2022年4月から男性育休が変わる。少子化やジェンダー問題にも関わる大きな一歩
政府は男性の育休取得率を30%に引き上げることを目標に掲げるなど、今、男性の育休取得は変換期を迎えています。しかし職場では育休を希望する男性へのパタハラ行為などもあり、育休取得が進まない現状も。労働問題に詳しい、弁護士法人みお綜合法律事務所 弁護士・社会保険労務士石田優一先生に、男性の育休の現状について話を聞きました。石田先生は、5カ月の女の子のパパでもあります。
男性の育休取得率は約7%。「育休取得しづらい雰囲気」などが足かせに
2021年6月3日、男性の育休取得を後押しする制度などを盛り込んだ「育児・介護休業法」の改正案が衆院本会議で可決、成立しました。これにより2022年4月から男性の育休取得の在り方が変わっていきます。ポイントは次の3つです。
【Point1】企業から育休取得を促すことが義務づけられる
新制度では、企業から、育休の対象になる従業員に育休制度があることを知らせ、育休の取得を促すことが義務づけられています。
【Point2】大企業は、育休取得率を公表しなくてはいけない
従業員1001人以上の企業には、育休取得率の公表が義務づけられます。
【Point3】産休の男性版「出生時育児休業」が新設される
産休の男性版ともいえる「出生時育児休業」が新設されます。これは子どもが生まれた直後の男性が、通常の育休とは別に取得できる休業制度です。
新制度が作られた背景には、男性の育休取得がなかなか普及しないことがあげられます。
2020年7月、厚生労働省の発表によると2019年度の育休取得率は女性が83.0%に対し、男性は7.48%にとどまっています。
「男性の育休取得率は、10年ほど前は2%程度でした。着実に育休取得率は向上しています。しかし男性が育休を取りにくい職場環境があるのは事実です。
また2019年7月に発表された、厚生労働省の“男性の育児休業の取得状況と取得促進のための取組について”という資料によると、男性社員が育児休業を取得しなかった理由として25.4%の人が『職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった』と回答しています。また27.8%の人が『業務が繁忙で職場の人手が不足していた』と回答しています。
男性も育休を取得しやすい職場環境づくりの取り組みが広がっていかなければ、男性の育休取得率はこれからも伸び悩むと思います」(石田先生)
職場のパタハラによって育休取得をあきらめるパパも
パパが育休取得をあきらめる理由の1つには、職場でのパタハラもあります。
パタハラとは、パタニティ(父性)・ハラスメントの略で、いわばマタニティ・ハラスメントの男性版。育休を希望したり、取得したことによって職場で職能給の昇給を認めなかったり、過小な業務内容に変更されるなど不当な扱いを受けることです。
「パタハラをなくすためには、企業のトップから意識改革を呼びかけていくことが必要です。
またパタハラというと上司から部下に対する関係で問題になることが多いですが、同僚同士でも、力関係によっては、パタハラが成立することがあります。
育休取得を考えていたり、育休を取った同僚を批判するような言動が、パタハラになるケースがあることも意識しておいてください」(石田先生)
パパの育休は個人の問題ではない!少子化対策やジェンダー問題の解決につながる
日本の男性の育休の制度内容は、世界的に見ても決して悪くありません。職場に申し出れば、原則として子どもが1歳になるまで育休が取得できます。それにもかかわらず、育休を取得する男性が少ないのは、育休取得をよかれとしない風潮が多くの企業で残っているからではないかと石田先生は言います。
「男性が育休を取得しやすくなることは、企業や社会全体にとってもメリットがあります。働きやすく良好な職場環境づくりにつながって生産性が向上することも期待できますし、少子化対策にもなります。
世界経済フォーラムが発表した“ジェンダーギャップ指数2021”(世界各国の男女平等の度合いを指数化したランキング)によると、日本は156カ国中120位でした。日本は主要7カ国(G7)のなかで最下位でした。とくに経済分野では、男女間の不平等が一向に解消されていない問題が浮き彫りになりました。
男性が育休を取りやすい社会を作ることが、これからの日本を変えていくきっかけになるのではないかと思います」(石田先生)
取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
「男性の育休の推進は職場のトップの仕事で、自分には何もできない…」と考えるパパやママもいるかも知れません。しかし石田先生は、パタハラをなくすなど、男性が育休を取りやすい雰囲気を作ることは社員一人一人の心がけでできると言います。そうした心がけが、将来の子どもたちの働きやすさにもつながります。