と行動の変容~新しい日常に向けて」というテーマで講演を行った福岡大学人文学部講師の錢琨(せん こん)先生は、「コロナ禍での女性の育児」についてのオンライン調査の結果も発表しました。調査は成人女性を対象に2021年2月24日に行われ、有効回答2968人のうち育児中の女性は1238人。平均年齢は36才でした。
「調査結果を、育児をしている女性としていない女性に分けて比較しました。その結果、ストレスについては、両群に有意差はなかったのですが、不安と抑うつについては、育児をしている女性のほうが有意に低いことがわかりました。
育児中の女性はストレス、不安、抑うつが強いとよくいわれますが、今回の調査では、育児をしている女性はしていない女性より、不安と抑うつは軽減されているという結果が出ました。とくに生後12~35カ月の子どもの母親104人の育児状況を分析したところ、子どもが笑うなどの感情表出は、母親にとって癒しの効果となるのではないかと考えられます。新型コロナウイルスの感染拡大防止のために行動が制限される状況では、家族と一緒にいる時間が重要になっていて、育児中の女性はとくに子どもに癒されているのでないかという見方もできると思います。
その一方、子どもの情緒問題は育児ストレス・不安・抑うつを増大させるという結果も出ています。
コロナ禍によって、今はだれもが不安を抱えて生活をしています。でも、子どもの笑顔を見たり、子どもとの会話を楽しんだりすることは、新型コロナによって起こされる負の感情を緩和する効果があるようです。さらに、子どもの情緒を安定させることは、親の情緒を安定させることにもつながるようです」(錢先生)
コロナ禍でも患者・妊婦とのつながりを大切にする看護を
コロナ禍での生殖医療の現状を踏まえ、今まさに妊娠を希望しているカップルや、妊娠中のママ・パパに、森先生からメッセージをいただきました。
「コロナ禍で不妊治療を受けている方、妊娠された方、それぞれ不安なことが増していると思います。一方、感染リスクを低減し、感染を防止するため、どうしても接触の機会を減らしたり、接する空間を仕切ったり、人と人との間が分断されがちです。もっと看護師さん、助産師さんと話したい、話を聞きたい、そういう声が聞かれています。今、一層、保健医療従事者と患者さん、妊婦さんとのつながりが途絶えないように心がけたいものです」(森先生)
取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
だれにとっても未知の、新型コロナウイルスの感染が広がる中、不妊治療や周産期医療の現場では、患者さんやママ、赤ちゃんを守るための努力が続けられてきました。そんな医療従事者のみなさんのサポートを受けながら、コロナ禍であっても、妊娠や育児を明るく前向きに考えていきたいものです。
※この記事は、2021年9月12日「第19回日本生殖看護学会学術集会」での講演内容を抜粋したものです。