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コロナ禍で少子化が加速⁉「男性育休」の法改定で、人口増加や女性就業への期待も【経済学者】

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新しい家に住む3人の若い日本人家族
TATSUSHI TAKADA/gettyimages

コロナ禍になり2年半以上がたちます。ある研究では、コロナ禍が少子化を加速させるという予測が出ています。
そんな中、少子化対策のひとつとして、男性の育休を促進する制度が今春から来春にかけて段階的に施行されます。男性が育休を取得することが、果たして少子化対策になるのでしょうか。結婚、出産、子育てなどを経済学から研究する、東京大学大学院経済学研究科教授の山口慎太郎先生に聞きました。

男女で育児をシェアすることで、少子化を解消

図表提供/山口慎太郎先生 男性が家事・育児を担っている国のほうが、出生率が高くなっていることがわかります。日本の男性は、ほとんど家事・育児をしていないのが現状です。

少子化は日本の大きな課題です。厚生労働省の「令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)」によると、出生数は81万1604人で過去最少。合計特殊出生率も1.30と前年の1.33より低下しています。(※1)

――男性の育休を促進する、改定「育児・介護休業法」が段階的にスタートしましたが、少子化対策としてどのように機能するのでしょうか。

山口先生(以下敬称略) 男性がより積極的に家事・育児に参加してもらうために、育休は重要なスタートといえます。最近の研究では少子化の理由として、女性だけに子育て負担を押しつけているからという話があります。男女で育児をシェアすることで、少子化の解消につながるのではないかと考えています。

男性の家事・育児負担の少ない国は、少子化になりやすい

図表提供/山口慎太郎先生 OECD加盟国20カ国を比較。家事・育児負担の男女差が少ない国のほうが、高い出生率になっていることがわかります。日本は男性がほとんど家事・育児をしておらず、出生率が低いのが現状です。

――少子化対策として、男性の育休取得だけでは効果が薄いように思います。子育て家庭にお金を配るなど、抜本的な改革が必要ではないでしょうか。

山口 少子化対策として、いろいろな政策の可能性はありますが、お金を配るというよりも、現物支給のほうがいいでしょう。
現物支給というのは、保育園を充実させる、保育園の待機児童をなくすなど、とくに母親の子育て負担を減らすような政策のほうが効果的ではないかと思います。

――より保育制度を充実させたほうがいいということでしょうか。

山口 現在の保育制度では、両親がフルタイム勤務など、保育の必要性が認められないと利用が難しいのですが、もっと利用者の間口を広くしてもいいと思います。
保育園を子育て支援の一環として考え、短時間利用や専業主婦家庭でも使えるようになるといいのではないでしょうか。
親にとっても使い勝手がいいですし、子どもには幼児教育を与えることができるため、メリットは大きいだろうと思います。

――日本の男性の育休取得率は約1割ととても低いのですが、いずれ西欧諸国に追いつくのでしょうか。

山口 私はそう思っています。日本の女性の労働市場参加率もずっと低いと思われていましたが、今は先進国の平均を超えていたり、アメリカより高かったりします。時間はかかるけれど、いずれ男性が育休をとることが珍しくない社会がくると思います。

北欧諸国の男性育休取得率は軒並み70%超

図表提供/山口慎太郎先生 日本の男性育休取得率は約1割。北欧諸国は70%以上と高い取得率を誇っている。

急激に伸びた日本女性の就業率

図表提供/山口慎太郎先生 日本では1997年以降、共働き世帯が専業主婦世帯を上回り、女性の就業率は伸び続けています。コロナ禍の影響で若干下がったものの、他国に比べ影響は少なかったといえます。

ジェンダー平等が男女の育休取得を後押し

――先生の著書『子育て支援の経済学』(日本評論社)の中で、育休について「すべての企業に一律に育休を義務づけて、そのコストを広く労働市場全体で共有する」ものだと書かれていますが、現状は女性を多く雇用する会社に不利な状況になっているのではないでしょうか。

山口 今はそうなってしまっていますね。すでに男性も育休をとれる国の制度は整っていますので、今後は社会全体で男性も育休をとることが”当たり前”という状況にしていくことが重要です。経済界がリーダーシップを発揮してほしいところです。

――男女の賃金格差も問題になっています。2022年7月の法改正で、男女の賃金の差異の情報公表が企業に義務づけられました。これも男性の育休取得促進につながるでしょうか。

山口 はい。そうだと思います。男女賃金格差の開示が格差の解消につながる方向になるということは、海外の分析から出ています。男女間の賃金格差が縮まれば、女性だけが育休をとることの経済的な合理性がどんどん弱くなっていくことが考えられます。

国際的にも日本には大きな男女の賃金格差がある

図表提供/山口慎太郎先生 OECD加盟8カ国を比較。日本の男女の賃金格差は縮まってきてはいるものの、国際比較するとまだ大きいといえます。ちなみに、法的に男女で賃金差別をすることは違法です。

――この数年で働き方が多様化し、フリーランスやギグワーカー(主にIT分野で単発の仕事を請け負う労働者)も増えてきています。このような人たちには、育休の制度がありません。

山口 育休に限った話ではないのですが、ギグワーカーを含むフリーランスは、法的に従来の労働者の概念にカバーされていません。育休を含めた社会保障の保護が必要になってくると思います。

厳しいコロナ対策が”生まれなかった命”を生む

――欧米ではコロナ禍に出生率が上向きになったという報道がありました。(※3)日本は出生率が上向く兆しがありません。どうしてでしょうか。

山口 どのくらいコロナ対策を厳しく行っているかという、社会・経済の影響が大きいと思います。欧米では聞いている限り、すでに日常を取り戻しているといいます。

――コロナ対策を厳しくすると、少子化に向かってしまうのですね。

山口 東京大学大学院経済学研究科の仲田泰祐先生のグループが、コロナ禍の影響を計算しているのですが、それによると結婚も減っています。(※4、※5)コロナ禍で会食など男女の出会いの場が激減してしまいました。
今までのコロナ対策は、コロナで亡くなる人を減らすためものでした。一方で、若い世代に負担をかけてしまっていた。若い世代や女性の自殺率にもコロナ禍の影響がありました。コロナ禍でなかったら生まれてきたであろう命もかなりあると考えられます。今後どう対策していくか、少子化の問題も含めて検討してほしいですね。

お話・監修・図版提供/山口慎太郎先生

取材・文/一乗梓、たまひよONLINE編集部

男性の育休取得が、女性の負担が軽くなるのはもちろん、人口増加や経済活性化など、多方面にいい効果が波及するという話には驚きました。一人一人の1歩は小さいかもしれませんが、多くの人が育休を取得することで「日本の未来が明るくなる」「自分が未来をつくっている」。そう信じて、堂々と育休をとりたいですね。

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

※1 厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)」

※2 内閣府 男女共同参画局「GGI ジェンダー・ギャップ指数」

※3 日本経済新聞「出生率反転、波乗れぬ日本」(2022年7月31日)

※4 千葉,仲田「コロナ禍における出生」

※5 千葉,仲田「コロナ禍における婚姻」

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