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「休む間もない、誰とも話せない…」孤立化する多胎児家庭のママやパパをサポートする取り組み

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かわいいツイン
※写真はイメージです
bee32/gettyimages

子どもが1人でも育児は大変。ましてや双子や三つ子など(以下多胎児)がいる家庭は、性格も泣くタイミングも寝る時間も体重の増え方も、すべて違う複数人の赤ちゃんを同時に育てなくてはなりません。「授乳回数が多い」「睡眠不足」「外出が大変」などの困難を抱える多胎児家庭のママやパパは、気軽に相談相手を見つけにくく、孤立して引きこもってしまう人が少なくないそうです。そんな多胎児家庭の育児負担を軽減するため、2021年12月上旬「多胎児家庭支援の新たな取り組みに関する説明会」(主催/江崎グリコ)が開催されました。その内容をリポートします。

家にいても、外に出ても、独りぼっちと感じる

看護師の坂山光湖さんは「NPO法人つなげる」のピアサポーター(※多胎の妊娠出産育児を経験し、多胎育児家庭支援のための研修を受講した人)です。坂山さんは多胎児家庭のママが置かれている状況について「赤ちゃんたちのお世話に追われ、気づけば1日中だれとも話すことなく、休むこともなく、余裕もない。子育てひろばなどに外出しようと思っても、環境面から難しいこともある」と話します。

「ほとんどの家庭では、住居を選ぶ段階では双子が生まれることを前提にしていないでしょう。そのため、エレベーターがない集合住宅や、大きなベビーカーが入らないエレベーターや玄関では、双子の出産によって、出かけたくても家から出られなくなってしまうことがあるのです」(坂山さん)

坂山さんはさらに、双子の赤ちゃんのママが1人で赤ちゃんたちを連れて子育てひろばに出かけようとするときのシーンを例にあげ、困難さを説明してくれました。

「たとえば、玄関の中で2人乗りベビーカーを広げられない場合、ドアの外にベビーカーを置いて1人ずつ乗せることになります。玄関の前に2人乗りベビーカーを置き、1人を乗せてベルトを固定し、ドアを開けたままもう1人を迎えに行きます。ねんねの月齢の赤ちゃんならいいけれど、はいはいやあんよができる月齢だと、動き回るのを追いかけなければいけません。やっとベビーカーに座らせようと玄関を出ると、ベビーカーに座っているもう1人が泣いている状況…。出かける前からママはつらい気持ちになります。

ようやく家を出ても、乳児2人分の着替えやミルクやおむつが入った大きな荷物を抱えての移動は大変。道は広いところばかりでなく、バス乗車は難しく、駅ではエレベーターに乗れずに数回見送ることも。
子育てひろばについて、双子がバラバラの方向に行ってしまうと、ほかのママとおしゃべりするよりも謝ってばかりです。家にいても、外に出ても独りぼっちだな、と感じてしまい、帰りにふと涙が出てくる…。こんなふうに多胎児家庭のママは、出かけたくても出かけられない環境や、出かけて傷つきたくないという思いから、家に閉じこもったり孤立化してしまうことが多いのです」(坂山さん)

情報弱者になりやすい多胎児家庭にオンラインでのつながりを

多胎児家庭から「NPO法人つなげる」に寄せられた「困った」「つらい」の声

「NPO法人つなげる」の代表理事を務める中原美智子さんは、多胎児家庭向けのオンラインコミュニティーを開設。チャットやオンラインミーティングツールなどを通して、同じ境遇のママやパパがつながりあう場を作り、孤立しがちな多胎児家庭をサポートしています。

「多胎育児における困難な状況は、これまでもずっといわれてきた問題です。ですが、多胎児を抱える当事者はマイノリティーであるため周囲からの理解を得られにくく、社会から孤立しやすい状況にあります。支援するサービスや情報や商品などはいくつもありますが、 2人以上を同時に子育てする多忙さも相まって、ママやパパが支援に関する情報をキャッチしづらい問題が大きいです」(中原さん)

多胎育児ではとくに、授乳・泣きへの対応・おふろ・離乳食・事故予防の5つのシーンが大変だといわれています。1人の子でも大変なお世話ですが、成長や興味関心が同じ時期の子どもが複数いる多胎児家庭では、忙しさに手が回らなくなり、主に育児をするママが追い詰められるといった状況に置かれやすいのだそうです。

