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5年生存率40%…治療が難しい小児がん“神経芽腫”に新薬承認!日本の小児薬開発の課題も浮き彫りに【専門医】

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小さなアジアの女の子は病院でベッドに横たわっていた, クローズアップ子供たちは病院で塩水で静脈内治療を手に.
※写真はイメージです
thepoo/gettyimages

治療が難しい小児がんの1つ、「神経芽腫(しんけいがしゅ)」。毎年約160人の子どもが発症している病気で、そのうち約6割の子どもたちは診断時に骨や肝臓、皮膚、骨髄などに転移があり、再発せずに5年間生存できるのは40%程度とされています。2021年9月末に、神経芽腫の再発を抑える新しい薬「抗GD2(ジーディーツー)抗体」が国内で初めて承認され、実用化されました。2013年からこの薬の治験を行った大阪市立総合医療センターの副院長 原純一先生に、神経芽腫と新薬について話を聞きました。

おなかにしこりが現れることが多い病気

――神経芽腫はどのような病気ですか?

原先生(以下敬称略) 小児がんの中では白血病、脳腫瘍(のうしゅよう)、リンパ腫に次いで多いがんで、小児がん全体の約10%を占めます。神経芽腫は0〜4才で診断されることがほとんどで、10万人に2人の割合でかかるといわれ、毎年約160人の子どもが発症しています。診断時にはおよそ6割で転移があり、1才半未満の子どもは9割くらいが治ります。1才半以降になると、初めの診断時にステージ4の状態の患者さんが多いです。それを高リスクの神経芽腫と呼びますが、この場合は5年生存率が40%ほどです。再発を繰り返すため治療が難しい病気です。

――どのようなきっかけで見つかることが多いのでしょうか。

原 神経芽腫は体幹の交感神経節(脊椎(せきつい)に沿ってある交感神経の集まり)や副腎髄質(腎臓の上にある副腎の中心部)に多く発生します。約65%が腹部で見られ、おなかがはれていることで気がつくことが多いです。子どものおなかは腹筋が弱いので押すとやわらかいですが、神経芽腫ができて大きくなった場合は、触るとかたくなります。おふろに入れるときに親が気がついたり、健診や小児科を受診したときに医師がしこりに気づたりして、発見されることが多いです。初期の段階ではほとんどが無症状で、子どものがんは進行が早いので、1カ月ほどで倍くらいの大きさになることもあります。

免疫療法で再発を抑える「抗GD2抗体」

――今年実用化された新薬について教えてください。

原 「抗GD2抗体」は、免疫療法で神経芽腫の再発を抑える薬です。神経芽腫細胞表面に多く存在するGD2という物質に人工的に作った「抗GD2抗体」をくっつけ、そこにさらに白血球がくっついて神経芽細胞を攻撃する、というもの。自分の体の中の白血球を使ってガン細胞をやっつける、免疫療法です。

治療は、「抗GD2抗体」を点滴で4日間投与し、その前後に免疫を強くする薬を点滴や皮下注射で投与する方法で、合計2週間を要します。入院治療を2週間行ったら、次の2週間は退院して治療を休みます。これを6回繰り返す、つまり約6カ月間かけて行います。

――この薬には副作用があるのでしょうか?

原 GD2という物質は末梢(まっしょう)神経にもあるので、そこにも抗体がくっつくことで痛みが出ます。痛み止めには多くはモルヒネを使用します。また、アレルギー反応により高熱が出ますので、解熱剤やアレルギーを抑える薬を使用します。
これに対して抗がん剤治療は、吐きけ、食欲不振、口内炎ができる、髪の毛が抜ける、感染症にかかりやすくなるなどの副作用がありますが、免疫療法ではそのようなことは起こりません。食欲や体力も落ちにくいので、退院してから2週間後には学校に行くこともできます。

抗がん剤治療より、「抗GD2抗体」を使った免疫療法のほうが、子どもの体への影響が少なく、負担も小さいです。
また、この治療によって、20%くらい生存率が上がるといわれています。つまり、2割多くの子どもが命を救われるということ。小児がんの神経芽腫や肉腫などかたまりを作るがんは、この20年ほど新薬が開発されなかったこともあり生存率が改善していませんでした。この新薬によって神経芽腫の子どもの生存率が大きく向上するでしょう。

――20年も新薬の開発や導入がされなかったのはなぜでしょうか?

