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5年生存率40%のがん「小児神経芽腫」。5才で発症し、10才で再発…。承認されたばかりの新薬で病と闘う【体験談】

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小児がんの中では白血病、脳腫瘍(しゅよう)、リンパ腫に次いで多い腫瘍である神経芽腫。早期発見が難しいことと、小児は進行が速いということもあり、診断された時点でおよそ6割の患者で転移があり、そのうち5年間生存できる確率は約40%といわれます。
再発を繰り返すため治療が難しい病気ですが、2021年9月にその新薬「抗GD2(ジーディーツー)抗体」が国に承認されました。この薬を使った治療をしながら、神経芽腫と闘う男の子がいます。ママに、神経芽腫の発症や治療の様子について話を聞きました(写真は2017年に造血幹細胞移植という治療を受ける大地くんの様子)。

突然訴えたひどいおなかの痛み…まさかがんとは

大阪府に住む土井かおりさん(40才)は、大地(だいち)くん(10才)、颯大(そうた)くん(13才)の3人家族。次男の大地くんは5才のころに小児がんの1つである神経芽腫と診断されました。

「2016年11月末ころから、おなかが痛いと言い始めました。小児科を受診しレントゲンを撮った結果“便秘”と言われ浣腸(かんちょう)をしてうんちを出しました。でもまたすぐにおなかが痛いと言い出して、別の病院を受診しました。そこでも “便秘かな”と言われて、浣腸をしましたが、よくなりませんでした。その後も何度も痛がるので、いくつかの内科や小児科をまわりましたが、どこも診断は同じ。
最後に行った大きい病院でも、同様に言われましたが、大地は普段便秘症でもなくうんちも普通に出ていたし、痛がり方も『痛い〜!痛いよぅ〜!』と転がりながら泣き叫ぶくらいだったので、先生に違うんじゃないかとお話しして、エコーを撮ってもらうことになりました。CT検査の結果、すぐに腫瘍とわかりその日のうちに大阪市立総合医療センターに入院することになりました」(土井さん)

入院後に生検(せいけん/病変の一部を採る検査)の手術で何の腫瘍か調べた結果、神経芽腫であるとの診断でした。大地くんは神経芽腫の中でも高リスク群とされ、1年間入退院を繰り返しての治療になるとの説明だったと言います。大地くんは通っていた保育園を休園し、かおりさんもつき添いのために仕事を辞めることに。家族の生活は一変しました。

「まさか、と思いました。便秘ではないと思っていたけれど、まるでドラマの世界のことのようで…。自分たち家族のこととは思えませんでした。大地の腫瘍はなんと14cmもの大きさで、体の中心部よりはみ出ていて、胃も圧迫されていること、全身の骨に転移をしていること、生存率は40%で、確立されている神経芽腫の治療計画に沿って治療を行う、と説明を受けました。あんなに痛がったのは大きい腫瘍があったからなんだ、とやっとわかりました。
生存率が40%だなんて…ごはんものどを通りませんでした。夜に1人になると、大地の病気のことを調べまくっていました。調べても考えても不安なことばかりで泣くことが多かったです」(土井さん)

けれど日中は、慣れない入院生活や手術後の点滴を嫌がる大地くんを説得したり、病院のつき添いの合間を縫って当時8才だったお兄ちゃんに会いに帰ったり、と、大忙し。闘病とお兄ちゃんのケアとで必死な毎日でした。

1年にも及んだ抗がん剤と治験薬の治療

2016年に入院した直後の大地くん

高リスク群神経芽腫の初発(初診で腫瘍と診断されること)の子どもの治療の流れは、①化学療法(抗がん剤投与など1カ月弱の治療を1クールとする)を4クール、②大量化学療法(がん細胞を殺すための集中的な薬物治療)、③造血幹細胞移植(骨髄にある造血幹細胞をあらかじめ採取しておき、化学療法のあとに投与し健康な血液をつくれるようにする、自家移植)、④腫瘍の摘出手術、⑤放射線治療となります。

大地くんはこれらの治療を2016年12月末から2017年6月までの半年の間に受けました。たくさんのつらい検査や治療、副作用がありながらも、大地くんは自分の病気のことを理解し、治療を頑張りました。

「大地にも病気のことをわかるように説明しました。命にかかわる病気で、すごい強い薬を使うから、悪いやつもやっつけるけど、いいやつもやっつけちゃうんだよ、と。彼は説明すれば理解してくれて、いろんな治療もこわがらずに受けてくれました。吐いたり、痛みがあったり、治療の副作用がたくさんありましたが、保育園のお友だちや大好きなお兄ちゃんが面会に来てくれると元気が出て、頑張っていました」(土井さん)

そして2017年7月から、大地くんは神経芽腫の再発を防ぐ治療薬「抗GD2抗体」の治験に参加できることになりました。「抗GD2抗体」は、抗がん剤とは異なる免疫療法で、神経芽腫の再発をおさえる薬です。神経芽腫細胞表面に多く存在するGD2という物質に人工的に作った『抗GD2抗体』をくっつけ、そこにさらに白血球がくっついて神経芽細胞を攻撃する、というもの。自分の白血球を使ってがん細胞をやっつけるというしくみです。