「授乳時間は2倍以上になりますし、離乳食は2人分を用意するのも食べさせるのも大変です。また、動き回る月齢の子どもが2人いると、危険も2倍に。多胎児家庭のママたちはいつも緊張感の中で育児しているのです。このような状況で、一般的に多胎児ママの心身状態としては“孤立孤独 ・慢性的な寝不足 ・閉塞(へいそく)感 ・体力の低下 ・無力感”などを抱えるといわれます。

疲れや孤立感から自信を失って『ちゃんとできなくてごめんね』と申し訳なさを感じ、子どもたちの誕生を喜べない状態にさえなってしまいます。これが長く続けば虐待につながることも。そうならないためにどうするかを社会が考える必要があると考えています」(中原さん)

「NPO法人つなげる」には、ピアサポーターが30人在籍し、多胎児家庭向けのオンライン相談も行っています。

「単胎児のママに多胎の相談をしてもわかってもらえずつらくなってしまうこともありますが、同じ境遇のママになら、つらさや悩みを安心して伝えられます。心理的安全が担保されている場所で交流をし、温かいつながりの中で、安心感や自己肯定感をもてるようになり、双子や三つ子を『産んでよかった』と思える気持ちにつながればいいと考えています」(中原さん)

多胎児家庭が液体ミルクを手に取りやすくなる、多胎児支援の取り組み

「NPO法人つなげる」は、多胎児家庭の授乳の負担を軽くする取り組みとして、江崎グリコが多胎児家庭向けに専用価格(約半額)で提供する「液体ミルク」の購入窓口になっています。
江崎グリコは、2020年7月から多胎児家庭向けに液体ミルクの購入補助支援の取り組みを開始しました(支援期間は2022年7月中旬頃まで)。日本多胎支援協会に登録した全国の支援団体(21団体)を通して補助を受けることができ、「NPO法人つなげる」もその支援団体の1つとなっています。

「2020年、多胎児家庭への調査(※1)で、約2週間液体ミルクを利用してもらい、行動と意識の変化をアンケートしました。調査結果から、多胎育児をするママの9割が『授乳・調乳回数の多さ』にストレスを感じていること、夜間の授乳や外出シーンで液体ミルクを使用したママの7割以上が『調乳の時間や手間が軽減された』と答え、利便性を実感したことがわかりました。

ただ、液体ミルクは粉ミルクに比べて高価です。多胎児の場合、紙おむつも肌着も2倍の経済的負担がかかる中で、ママが「自分が休みたい」という理由で液体ミルクを買うことには抵抗感があったようです。そんな中、昨年から江崎グリコが開始した、液体ミルクの多胎支援専用価格は、経済的負担が大きい複数の乳児を育てる多胎家庭にとってありがたいサービスです。

そこで、『NPO法人つなげる』は全国の専用窓口となり、多胎児家庭と江崎グリコをつなげる役割をしています(※2)。液体ミルクがお得に買える、というきっかけでもいいので、ぜひアクセスしてみてほしいです。そこから私たちの活動を知ってもらい、情報弱者になりやすいママやパパたちの孤独や孤立を防ぎたいと考えています」(中原さん)


お話/中原美智子さん、坂山光湖さん(NPO法人つなげる) 画像提供・取材協力/江崎グリコ 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

多胎児家庭のママたちが「悩みを話す相手がいない」「話してもわかってもらえない」という孤独やつらさを抱えていることを、知らなかった、気づかなかった、という人も少なくないのではないでしょうか。
江崎グリコは2021年12月21日から、多胎児家庭専用のオンライン無料相談「多胎児ファミリー向け母乳とミルクのお話会」を開始します。社内に6名在籍するピアサポーターが月1回程度のオンライン相談会を開き、多胎児家庭を支援する取り組みです。江崎グリコ公式サイトの「わくわく子育て広場」(※3)からアクセスできます。

※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

(※1)日本産前産後ケア・子育て支援学会、日本多胎支援協会による共同調査

(※2)NPO法人つなげる「私たちは多胎児家庭を支援します。液体ミルク篇」

(※3)江崎グリコ「わくわく子育て広場」

中原美智子さん(なかはらみちこ)

PROFILE
32歳で長男、39歳で双子を出産。
日本で唯一の、未就学児が2人同乗可能な三輪自転車『ふたごじてんしゃ®』を発案。多胎育児の環境をよりよくするため、NPO法人つなげるを2018年に設立。社会福祉士、株式会社ふたごじてんしゃ代表取締役、日本多胎支援協会 理事。

坂山光湖さん(さかやまみつこ)

PROFILE
NPO法人つなげる 講師/ピアサポーター。 ふたごさんあつまれ 代表(豊中市)。小児科看護師。

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