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「夕食はレンチン、出産翌日に自分でパンを焼く?!」イギリスと日本、出産・育児事情はこんなに違う!【英国在住・著述家に聞く】

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Twitterで@May_Roma(めいろま)として知られる、イギリス在住の著述家 谷本真由美さん。イギリス人の夫との間に息子みにろまくん(愛称)を2014年に出産。日々の子育ての中で実感したという海外と日本の育児環境や教育事情の違いについて、話を聞きました(上の写真は谷本さん自宅にて、みにろまくん1才半ころの様子)。

出産後に出された朝食はトーストだけ!?

――イギリス在住の谷本さんは、息子さんの出産もイギリスだったそうですが、日本との出産事情の違いを教えてください。

谷本さん(以下敬称略) 長男は2014年にイギリスの国立病院で出産しました。イギリスの出産のほとんどは国立病院で取り扱われています。国民健康保険に加入していれば、妊娠出産にかかわるあれこれがすべて無料です。
無料ということは、国の健康保険の拠出金と税金から費用がまかなわれることになるので、サービスは日本ほど手厚くありません。たとえば妊婦健診での超音波検査は、世界保健機関(WHO)の標準に従って妊娠期間中の合計で3回しかありません。

病院の分娩(ぶんべん)室は実に簡素な部屋ですし、入院部屋は大部屋が当たり前で、ぱっと見では日本の昭和30年代の病院のイメージです。入院中の夕食はレンチンした冷凍食品、出産翌日の食事も自力で歩いて取りに行き、内容は食パンが2枚とジャムとマーガリンが出てくるだけで、自分でパンを焼きます。通常は出産の翌日に退院です。

――日本では出産後にお祝い膳(ぜん)が出るところもありますし、入院期間は最低でも産後5日が一般的です。出産翌日に産婦が自分でパンを焼く、とは驚きです。

谷本 妊娠出産にかかわる医療の何を重視するかが違うのですね。出産する病院は日本でいう総合病院で、ほとんどに麻酔科医が待機していて、日本よりも容易に無痛分娩を選択でき、急な帝王切開にも対応できる体制になっています。つまり、妊婦の症例が急激に悪化したり出産が困難になったりした場合に、専門医がすぐに対応できるようになっています。

日本では食事や内装やサービスが重視されることもあるようですが、私はイギリスの医療を受けてはっと目が覚めました。イギリスの出産は、医療資源を集約化した総合病院での「安全体制を確保したお産」という感覚で、「救命」を最も重要視しているのです。

それは、日本とイギリスでは妊娠や出産をめぐる社会背景が大きく異なることも関係しています。イギリスの国立病院では妊婦の初診で、配偶者の職業や、無職か生活保護を受けているか、麻薬中毒ではないかなどを聞かれます。それだけ経済的に困窮していたり麻薬中毒がある妊婦が多いということです。国としてはまずそのような妊婦を救済して、早期介入することを重要視しているわけです。病院が国の福祉と連動しています。

治安と医療サービスがすばらしい日本

――では、息子さんの子育てをするなかでは日本とイギリスではどんな違いを感じていますか?

谷本 まず、日本で最も助かるのは治安がいいこと。そして麻薬問題を心配する必要がないことです。イギリスでは息子を連れて乗ったバスで突然乱闘が始まったこともありましたし、街に麻薬の注射針が落ちていることもあります。日本のように公園で子どもだけでのびのびと遊んでいるような姿は、ほかの先進国の大都市ではありえない光景だと思います。

さらに、日本のすばらしいところは、子どもが専門医の診療をすぐに受けられることです。イギリスをはじめ欧州の場合は、地域の家庭医に登録をして、その診療を経てからでないと専門医にかかることができず、診断の見落としがあることも。健康保険に加入していれば公的な医療は無料ですが、緊急の場合であっても待ち時間が4時間以上かかったり、病室が清潔とはいえない環境だったり、病院食が冷凍食品のパスタやカレーだったりします。

息子が2才のときに、鼻から額にかけて菌が入り、膿疱(のうほう)になってしまい、顔が大きくはれてしまったことがありました。ロンドンにある子ども専門の国立病院で全身麻酔の手術を受けたのですが、初診から手術までに2カ月もかかりました。医師同士の連携が取れていないことや病原菌の検査やMRI検査を受けるまでに時間がかかったのです。

日本では多くの自治体で子どもの医療は、医療費の自己負担なしで受けられますし医療へのアクセスを考えると日本は非常に恵まれています。

産後の女性のキャリアと保育費の違い

谷本さん自宅にて。みにろまくん2才のときのクリスマス

――子育てと仕事について伺います。日本では産後は女性が子育てを担いキャリアを中断することがいまだ多い現状です。イギリスの夫婦間では、どのように考えられているのでしょうか?

谷本 イギリスは男女の区別なく業績評価が厳しいため、出産で仕事ができないと評価が下がり、職を失うことや昇進できないことが当たり前です。そのため、出産後に労働負荷が少ない仕事(例/人事、顧客対応、広報)に移ったり、自営業になったり、専業主婦になるという人が少なくありません。実はイギリスでも、家計を支えるのは夫で、妻が育児や家事を主に担う家庭は多いのです。最近では妻が家計の主たる収入を得ているというデータもありますが、これはシングルマザーの家庭が多いことを考慮すべきでしょう。

また、働くにしても保育費がかなり高額です。保育費はロンドン市内や郊外の場合は朝8時から午後3時までで1カ月に15〜20万円近くになり、延長保育は6時までです。公的補助は低所得家庭のみなので、ほとんどの共働き家庭はこの費用を負担します。

保育費が払えない家庭は、自分たちの親に同居してもらって面倒をみてもらうパターンが多いので、子育てへの祖父母の支援は日本よりもはるかに大きいと思います。また子どもが複数いる場合は、住み込みのナニー(子守)を雇って面倒をみてもらったりします。保育所や幼稚園に通うよりも安いからです。

――幼児教育・保育の無償化などの公的補助がある日本とは、保育費でも大きな違いがあるのですね。

谷本 さらに日本はほかの先進国に比べて、幼児期から音楽や芸術などの習い事も種類が豊富で安価で提供されています。保育園・幼稚園や学校はグラウンドや体育館、プールが充実して、さまざまな運動を経験する機会もあります。家族でお出かけをした先では、授乳室や無料レンタルのベビーカーもあって清潔で使いやすいですよね。

私の海外在住の日本人の友人たちもみな指摘していることですが、相対的にみて日本は非常に子育てがしやすい国であると思います。

お話・画像提供/谷本真由美さん 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

谷本さん自身、出産前は海外と比較して日本を批判することが多かったけれど、子どもを持って日本の子育て環境の実態を知り大きく考えが変わったそうです。国が違えば子育てへの考え方も制度も大きく変わります。リアルな海外の子育て事情を知ることで、親自身が広い視野を持つことの大切さに気づかされるのではないでしょうか。

※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

谷本真由美さん(たにもとまゆみ)

PROFILE
1975年神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院国際関係論修士、情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関情報専門官、外資系金融機関などを経て、現在はロンドンに住む。近著に『世界のニュースを日本人は何も知らない』『世界のニュースを日本人は何も知らない2 未曽有の危機の大狂乱』『日本人が知らない世界標準の働き方』など。

英国在住の日本人ツイッタラー「めいろま」こと谷本真由美氏による、息子みにろま君(愛称)が生まれて初めてわかった、海外と日本とでは驚くほど異なる子育て事情の赤裸々レポート。「バイリンガル教育の実践」「子どもを国際人に育てるには?」など、日本で暮らす親子が知らない世界の情報がわかる。

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