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ゆっくりと歩む自閉症の長女は17歳に。「障害児の親が働き続けられる社会を」と、母は活動を続ける

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長女3歳のころ。楽器が大好きで、大喜びで遊んでいました。

障害児や医療的ケア児を育てながら働き続けたい親たちが、ゆるやかにつながり、支え合っている「障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会」という団体があります。会長の工藤さほさんは、自閉症で重度の知的障害がある17歳の長女の母親です。
障害児の子育てと仕事にどのように向き合ってきたのか、どのように「親の会」を立ち上げたのか、2025年4月1日から施行される「改正育児・介護休業法」はどうなのか、今後の課題と展望について聞きました。
全3回のインタビューの3回目です。

▼<関連記事>を読む第2回

中学生になり、周囲のサポートのおかげで少しずつ身のまわりのことができるように

年中のとき、保育園の行事で親子で楽しむオリエンテーションゲームに参加しました。

――娘さんは私立特別支援学校愛育学園の小学部に通っていたそうですが、その後はどこに進学しましたか?

工藤さん(以下敬称略) 通っていた私立特別支援学校愛育学園には付属中学がなかったので、兄弟校のような存在の私立特別支援学校旭出学園中学部に進学しました。そこは高等部、専攻科があり、エスカレーターで進学ができます。

中学部でも娘は愛情豊かな先生方に見守られ、少しずつ成長することができました。先生方は娘の好きなことを見抜き、寄り添いながらできることを増やしてくれました。思春期を迎えた娘に合った身だしなみも配慮してくれたんです。
たとえば、スカートのホックを自分でとめるのが難しいと気づくと、脱ぎ着がしやすいゴム製のキュロットスカートに変えることを提案してくれました。
電車の中で足を閉じて座るのが難しかった娘には、キュロットスカートはぴったりでした。また、ボタンを自分でとめられそうなポロシャツタイプのシャツや、出し入れしやすい大きめのリュックなどを提案してくれました。
ちょっとした工夫を提案してくれたことで、娘はそれまでできなかったことがどんどんできるようになっていきました。

現在、娘は高等部2年生になりました。将来の自立に向け、身のまわりのことなどができるよう、練習を続けています。

将来の自立に向け、少しずつ練習を積み重ねている高等部2年生の長女

大きく成長して、長女は特別支援学校小学部を卒業しました。

――自立に向け、具体的にどのような練習をしているのでしょうか?

工藤 親元を離れ、1人で生活する練習をしています。娘の通う特別支援学校では、希望者が校内にある寮に泊まる「入寮経験」をするカリキュラムがあります。男子フロアと女子フロアに分かれていて、食事や余暇の時間は一緒に過ごしますが、完全個室で就寝などプライベート時間を過ごします。

入浴や歯磨き、洗顔などを寮の先生と一緒に練習し、朝食に何を食べるか決めて買い物に行くなどしています。私と一緒だと、幼児期の習慣が抜けず、自分でやろうとしないのですが、親元を離れることで、1人で取り組もうとするようです。
学校から洗髪や体洗いの手順表をもらい、週に1回、自宅でもヘルパーさんと練習しています。

最近は地元にある、障害のある子ども向けショートステイも楽しみにしています。施設に連れて行くと、すぐに中に入っていきます。思春期に入り、親と過ごすよりも本人は楽しいみたいです。同世代のお友だちやお姉さんのようなヘルパーさんと買い物に行ったり、遊んだりして充実したお泊まりの時間を過ごしているようです。
自立に向け、娘なりに歩む姿を見ると、これまでたくさんの人が彼女の成長を見守ってくれたおかげだと感謝しています。

――娘さんが高等部2年生となり、工藤さんの仕事の取り組み方も変わってきましたか?

工藤 先日、18年ぶりに宿泊を伴う出張に行きました。娘を妊娠してから初めてのことです。担任の先生が「娘さんは大きく成長しているので、今だったらできると思います」と言ってくれたのが大きかったです。
先生は、カレンダーに私の写真を貼り、いつ私がいないのか、帰宅する日はいつかがわかるようにしてくれました。娘は急な変化が苦手なため、私が出張する数日前からカレンダーを学校でも見せて、スムーズに適応できるよう配慮してくれたんです。

私が出張中、娘は寝る前に少し泣いていたそうですが、1人で眠れたそうです。小さいころは私がそばにいないと不安で、嘔吐するまで大泣きしていた姿を思い出し、娘の成長を実感しました
でも、私が出張から戻って4日後、娘は10カ月ぶりにてんかん発作を起こしてしまいました。振り返ってみると、そのときの私は仕事が忙しく、余裕をなくしていたんです。出張というイレギュラーなことに、気持ちを言語化できない娘がストレスを抱えていたことに気づけずにいたんです。娘の成長を過信しすぎて無理をさせてしまったと反省しました。

ただ、親は老いていきます。私がこの世からいなくなっても娘が困らないためにも、負担をかけすぎないように配慮しながら、一歩ずつ進んで行けたらいいなと思っています。

会を立ち上げ、現在は全国約400人のママ・パパとつながるように

工藤さんが宿泊を伴う出張に行く際に、担任の先生が作ってくれたカレンダー。11月8日のところがお母さん「おとまり」となっています。

――現在は出張にも行けるようになったとのことですが、仕事に復職したときは育児と仕事の両立に大変だったのではないでしょうか?

