「周りに頼ることも親の責任。貧困を責めないで」と支援スタッフ。子育て家庭の「見えない貧困」事情②
7人に1人の子どもが“相対的貧困”の状態にある日本(厚生労働省「国民生活基礎調査」調査より)。子どもの貧困率は1985年の10.9%から2019年には13.5%に上昇し、今日食べるものにも事欠く家庭が増えています。「見えない貧困」が増加する今、子育て家庭への支援に求められていることは何でしょうか。前回に引き続き、低所得のひとり親家庭(※)への食品支援(フードバンク)事業を行う認定NPO法人「グッドネーバーズ・ジャパン」の飯島史絵さんに、支援現場の声を聞きました。
※「ひとり親家庭等医療費助成制度医療証」をもつ、所得が限度額未満かつ生活保護を受けていないひとり親家庭で、通常は首都圏および近畿圏の配付拠点に直接取りに来られる人が対象。
食品支援が「心の支援」にもつながっている
――グッドネーバーズ・ジャパンでは、経済的に厳しいひとり親家庭に対する「グッドごはん」プロジェクトとして、食品配布を継続的に行っています。配布は寄贈品でまかなっているのでしょうか。
「基本的には企業や個人からの寄贈によるものですが、食品の確保状況により活動資金から購入して調達することもあります。企業からはご厚意で商品を提供してくださるケースのほか、パッケージ変更などの理由で市場に卸せなくなった商品を、フードロス削減の取り組みの一環としていただくこともあります。個人の方は、ご自身で購入した食品や、ご自宅にある余った食品を送ってくださっています」
――利用者の声にはどのようなものがありますか。
「以前、生鮮食品をたくさんお渡しすることができた月があったのですが、その時のことについて利用者さんからいただいた次のコメントがとても印象に残っています。
《お金や食料品がないと、だんだんやけくそになっていきます。ほんとに何もかもどうでもよくなります。自分だけ地方の住み込みの工場へ行こうかとも考えました。(略)そんな時、冷凍のお肉や、パイナップル、バナナ、野菜、日用品、お米等をたくさんいただきました。重くて重くて何度も立ち止まりながら帰りました。その重さがうれしくてうれしくて、さらにメッセージがたくさん書かれた紙もいただきました。ひとつひとつ読んで何だか力がわいてきて、それから、積極的に小銭集めからはじめました。古本を売ったりしました。今も就活中ですが、あきらめなくなりました。冷凍のお肉を少しずつ工夫して使いました。パイナップルはカットして冷凍し、弁当にいれました。いただいた食品は余ることなくありがたく食べました。あの時の帰り道の重さがやる気を起こさせてくれて、顔をあげて行動する力を与えてくれたと思っています》
食品を提供しただけで、貧困の根本的な問題が解決されるわけではありません。でも、食品の支援が生きる力につながっている方もいます。おなかがいっぱいになって終わるのではなく、シングルマザーやシングルファーザーの方々にとっては孤独の解消につながっていたり、子どもにとっても『親以外の誰かが自分を応援してくれている』という事実が力になっていたりして、食品支援の波及効果を感じています」
あえて対面での食品配布を続ける理由
――食品の支援が利用者の確かな生きる力につながっているのは、うれしいことですね。
「ひとり親家庭とひとことで言っても、妊娠中の方や乳幼児を育てている方、闘病中の方、育児に加え介護もしている方など、いろいろな立場や年齢の方がいます。それでも皆さんからのコメントで共通して多いと感じるのが『いつか私たちも、経済的に落ち着いたら支援する側に回って恩返しをしたい』というお言葉です。お子さんからも『ぼくも大人になったら困っている人を助ける人になりたい』といったコメントをよくいただいていて、こんなふうに助け合いのサイクルが生まれたら素晴らしいことだなと思っています」
――「グッドごはん」は開始当初から、宅配ではなく対面での食品配布を原則にしています。どうしてでしょうか。
「コロナ禍の緊急事態宣言下では配送対応に切り替えたこともあったのですが、私たちはやはり基本的に対面で渡し続けたいと考えています。以前、『グッドごはんの受付で自分の名前を呼ばれるだけで、社会とのつながりを感じてほっとします』とおっしゃっていた利用者さんがいたのですが、社会の中で誰かが自分の名前を呼んでくれる機会がなかなかないのだとすると、どれだけ孤独なのだろうかと衝撃を受けました。
お忙しい中で毎月申し込みをして、交通費をかけて拠点まで取りに来ていただくのは手間も負担もかかることだと思います。それでも“グッドごはんの受け取りに行くよ!”とお子さんたちと連れ立って笑顔で来てくださる方や、毎回近況をお話してくださる方、『スタッフの笑顔に力づけられた』『子どもにやさしく声をかけてくれて嬉しかった』とコメントをくださる方もいます。そういったコミュニケーションが、利用者さんの心を支える部分があるのではないかと私たちは信じています」
たくさん頼りながら、子育てしてほしい
――今後の支援はどのように考えていますか。
「4~6月の3か月間で延べ3,400世帯、5,833人の子どもたちに食品を配付しました。食品を受け取れる家庭をさらに増やせるよう、今後も支援の輪を広げていきます。
厚生労働省の調査によると、ひとり親家庭になった理由の8割以上が離婚です。ひとり親家庭、特に離婚だと自己責任論を持ち出されることなどもあり、当事者の方でさえ『自分で決めてひとり親になったのだから、誰にも頼らずに子どもを育てなければいけない』と考えているひとり親が大勢います。私たちが行った調査では、70%のひとり親が他者に助けを求めることに『抵抗がある』『どうやって助けを求めればいいのか分からない』などと回答しています。
ですが、私たちのように支援する団体や「力になりたい」と思ってくれる人はたくさんいます。そういうところに、苦しい時はどんどん頼って子育てをしてほしいです。頼れる先を見つけて子どもを育てていくのも、ひとつの親の責任ではないかと思っています」
飯島さんのお話から、私たち一人一人の物理的な支援が、ひとり親家庭の心の支援にもつながっていることが分かりました。困っている人たちの日々の生活を支えるために手を差し伸べることはもちろん、公的補助の充実など、見えない貧困の根本的な解決を目指して日々声を上げていくことも大事だと感じました。
特定非営利活動法人 グッドネーバーズ・ジャパン
グッドネーバーズ・インターナショナルは、自然災害、飢餓、紛争などで傷つき苦しんでいる世界中の人々の人道・開発援助を目的に、1991年に韓国で設立された国際NGO。アジア・アフリカ・中南米など世界40カ国以上で子どもの権利を守るための支援や地域開発を行う。グッドネーバーズ・ジャパンは2004年に開設された日本事務局。2017年から日本でひとり親家庭に焦点を当てたフードバンク事業を展開する。
(取材・文 武田純子)