11歳以下のコロナワクチン接種は本当に必要!? 第6波に備え子どもの副反応を正しく知ろう【小児科医】
アメリカでは、2021年11月より5~11歳の新型コロナウイルスワクチン(以下新型コロナワクチン)接種が開始されました。使われるワクチンはファイザー社の「コミナティ筋注」です。日本でも、2022年2月には、5~11歳の新型コロナワクチン接種が始まるのではないかという情報もあります。
子どもの感染症と予防接種に詳しい、新潟大学医学部小児科学教室教授 齋藤昭彦先生に、2021年11月26日現在でわかっている、小児の副反応のことなどを聞きました。
第6波が来たときは、ワクチン未接種の子どもの間で感染が広がる可能性も
2021年11月26日現在、日本では新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)の流行が抑えられており、感染者ゼロの県もあります。このような状況で、子どもに新型コロナワクチンを接種させるか悩んでいるママ・パパは多いのではないでしょうか。
――5~11歳の子どもに新型コロナワクチンは、本当に必要なのでしょうか。子どもは新型コロナに感染しても重症化しにくいともいわれています。先生のお考えを教えてください。
齋藤先生(以下敬称略) 私は、5~11歳も新型コロナワクチン接種をしたほうがいいと考えています。理由は、3つあります。
1つ目は、海外では再び感染拡大している国も多く、日本に第6波が来る可能性は極めて高いです。そうなると、現在、唯一ワクチン未接種の年齢層の子どもたちの間で感染が広がることが考えられます。
2つ目は、子どもは新型コロナに感染しても重症化することはまれですが、そのリスクがゼロではありません。第5波のときは、基礎疾患のない複数の子どもが重症化し、ICU(集中治療室)に入院した例も報告されました。新型コロナの子どもの感染者が増えれば、一定の割合で重症化する子が出てきます。加えて、新しい変異ウイルスが流行した場合、感染者が増え、子どもの感染者数の増加、そして一定の割合の子どもたちの重症化の可能性もあります。
3つ目は、子どもがかからないことで一緒に住んでいる家族を守ることができます。とくに高齢者の方や基礎疾患をもつ大人の方と同居している場合は、ワクチン接種は大事になります。
新型コロナの感染や重症化を防ぐには、今はワクチンしかありません。
――ファイザー社製の新型コロナワクチンが、日本でも5~11歳に接種可能ということになると、12歳以上とは接種の方法などは異なるのでしょうか。
齋藤 ファイザー社製の新型コロナワクチンは、1回の接種量は12歳以上は0.3mLですが、5~11歳は、ワクチンの濃度の低い異なる製品を使います。量は、12歳以上の3分の2の0.2mL、抗原量は3分の1になります。12歳以上はワクチン1瓶あたりで6人分接種できますが、5~11歳は1瓶で10人分の接種ができます。
日本で5~11歳のファイザー社製の新型コロナワクチンが承認された場合には、どのような方法で接種するとスムーズに進められるのかなど、国や地方自治体、日本小児科学会などで議論が始まっています。
――新型コロナワクチンは筋肉注射です。5~11歳は、初めて筋肉注射を接種することになるのでしょうか。
齋藤 ほとんどの5~11歳の子どもは、筋肉注射をすることは初めてになります。もし日本で新型コロナワクチンの接種が始まった場合は、大人と比べると量は少なく、また大人で使われている針よりもさらに細い針が使われ、痛みを軽くする対策がとられます。
副反応は、12~15歳の子どもとほぼ同じ。熱に伴うけいれん、胸の痛みがあるときは至急受診を
子どもに新型コロナワクチンを受けさせるとなると、心配なのが副反応です。
――新型コロナワクチンの副反応は5~11歳でも、ほぼ同じと考えていいのでしょうか。副反応が強く出やすい子はいるのでしょうか。
齋藤 発熱、倦怠(けんたい)感、接種部位の痛みなどは12~15歳の子どもの副反応の頻度とほぼ同じです。不安や緊張から動悸(どうき)、息切れがしたり、めまいが起きたり、立ちくらみを起こして倒れたりする子は、とくに10歳代の女の子に多いです。
――5歳の子が、不安や緊張から倒れたりすることもあるのでしょうか。
齋藤 5歳の子では、そうした副反応はまず見られません。ただ、いきなりワクチン接種をするとなると、過度に不安を抱いたり、パニックを起こす子はいるでしょう。そのため事前になぜワクチンを接種するのかをお話ししておくといいかもしれません。たとえば、「今、幼稚園(保育園)でみんなマスクをして、給食のときはお話ししないで食べているよね? でも新型コロナから体を守る方法があって、それがワクチンっていう注射なんだよ。大人は受けていて、今度、子どもも受けられるようになったんだよ。ママもパパも注射したよ。ちょっと痛いけど、頑張れるかな?」など、ワクチンの話を話題にする機会を作ってから、接種するといいでしょう。