工藤さん(以下敬称略) 「毎日が綱渡り」と思うくらいギリギリでした。4歳のとき「知的な遅れを伴う自閉症」と診断された娘は、同年保育園に入園しました。私はその年に復職しましたが、1人だけでは回りませんでした。お迎えなどはヘルパーさん、シッターさん、私の父などに協力してもらっていました。育児と仕事の両立は、どのママも大変だと思います。でも成長とともに子どものできることが増え、手が離れていくものです。
娘は、特別支援学校高等部2年生になる現在も2歳程度の知能で、入浴や歯磨きの介助が必要で成長しても手がかかります。

育児と仕事の両立は短時間勤務でないと難しかったです。ただ、当時の会社の規定では、短時間勤務が利用できるのは子どもが小学3年生の年度末まででした。
経済的に自立するのは難しいであろう娘のため、私はなんとしてでも働く方法を探る必要がありました。

――仕事を続けるため、どんなことをしましたか?

工藤 2016年11月、同僚8人と朝日新聞社内で「障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会」を立ち上げました。周囲からは「頑張って」ととても好意的な反応があり、たくさん支えてもらいました。2017年度から、朝日新聞社では障害や疾患がある子を育てる従業員については、子の状態に応じて短時間勤務や勤務配慮の延長が認められるようになりました。
現在は「障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会」は全国のさまざまな地域、職種の約400人のママ・パパとつながっています。

――2024年5月に成立した「改正育児・介護休業法」が2025年4月からいよいよ施行されます。

工藤 私たちのような働き手にとって、期待が高まっています。
障害児の親たちが働きやすくなるよう、かなり配慮され、非常に画期的なものです。以前は、子が3歳になるまで、未就学までなど、健常児の育ちを基準としていた短時間勤務などの取得期間をそれぞれの困りごとに合わせ、柔軟で具体的な働き方を交渉できることになりました。
親たちは子どものために働きたいですし、福祉を受けるだけでなく税金だって納めたいんです。

「18歳の壁」を無くすために、活動を進めていきたい

2024年5月21日、改正育児·介護休業法成立を前に、障害児や医療的ケア児を育てながら働く両立の課題について、参議院厚生労働委員会に参考人としての招致も。(参議院インターネット審議中継から)

――今後、どのような活動をしていきたいですか?

工藤 障害のある人たちは特別支援学校高等部を卒業してからの18歳から、介護保険が適応されるまでの65歳まで、平日の夕方の居場所がすっぽり抜けているんです。障害が重いと日中の受け入れ先も見つからないことが多いです。こうした問題は「18歳の壁」と言われ、障害者の親はこのタイミングで失業したり、働き方の変更を余儀なくされたりする場合も少なくありません。当事者の実態としては、「壁」ではなく、「崖」です。

そうならないためにも、「18歳の壁」問題について生活介護のあとの2時間の居場所づくりの支援を国や自治体にお願いしています。本人にとっても、午後3時半以降、老いゆく親と自宅で過ごすだけの日々ではなく、暮らしに彩りが必要です。
子どもの障害や疾患は、事故や病気など不測の事態で起こることがあります。障害児を育てる親が働き続けることができる社会は、だれもが安心して子どもを産み、育てる社会につながると思い、活動しています。

高等部2年生のわが家の娘も、もうすぐ18歳を迎えます。高等部卒業後は、付属の専攻科に進学する予定ですが、楽しい青春を送ってほしいです。彼女の笑顔を守るため、私も全力で頑張りたいです。

お話・写真提供/工藤さほさん 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部

「子どものために何としても働かなくては」という強い思いから「親の会」を設立した工藤さん。話の中で、いつも周囲の人への感謝の言葉を伝える姿や、「障害児者を育てる親が働きやすい社会は、だれにとっても過ごしやすいと思います」という言葉が印象的でした。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

「障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会」Facebook

工藤さほさん(くどうさほ)

PROFILE 
1995年朝日新聞社に入社。2012年育休明けからお客様オフィス、2019年から編集局フォトアーカイブ編集部。障がい児や疾患児を育てながら働く・働きたい父母が支え合う「障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会」会長。こども家庭審議会成育医療等分科会委員。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年3月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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