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97%の国民が「子育てがしやすい」と答えるスウェーデン。日本と何が違うの?【ジャーナリスト岸田雪子】

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幸せな家族のチームのポートレート、国旗、ペナントにテキストを表示します。
※写真はイメージです
Perboge/gettyimages

少子化問題、保育園の待機児童問題、育休問題など、日本社会の子育て制度はママやパパにとってまだまだ十分とはいいにくい状況です。一方、スウェーデンは世界一早く子どもへの体罰禁止法が制定され、子育てしやすい国として知られています。スウェーデンの子育ての支援制度などに詳しい、ジャーナリスト・コメンテーターの岸田雪子さんに話を聞きました。

「子どもの人格と個性の尊重を」というキャンペーンがすごい

――スウェーデンの子育てに注目されたきっかけはありますか。

岸田さん(以下敬称略) 私は大学時代にスウェーデンの介護制度や福祉制度の研究をしていたのですが、その中でスウェーデンが1979年に世界で初めて「子どもへの体罰を禁止する法律」を作ったことを知り、子育て政策についても興味を持っていました。その後、日本テレビで教育や子育ての取材をする中で、2017年から18年ごろ、虐待事件が大きな社会問題になりました。日本でも体罰を禁止する法律が必要だという議論が進み、スウェーデンの先駆的な試みが参考になるのではと考えたのです。
スウェーデンでは「子どもを産み育てやすい国だと思う」と答えた人の割合が97%を超えた調査(※)もあり、虐待防止だけでなく、子育て中の親を支える政策を考えるためにも、学ぶところが多いと思ったのです。

――スウェーデンの法律や制度のしくみから見る子育てのしやすさはどんなところでしょうか。

岸田 簡単にいうと2つあります。親に子育ての情報を提供したことと、そして親を支える制度を作ったことです。

まず情報については、子どもの年代ごとのふるまいの傾向や、それをふまえて「どうすれば体罰に頼らずに子育てできるか」といった親への具体的なアドバイスを伝える、国民的なキャンペーンを行いました。テレビCMや身近な商品パッケージなどを通して「子どもの人格や個性は尊重されなければならない」とした法律の趣旨が伝えられ、子どもを1人の人として認めましょう、といった原則的なメッセージを浸透させたのです。

日本では2020年に家庭での体罰禁止法が施行され、「こんなしつけ方は体罰になります」「子どもの成長に悪影響です」ということも発表されていますが、「じゃあどうやって子どもと接したらいいのか」の部分が欠けているように思います。親は愛している子どもを傷つけたくないはずです。でもどう向き合ったらいいかわからないと、「ひどいことを言ってしまったかも」「大きな声を出してしまったかも」「これって虐待かな…」と不安にもなる。ですから「子どもと向き合う方法」を提示することはとても重要だと思います。私は2021年12月に本を出版しましたが、このあたりの情報不足を、微力ながら補いたいという思いが出発点でした。

スウェーデンでは、就労の有無にかかわらず、子どもを預けられる

――制度面ではどんなサポートがあるのでしょうか。

岸田 スウェーデンではすべての自治体で、日本でいう保育園や幼稚園のような、1才からの子どもを対象にした幼児教育施設を用意することを義務にしました。また、家事代行サービスやベビーシッターなどに税額の控除が設けられたり、育児のための休暇を男性も取得するよう後押しする制度によって、子育ては母親だけではなく父親も、そして親だけではなく社会みんなで支えるものだ、というしくみが作られたのです。

仕事をしているか、専業主婦か、一人っ子か双子か、親が元気か介護が必要かなどにかかわらず、だれでも1才以上の子どもをちゃんと預けられる基盤があるということは、子どもが適切な養育と教育を受ける権利、親が自分のキャリアや人生を大切にする権利が認められることにつながり、親子関係のストレスを減らす、予防策にもなります。
日本では保育園に預けるのに「親が自分で育てることがいかに難しいか」を点数化されるのは、「親が育てるのが基本ですよ」というプレッシャーになってしまいます。家事代行サービスやベビーシッターはぜいたく、なんていう精神的な文化もまだまだあって、変化が必要です。

人間の子育てって20年近くもありますから、親子関係は、親子それぞれの人生にすごく大きな影響を及ぼすわけです。長期にわたる子育てを家庭だけで行うのは無理があります。日本とスウェーデンでは、いかに社会の中で子どもを育てるかを制度的に担保できたかという違いが大きいと思います。

――日本がスウェーデンの取り組みから学ぶべきはどんなところでしょうか?