「海外では標準治療になっている薬ですが、生存率が40%から60%になると治験の説明などで聞きました。そんなに生存率が変わるなら、海外に行ってまでしてもやりたい!と強く願っていました。治験は受けられる人数が決まっているので、治験のメンバーに入れて本当によかったです」(土井さん)

抗GD2抗体での治療は2週間入院しての点滴投与と2週間退院しての休憩を1クールとし、それを6クール繰り返します。12月に治療が終了し、退院。大地くんは保育園の卒園式にも、小学校の入学式にも参加することができました。

サッカーも、体操も。元気に過ごしていた大地くん

再発後にサッカーチームのメンバーから寄せ書きと千羽鶴をもらった

2017年の12月に初発の治療が終わったあとは、月1回の定期検査、半年に1回のCT検査やMIBGシンチグラフィ(遠隔転移巣の診断の検査)をしながら、経過観察を続けました。毎回問題なく、定期検査の間隔も2〜3カ月に1回とあいてきたそうです。

「小学校に入学してからは、サッカーや体操を習ったり、お友だち家族とみんなでキャンプに出かけたり、元気に過ごしていました。定期検査でも毎回問題がなく、精神的にも普通の生活に戻っていて、『抗GD2抗体』のおかげで再発なくこのまま元気にずっと過ごせるのかな、と思っていました」(土井さん)

しかし、大地くんが4年生になった2021年4月。左腕の痛みを訴え始めます。神経芽腫の再発でした。

「大阪市立総合医療センターで検査をしても再発は疑われなかったのですが、2〜3カ月して腕が上がらないくらい痛くなってしまったので、PET検査(がんの有無や広がり、ほかの臓器への転移がないかを調べる精密検査)をしたら、再発とわかりました」(土井さん)

日本で初めて、再発して2回目の「抗GD2抗体」での治療を開始

コロナ禍できょうだいの面会はガラス越しに

再発がわかった後、大地くんは6月から化学療法を始めました。それがちょうど終わる9月下旬に、「抗GD2抗体」が国に承認され、すぐに2回目の「抗GD2抗体」の治療を開始することに。11月現在、2クール目の免疫療法を行っています。

「本当にタイミングがよかったと思います。再発をして2回目の『抗GD2抗体』を使用する子どもは、大地が日本で初めてのようです。海外では再発後に2回目の治療をし寛解(腫瘍が縮小または消失している状態のこと)した子もいると聞いていますし、抗がん剤以外の治療の選択肢が増えるのはすごくいいなと思います。効果に期待していますが、やはり1度再発しているので不安もあります。

また、投薬中は副作用もあります。抗がん剤より体の痛みも強いのでモルヒネなど使いますし、40度ほどの高熱が5日間くらい続くので本人はかなりつらいと思います。その治療が半年続くうえに、今は新型コロナで1度入院すると2週間はつき添いの親も外出できない制限もあります」(土井さん)

子どもたちとの時間を楽しく、毎日を大事に過ごしたい

一時退院中に家族で自宅近所の公園をお散歩

わが子が病気にかかった苦しさを抱えながらも、治療方法などを調べ、闘病を支えてきた土井さん。だれにも言えないつらさに押しつぶされそうな時には、看護師さんやホスピスのスタッフに話を聞いてもらえたことが支えになったそうです。そして今は「落ち込んでいてもしかたがない」と笑顔で話します。

「私はシングルマザーなので、パパがいて子どもも健康なほかの家族を見ると、うらやましく思うこともあります。でも、子どもが病気になったからこそわかる世界もある。そこからどう学んで、どう生きるかを常に考えています。楽しいことをして笑顔で免疫を上げるほうが子どもたちにもいいかな、って。大地が病気になってから、大地にもお兄ちゃんにも、それまで以上に毎日『大好きだよ』『ママのところに生まれてきてくれてありがとう』『ママの宝物だよ』と伝えて、めっちゃハグしています(笑)。

周囲のお友だちにも、隠さずすべてオープンにしています。保育園からのお友だちは、抗がん剤で大地の髪が抜けても普通に接してくれる。みんなで応援してくれていて、それが大地の力になっていると思います」(土井さん)

監修/原純一(はらじゅんいち)先生

画像提供/土井かおりさん 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

【原先生より】子どものための薬剤開発を国が支援する仕組みを

神経芽腫は小児がんの中でも治りにくいがんで、世界中の医師や研究者が少しでも良い治療を生み出そうと懸命の努力を続けています。そうやって生み出されたのが画期的な新薬である抗GD2抗体です。今後もGD2を利用した新薬が登場してくることが予想されます。小児がんは患者さんの数が少なく、開発しても利益が上がらないため製薬会社の開発意欲が乏しいのが大きな問題です。欧米では子どものための薬剤開発を国が支援するしくみがあります。早く我が国もそうなってほしいものです。

大地くんが発症した当時、お兄ちゃんは小学校2年生。弟の病気の説明もすべてかおりさんと一緒に聞き、家族みんなで支えあってきたからか、家族で一緒にごはんを食べる、一緒に眠る、そういう日常に幸せを感じてくれる子になったそうです。病児のきょうだいもストレスを抱えますが、祖父母やお友だちがお兄ちゃんを支えてくれているのだとか。大地くんにとっては、大好きなお兄ちゃんと過ごす時間が何より楽しく、元気の源になっています。


※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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