小児救命救急センター24時【鼻に異物が入った】
お兄ちゃんが“鼻に入れちゃったよ”と私のところに言いに来て気づきました
「1才9カ月の男の子が鼻にビー玉を詰めて苦しがっている」と、搬入依頼のホットラインが鳴った。すぐに搬送の許可を出すとともに、男の子が鼻に入れてしまったビー玉と同じものを持参するように指示をして、急いで救急室に向かった。ほどなくして救急車が到着し、母親に抱っこされた男の子の姿を確認することができた。見たところ男の子の状態は悪くなく、顔色や呼吸状態も問題があるようには見えなかった。すぐに診察すると、鼻の呼吸音は左右の差がなく、呼吸障害は認められないと判断した。
母親の説明によると、男の子が鼻にビー玉を詰めてしまったのはこんな状況だった。「いつもお兄ちゃんには"おもちゃを散らかしてはダメ"と注意していたんです。お兄ちゃんが遊んでいたビー玉を下の子が拾って遊んでいたらしく、お兄ちゃんが"鼻に入れちゃったよ"と私のところに言いに来たので気づきました。息子の鼻の中を見るとビー玉らしきものが見えたので、小鼻を上から押して出そうとしたのですが......。息子は嫌がって泣くし、逆にちょっと奥のほうに入ってしまった感じがして、怖くなって救急車を呼びました」
母親から、鼻に入れてしまったものと同じビー玉を見せてもらうと、ガラス玉ではなくプラスチック製と思われた。表面にはかなり光沢があり、滑りがよさそうであった。耳鼻科用かぎつきピンセットを用意してもらい、ビー玉をつまもうと試みたが、滑ってまったくつまめない状態だった。ピンセットでの摘出は困難と判断した。
男の子が暴れないよう、鎮静剤を点滴して摘出へ
そこで、最も細いバルーンカテーテルを用意するよう研修医に指示した。また、カテーテルの用意ができたら、男の子が暴れないように輸液路(点滴)を確保して、軽く鎮静を行うように指示を出し、摘出の準備を進めた。
男の子をあお向けに寝かせて観察すると、ビー玉の一部がわずかに見えるほどであり、バルーンカテーテルがうまくビー玉のわきをすり抜けて奥に達し、バルーンをふくらませることができるかどうか微妙な状態だった。
バルーンで無理な場合は、ビームスレイ・ブラスター(Beamsley Blaster)法(酸素管を鼻に入れ、酸素圧で異物を取り出す方法)で行うこととして、その方法を研修医に指導し、酸素管に取り付ける差し口を作った。差し口ができた時点で、バルーンカテーテルを慎重に挿入したところ、予想したとおりにビー玉の奥へバルーンカテーテルを差し込むことが困難であった。あきらめかけたときに奥まで挿入でき、先端のバルーンをふくらませて引き抜いたところ、ビー玉が転がり落ちてきた。男の子を押さえていた母親がそれを見ていち早く、「よかった! ありがとうございます!」と叫んだ。
鼻の粘膜が傷ついていないことを確認して男の子を帰宅させたが、母親はしきりに子どもたちに後片づけの大切さについて説明していた。そして最後には「私も一緒に家の片づけと整理整頓をやらないと」と繰り返していた。
【鼻に異物が入ったら?】
鼻、耳などに異物(おもちゃ、ボタン電池、小道具、昆虫など)を詰めてしまったときは、家庭でできる応急処置はないと考えて医師に電話相談などを行い、救急受診すべきかどうかを確認しよう。子どもが簡単に異物を手にできないよう、日ごろから整理整頓には十分注意を払うこと。
■監修:(故)市川光太郎先生
北九州市立八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長。小児科専門医。日本小児救急医学会名誉理事長。長年、救急医療の現場に携わり、子どもたちの成長を見守っていらっしゃいます。
【市川先生から…】
鼻・耳穴へ異物を入れる事故は少なくない。最も危険な異物はボタン電池、とくに電圧が高い大型のリチウム電池だ。食道異物も治療が難航することがあるので、電池の取り扱いには細心の注意が必要である。
イラスト/にしださとこ
【お知らせ】
市川先生が、赤ちゃんがかかりやすい病気や起きやすい事故、けがの予防法の提案と治療法の解説、現代の家族が抱える問題点についてアドバイスしてくださった「救命救急センター24時」は、雑誌『ひよこクラブ』で17年間212回続いた人気連載でした。2018年10月市川光太郎先生がご逝去され、連載は終了となりました。市川先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます(構成・ひよこクラブ編集部)。
※この記事は「たまひよコラム」で過去に公開されたものです。