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「ちがうをみとめる ちがうをこえる ちがうをたのしむ」〜 Mother’s Tree Japanの想いと在日外国人ママを取り巻く現状 〜

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外国人ママのお産教室

生まれ育った国を離れて、ときに自国の文化との違いに戸惑いながら、令和3年6月現在、282万3,565人(※)の外国人が日本で暮らしています。“Mother’s Tree Japan”は、日本に住む外国人、特に産前産後期のお母さんのサポートを目的としたNPO法人です。運営の中心となるのは坪野谷知美さん。2歳から15歳までを香港、イギリスで過ごしました。文化や習慣の違う国で身体の弱かった坪野谷さんが病気になるたびに、辞書を片手に医者とのやりとりする母親の苦労する姿が今でも目に焼き付いていると話します。そして帰国後保育士となった坪野谷さんがこの道に進むきっかけとなる大きな事件が起きました。産後うつとなった親友の自殺未遂。坪野谷さんは産前産後のお母さんに寄り添える方法を模索します。

※ https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00017.html

前編「『ちがうをみとめる ちがうをこえる ちがうをたのしむ』〜 Mother’s Tree Japanの想いと在日外国人ママを取り巻く現状 〜」では、“Mother’s Tree Japan”設立のきっかけや日本に住む産前産後期の外国人のお母さんたちが感じている不安などについて、話を聞きました。

頼る人がいない一人きりの子育てに追い詰められた突然の親友の自殺未遂

―――“Mother’s Tree Japan”設立のきっかけはどんなことだったのでしょうか?

坪野谷知美(敬称略、以下坪野谷):私の親友は産後うつが原因で自殺未遂をしてしまったんです。幸い事なきを得ましたが、団地の一人きりの空間で初めての子育てが思うようにいかず、「自分はもう母親失格だ」と追い詰められて、衝動的に手首を切ってしまいました。私が知っている彼女はとびきり明るかったのでとてもショックを受けました。それが大きなきっかけになりました。

保育士時代にも「産後うつ」のお母さんをたくさん見てきました。産後、何かしらつまずいた経験があるお母さんは、そのまま子育てのしづらさを引きずっていきます。実際にその時期に周りのサポートを得られたお母さんと、ワンオペで夫の帰りを待っているお母さんでは、子育ての楽しさも違うようです。

産前産後の時期に、保育士経験のある私がお家に行って例えばマッサージをしながら話を聞いてあげられたら、少しはお母さんのしんどさが緩むのではないかなと思い、ハワイとタイでマッサージの資格を取得しました。協会設立までの15年ほどは、フリーランスの産前産後セラピストとして、実際に妊婦さんや産後のお母さんのマッサージやケアをしていました。

そのうちに、だんだん外国人のお客さまも増えていき、彼女たちの話を聞いているうちに、自分たちの生まれ育った国の文化とは全く違う日本の文化のなかでお産や子育てをすることに不安を感じていることがわかってきたことも、大きかったです。

母国と違う文化、習慣、考え方に戸惑い、ストレスを感じる外国人のお母さんたち

無事に赤ちゃんを産んだ外国人ママ

――― 日本に住む外国人のお母さんたちはどんな不安を感じているのでしょうか? 何かエピソードがあれば教えてください。

坪野谷:例えばある中国人のお母さんは、産後は「シャワーを浴びてはいけない」「絶対に冷やすな」と言われてきたのに、日本ではお産の次の日から「シャワーを浴びなさい」と言われたり、氷の入ったジュースが出てきたりするんです。中国にいるお母さんから言われていることと真逆ですからストレスを感じないわけがありません。産後というものすごくナーバスな時期にそういうことの一つひとつがストレスとなってしんどかったと話していました。

ドイツ人のお母さんから聞いた話ですが、日本のお姑さんって赤ちゃんはすごく大事にするのだけれど、お嫁さんに対しては「赤ちゃんのお母さん」の扱いになりがちです。赤ちゃんのためにいいと思ったら、勝手に家に入ってきては、「これ食べなさい」「あれ食べなさい」といろいろな食べ物を持って来ては冷蔵庫に入れていくというんです。子育てに対しても「日本ではこうやるのよ」って言われてノイローゼになってしまったそうです。