――親が新型コロナワクチンの副反応が強かった場合は、子どもの副反応も強いのでしょうか。また受診が必要な副反応を教えてください。
齋藤 親の副反応が強かったからといって、子どもの副反応が強く出るというデータはありません。
受診がすぐに必要な状況は、新型コロナワクチン接種後、発熱と一緒にけいれんを起こしたときです。熱性けいれん(通常、生後6か月から6歳までのお子さんに見られる病気です)と呼ばれますが、とくに熱性けいれんの既往がある場合は注意が必要です。「胸が痛い」「苦しい」と言ったり、息切れがある場合も同様で、心筋炎・心膜炎が疑われます。小児科が診察時間外の場合は、救急外来で診てもらいましょう。
心筋炎・心膜炎は、コロナ感染したときのほうが起きやすく、重症化しやすい
新型コロナワクチンの副反応で、まれに10代、20代の男子に心筋炎・心膜炎が見られます。5歳からの接種が始まるとなると、心配するママ・パパは多いと思います。
――5~11歳の心筋炎・心膜炎の副反応のリスクについて教えてください。
齋藤 新型コロナワクチンの副反応による心筋炎・心膜炎については、2021年10月 厚生労働省が発表した「日本国内の10代・20代で、ワクチン接種後に心筋炎・心膜炎が疑われた報告頻度/ワクチンを受けた100万人あたり」によると、モデルナ社の新型コロナワクチンを受けた12~19歳の男性では28.8人。ファイザー社では3.7人でした。モデルナ社のほうが心筋炎・心膜炎の副反応は多く見られました。
一方、12~19歳の女性ではモデルナ社の新型コロナワクチンを受けて心筋炎・心膜炎の副反応が見られたのは0人。ファイザー社では2.2人でした。
5~11歳の心筋炎・心膜炎の副反応が起きる頻度はまだ明らかになっていませんが、これまでの報告では、新型コロナワクチンの副反応による心筋炎・心膜炎は軽症で、重症化例はありません。2回目の接種の4日以内に胸の痛みや息苦しさを訴えるケースが多いので、とくに2回目の接種のあとは、子どもの様子を注意深く見たほうがいいです。
――心筋炎・心膜炎は、新型コロナに感染しても発症するのでしょうか。
齋藤 新型コロナに感染すると心筋炎・心膜炎を発症する人が報告されています。厚生労働省の資料(以下参照)によると、新型コロナに感染し心筋炎・心膜炎が疑われた国内の報告頻度は、15~39歳の男性で100万人あたり834件でした。なかには重症化した人もいます。
新型コロナワクチンの副反応による心筋炎・心膜炎を心配するママやパパは多いのですが、これまでのデータを見ると、新型コロナに感染した場合のほうが、心筋炎・心膜炎を発症するリスクは、明らかに高いということを知っておいてほしいです。
男性の心筋炎・心膜炎が疑われた報告頻度の比較
新型コロナに感染したとき重症化しやすい子は、早めに接種を
新型コロナワクチンは、基礎疾患がある子は、早めに受けたほうがいいと齋藤先生は言います。
――新型コロナワクチンをなるべく受けたほうがいいのは、どんな子でしょうか。
齋藤 基礎疾患をもっていて、新型コロナに感染すると重症化したり、基礎疾患が悪化しやすい場合です。たとえばせんぞく、心疾患、糖尿病、免疫不全、神経疾患、極度の肥満などです。心配なときは小児科の先生に相談してください。
――新型コロナワクチンを受けられない子もいるのでしょうか。卵アレルギーの子は受けられるのでしょうか。
齋藤 受けられないのは、1回目の接種でアナフィラキシーショックを起こした場合だけです。卵の成分は含まれていないので、卵アレルギーでも接種できます。
――ママやパパの中には、新型コロナの飲み薬が承認されたら、新型コロナワクチンは接種しなくてもいいのでは!? と考える人もいると思いますが…。
齋藤 新型コロナの飲み薬の効果は、子どもでは、まだ明らかになっていません。感染したあとに服用し、合併症や重症化が防げるならば、新型コロナワクチンの見直し論も出てくるでしょうが、現段階では、新型コロナの感染や重症化を予防するのはワクチンしかありません。
取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
第5波の流行で、子どもにもロング・コビット(新型コロナの後遺症)の問題が出てきました。とくに気分が落ち込みやすい、眠れない、やる気が起きないなどのメンタルの不調は長引きやすく、不登校気味になった子もいます。新型コロナワクチンで感染予防することは、ロング・コビットを防ぐことにもつながります。
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