「注射は痛くて当たり前」ではない!注射嫌いにさせないためにクリニックがしている3つのこと
「注射は痛くて当たり前」と思っていませんか? 実は「注射の痛みをできるだけやわらげよう」という欧米諸国の考え方が日本でも少しずつ広がってきています。接種部位に貼るタイプの麻酔剤を使ったり、注射前の説明に力を入れたりして、予防接種の不安を軽減させる取り組みをしている、はしもと小児科の小児科医・橋本政樹先生と、看護師・伊藤舞美先生に話を聞きました。
「注射の痛みは我慢するもの」という考え方が見直されてきています
――注射の痛みは一瞬ですし、我慢するもの・我慢させるものだと思っていましたが、痛みや不安をやわらげるケアが本当に必要なんでしょうか?
伊藤先生(以下敬称略) 2020年にWHO(世界保健機関)は「予防接種の注射の痛みだけでなく不安から起こる反応を認識し、痛みや不安をやわらげるケアをする必要がある」と提言しています。「注射に伴う苦痛を軽減するケアはして当たり前」という考え方が世界の潮流になってきているのを感じています。
子どもに注射までの流れをていねいに説明
――注射の痛みへの不安をやわらげるために、はしもと小児科で接種前に気をつけていることはありますか?
伊藤 何をするのか事前に子どもに説明することが大切だと思っています。予防接種のときは家庭でも、事前に簡単な言葉でいいので「病院に注射を打ちに行くよ」「病気から体を守るために大切なことなんだよ」と説明してほしいと思います。
はしもと小児科では、子どもへの説明に絵カードを活用しています。絵カードとは、病院のスタッフが書いた絵をカード化したもので、診察の様子が絵でわかるものになっています。
紙芝居のように絵カードを見せて、「まず聴診器で胸の音を聞くよ」「お口あーんしてお口の中も見るよ」「注射するよ」と1枚ずつめくって説明すると、診察室に入って不安で泣いていた子も、絵に集中して泣きやみます。
病院に来た子どもにとって、不安になる大きな要因の一つが、何をされるかわからないこと。だから「次はこれをするよ」と具体的にイメージできたら、予防接種の注射のときも、病気の診察のときでも子どもの不安をやわらげることができると思います。
注射を打つときは、子どもの気をふっとそらす
――注射時は親も子どもも緊張しがちです。接種時にしていることはありますか?
橋本先生(以下敬称略) まずは安全確保ですね。泣いてしまう子や嫌がって暴れてしまう子も、親がしっかり抱っこして、安全に注射できるようにすることが大切です。そして、注射から気をそらすのも痛みをやわらげるケアとして効果的です。
だいたい予防接種の時間は午後なので、会話できる年齢の子の場合、私は注射する直前によく「今日の昼ごはんは何食べた?」と聞きます。そして、子どもが「何だったっけ?」と考えている間に注射を終えてしまうんです。
また、直接、痛みをやわらげるケアではないですが、終わったあとはごほうびにシールやミニ消しゴムをあげることがあります。頑張りが認められると、子どもも気分が上がります。
貼るタイプの麻酔剤で、医療的な痛みのケアを取り入れることも
――ほかに取り入れているケアはありますか?
伊藤 はしもと小児科では、外用局所麻酔剤「エムラR®パッチ」を取り入れています。貼るタイプの麻酔剤で、注射の痛みを軽減できるものです。
予防接種の予約時に「こういうものがありますよ」と紹介し、希望した家族に看護師が貼り方と貼る部位について説明します。予防接種の予約時間の60分前に自宅で太ももや腕など指定した部分に貼ってきてもらい、注射の直前にはがしてその部分に注射します。接種部位に麻酔が効いているため、痛みをやわらげることができます。
その後、念のため15分院内に待機をお願いしています。今まで皮膚が赤くなったりかぶれたりといった副作用も見られたことはありません。
――なぜ「エムラR®パッチ」を使い始めたのでしょうか?
伊藤 小さく生まれてRSウイルス感染症の重症化を防ぐため月1回注射を打たないといけない子や子宮頸(けい)がんワクチン接種の痛みで失神してしまう10代の女の子たちの注射のストレスを何とか減らしたいという思いからでした。
もともと皮膚に塗るクリームタイプの局所麻酔剤があったのですが、 格段に使い勝手のいいシールタイプの「エムラR®パッチ」が出たことで、3年ほど前に使用を開始。シールタイプなら事前に自宅で接種を予定している部位に貼ってきてもらえば、混んでいる外来の待合室で待たせず気軽に痛みをやわらげるケアができます。
現在、当クリニックで子宮頸がんワクチンを打つ子の3~4割が使用。発達障害の子のほか、赤ちゃんの予防接種でもママやパパが希望すれば使っています。
――「エムラR®パッチ」を使ったことで、子どもたちには、どんな反応がありましたか?
伊藤 RSウイルス感染症の重症化を防ぐため定期的に注射が必要な子は、注射時に激しく泣いて呼吸できなくなるようなことはなくなり、子宮頸がんワクチン接種1回目のとき失神してしまった子も2回目に使ったら何事もなく済みました。
また、注射を嫌がって暴れがちな3才の男の子がいました。1回目の予防接種時にみんなで押さえつけて何とか接種した子だったのですが、「エムラR®パッチ」について説明して2回目のとき使ったら痛くなかったらしく3回目のときは自分から「エムラR®パッチ貼ってきたよ~」と私たちスタッフに見せに来て「注射頑張れるよ~」と言ってくれました。
やはり子どもは、注射の不安が軽減されれば、接種に協力的になってくれるんだな、と思いました。
監修/橋本政樹先生、伊藤舞美先生 取材・文/永井篤美、たまひよONLINE編集部
「ママ・パパが注射について説明し、接種後にほめてくれたという経験を重ねることで、子どもは注射をむやみに怖がらず前向きになれます」と橋本先生。
家庭でもまねできることはぜひ取り入れてみて。
「エムラR®パッチ」を取り扱うクリニックはまだ多くはないようですが、使いたい場合は、かかりつけ医に相談してみるといいでしょう。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
橋本政樹先生(はしもとまさき)
PROFILE
はしもと小児科院長。日本小児科学会認定小児科専門医。医学博士。国立香川医科大学(現・国立香川大学医学部)卒業後、愛媛県立中央病院元小児科医長などを経て1999年はしもと小児科を開業。
伊藤舞美先生(いとうまいみ)
PROFILE
はしもと小児科看護師長。保育士養成学校講師。アレルギー疾患療養指導士。日本ワクチン学会、日本外来小児科学会、日本小児保健協会所属。東京都立八王子小児病院(現・東京都立小児総合医療センター)NICU主任などを経て現職。