原 国内では神経芽腫は毎年約160人が発症しますが、新薬の使用対象となる患者さんは100人未満です。新しい薬の開発というのは、多くは製薬会社主導によって行われますが、このように希少疾患である神経芽腫はなかなか国内での開発や導入の見通しがつきませんでした。

この「抗GD2抗体」は2010年にアメリカ国立がん研究所が開発した薬で、北米や欧州では5年ほど前から神経芽腫の標準治療として用いられています。なんとかこの薬を日本で使えるようにしたいという思いで、われわれがライセンス契約を結んで国内に導入し、国内での承認をめざして医師主導による治験を行ったのです。

――原先生たちが行った国内の治験はどのように進んだのでしょうか?

原 大原薬品工業という製薬会社がアメリカから薬を輸入、提供してくれ、2013年からわれわれのグループで医師主導の治験を開始しました。最初の3年間は再発した患者さんを対象に25人、さらに次の3年間は再発していない人を対象に34人。その結果、アメリカで用いられた治療法と遜色(そんしょく)のない有効性を示したことから、2021年6月に薬事承認され、9月に保険適用を受けて国内販売が開始されました。

治験の目的は薬の承認という意味がいちばん大きいですが、治験を行う間に、必要としている患者さんたちに治療を受ける機会を提供できるということも大きな意義でした。

待ち望まれていた新薬。子どもの薬の開発についての課題は?

――治験では薬の投与後、少なくとも2年間は80%の患者さんが再発しなかったそうです。今後「抗GD2抗体」での治療に期待できることは?

原 高リスク神経芽腫の治療では、子どもに抗がん剤投与の強力な治療を行いますが、その影響で“晩期合併症”といって成長過程でさまざまな症状が出ることがあります。成長に悪影響を起こすことや、別のがんにかかる可能性も高くなります。薬によって体がいたんでいるために、大人になってから心臓が弱くなったり、腎臓の機能が落ちてきたりします。でも「抗GD2抗体」はこのような晩期合併症がない点は朗報だと思います。

これまでより2割多くの子どもの命が救われると言いましたが、「抗GD2抗体」による治療を行っても、治らない人もいます。しかし、病気の進行を止めたり、痛みを軽くしたりすることはできます。患者さんのご家族はずっとこの薬が承認されるのを待ち望んでいました。「承認されてうれしい」という声が多く届いています。

――日本における小児薬の開発についての課題はどのようなことだと考えられますか?

原 アメリカでは国が中心になって小児薬の開発を義務付ける制度がありますが、日本には残念ながらそのような制度がありません。ICH(医薬品規制調和国際会議)という、医薬品規制に関するガイドラインを作成する国際会議では、薬の利益を受ける人に対して人種・性別・年齢において、差別をしてはいけないという倫理的考え方があります。

日本では神経芽腫のように小児特有の病気は開発や導入がされにくいですが、国が開発を義務付ける制度が必要でしょう。子どもの権利を守り、より弱いものの立場で物事を決める視点を持つべきだと感じます。

お話・監修/原純一(はらじゅんいち)先生

取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

神経芽腫は、高リスクの場合生存率が低い病気で、希少疾患であるため新薬の開発や導入が進まなかったとのこと。 海外で標準治療とされているなら、なおさら病児と家族は新薬の承認を待ち望んでいたことでしょう。病と闘う子どもたちが必要としている薬が開発されるよう、国の早急な制度整備が望まれるのではないでしょうか。


※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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