岸田 子どもへの体罰禁止という、親に制限をかける法整備だけでなく、親を支える政策が必要だと思います。親が幸せに子育てできれば、子どもの自己肯定感や幸せにも近づきますね。制度的な部分では、スウェーデンのように子育てが母親に偏らないしくみのほか、社会での男女の働き方の平等性も重要です。日本では女性が男性と同じくらい働いたりお給料をもらったり、自分の時間を保つことなどが、まだまだ平等とはいいにくい現実があると思います。

その意味で「男性の家庭進出」も必要です。日本では女性は労働力として必要とされ、社会進出を進めよう、といわれますが、そのぶん男性が家庭に入ることを助ける制度が少ないですよね。そうするとやっぱりかみ合わなくなってきます。子育てしやすい国にするには、子育てを社会で支えるしくみと、「女性の社会進出」、そして「男性の家庭進出」が、同時に進む必要があると思います。

少子化対策は働き方改革だと私は思っています。スウェーデンでは、子どもにとって親の8時間労働は適切かという議論すらありました。子どもの発達、という視点から労働時間の管理を考えたんですね。子どもを多く産み育てようとすれば長時間労働では限界があるからです。

スウェーデンでは、子どもの発達に合わせた対応が必要とされている

――精神的な面や文化的な面での子育ての考え方はどうでしょうか?

岸田 スウェーデンでは、子どもの年齢に応じた発達への考慮を、社会全体で理解していることが大きな特徴です。
たとえば、「幼い子どもは騒ぐものだ」と考え、電車やレストランで子どもが遊ぶスペースが設けられるようになりました。子どもを甘やかして、注意しなくていいということではありません。子どもの発達を考えた上で、静かに過ごしたい大人のスペースと、どう分ければお互いに過ごしやすいか、という発想です。

日本では、子どもが騒いだら「親のしつけができていない」と批判されたりします。でも、たとえば2才から3才くらいは自我が芽生えて主張が強くなる年齢です。彼らを連れて電車に乗った場合、親がマナーを守らせようとしても苦労するのは無理もないことです。そんなときに、同乗者から親御さんに、笑顔やアイコンタクトを通じて「大丈夫ですよ」と伝えられるだけで、救われる方は増えるはずです。子どもの発達年齢ごとのふるまいを社会が理解し、親子をあたたかな目で見守ることは、社会で子育てを支える1歩にもなると思います。

子どもの発達への理解のためには、親御さんへの情報提供も大切です。日本でも、たとえば小学校で配られたプリントに「この学年になると、お友だちとの関係が変わってきます」とか「親に隠し事をするようになる時期です」などと書いてあることもありますね。ただ、各学校や先生の個別の対応が中心で、制度としてのバックアップは十分とはいえません。子どもの発達の視点に立った、子育て中の親たちを助けるようなガイドやしくみが、制度として作られてほしいと思っています。

お話・監修/岸田雪子さん 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

「長期にわたる子育ては、家庭だけではなく、社会がチームとして行うべき」と岸田さんはいいます。社会が子どもの育ちに寛容であることや、子育てへの制度的なサポートがもっと必要なのでしょう。スウェーデンの取り組みをヒントに、親である私たちも学べることは多そうです。

(※)内閣府「少子化社会に関する国際意識調査報告書」

岸田雪子さん(きしだゆきこ)

PROFILE
ジャーナリスト、キャスター、東海大学客員教授、日本発達心理学会員。
早稲田大学法学部卒業、東京大学大学院情報学環教育部修了。日本テレビに入社後、報道局記者、キャスターとして複数の情報番組のニュースコーナーを担当。独立し現在はテレビやラジオなどの報道・情報番組でコメンテーターとして活躍中。

『スウェーデンに学ぶ「幸せな子育て」子どもの考える力を伸ばす聴き方・伝え方』

親の「声かけ」が、子どもの可能性を引き出し育てる!「世界で今注目の親支援プログラムポジティブ・ディシプリン」×「発達心理学」×「伝えるプロの経験」から生まれた、画期的“親子コミュニケーション術” 。(三笠書房)

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