タイでは、産後のお母さんは大切にされます。出産のときにタイからお姉さんが手伝いに来ていたお宅では、ご主人が「ちょっとそこの醤油取ってくれない」って言っただけで、「産後のお母さんに醤油を取らせる男なんてすぐに離婚しろ」って大騒ぎしたそうです(笑)。

彼女たちのマッサージをしていると、「やっと話を聞いてくれる人ができた」って泣いちゃうことがあります。文化が違うなかでお産や子育てをするということはそのくらいつらいんだろうなと感じています。

私自身海外で育っていて、母が子育てで苦労するさまを間近で見ていたので、なんとか助けてあげたいな、力になれることはないかなと強く思いました。

――― 海外の文化の違う国での子育て。お母さまも苦労をされていたのですね。

坪野谷:私が6歳から15歳まで、わが家は香港、イギリスで過ごしました。父の仕事の都合でしたから、ついて行った母は、現地の言葉はほとんど理解できませんでした。そのうえ、私が病弱で怪我も多い子だったので、苦労が多かったのだと思います。例えば、お医者さんに連れていくにも、言葉が通じない母はその度に父の帰りを待たなくてはなりませんでした。しかし救急となると一人で私を病院に連れて行って、理解できないながらに、辞書を引いて一生懸命話をしていた姿を覚えています。

帰国して最初に感じたのは、日本は女性や子どもに優しくない国!?

保育士を経て、産前産後セラピストとして多くのママたちをサポートしてきた坪野谷さん

―――そのときの経験が今の活動にもつながっているということでしょうか?

坪野谷:ちょっと話がずれてしまうかもしれないのですが、最近、日本で「ヤングケアラー」が注目されていますよね。日本に住む外国人の家庭の子どもは、例えば家族のために通訳をしなくてはならなかったり、家族の生活のために学業がおろそかになってしまったりすることがあります。それを日本人は「虐待」と捉えがちですが、海外で暮らすということは、小さなボートに運命共同体として乗り込んで必死に生き延びることでもあるんです。私の場合も、外国で暮らしている時は家族だけで固まっていましたし、親の都合で動くこともありました。当時、もしそれが「虐待だ」と言われても、多分ピンとこなかったと思うんですね。

だから、特殊な環境に置かれている外国人家族の結束の強さとか、逆に煮詰まり感とかが、自分ごとのように理解できるんです。

また、帰国後はありとあらゆる面で文化的ギャップを感じていました。日本では、みんなが忙しそうで急いでいます。街で妊婦さんが困っていても助けないし、子連れのお母さんがいても席を譲らないし、ドアも開けてあげないし、子どもをうるさがってしまうし、そういう文化にとても衝撃を受けました。女性や子どもに優しくない国だなと思っていましたね。

今は、女性や子どもの権利が尊重されつつあります。でも、それに反発した人が、ベビーカーを蹴ってみたり、罵声を浴びせたりしているとニュースで見ると、日本はまだまだ過渡期だなって感じますね。


取材・文/米谷美恵 写真提供/Mother’s Tree Japan

つい最近、筆者が体調を崩し入院したときのこと。コロナ禍ということもあり、カーテンで仕切られ同じ病室に入院している人の顔はわかりません。しかし時折、何語かはわかりませんが、看護師さんと会話する外国のかたの声が聞こえてきました。病気のときは誰でもが不安です。ましてコロナ禍。言葉はわかりませんでしたが、不安な様子が伝わって来ました。そして、今回坪野谷さんにお話をうかがって、彼女たちの不安をより強く感じています。生まれ育った国で、不安な気持ちを伝えられる術があり、周りには親や友達がいる。それがどんなに幸せなことなのか、思い知らされた気がします。

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

坪野谷知美さん


PLOFILE
幼少期を香港とイギリスで過ごす。
早稲田大学史学科を卒業後保育士になり、主に乳児保育と子育て支援に携わる。その中で産後ケアの必要性を痛感して産前産後ケアセラピストに転身。お客さんとして訪れる在日外国人ママたちの声を聞き、サポートの必要性を感じて2020年NPO法人Mother’s Tree Japanを設立。

■Mother’s Tree Japan:https://mothers-tree-japan.org

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