【女優・加藤貴子】2人の子どもの子育ては、迷いと不安ばかり。親の自己肯定感について考える
子育てのキーワードに「自己肯定感」が注目され始めて数年。子どもにはありのままの自分を大切にしてほしいと思う一方で、親である自分自身はどうでしょうか? 8才と5才の子のママで「自分の育児には迷いや不安ばかり・・・」と悩む女優の加藤貴子さんが、親自身の自己肯定の大切さについて、恵泉女学園大学学長の大日向雅美先生に話を聞きました。加藤さんが育児にかかわる悩みや気になることについて専門家に聞く連載第11回です。
自己肯定感って一体どんなもの?
加藤さん(以下敬称略) 自分自身のありのままを認める「自己肯定感」という言葉をよく耳にしますが、そもそも「自己肯定感」って一体どんなものなんでしょうか?
大日向先生(以下敬称略) 自己肯定感=自信というふうにとらえられがちですが、私はそうではないと思っています。自己肯定感とは、決して自信に満ちていることではなく、自分に不満や不安や疑問があっていいんです。それらも含めて自分自身を認め、向き合うことがスタートだと思います。
日本社会が自己肯定感というものに関心を持ったきっかけの1つは2013年に内閣府が行った日本・韓国・アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・スウェーデンの13〜29才までの子ども・若者を対象とした国際比較調査(※1)です。この結果から日本の子ども・若者の自己肯定感が諸外国に比べて非常に低いことが報告されたことが引き金となり、現在の「自己肯定感ブーム」に火がついたと考えられます。
質問項目を見てみると「自分自身に満足している」「自分には長所がある」という項目に「そう思う」と答える割合はたしかに低いです。ただ、思春期に「自分に自信がある」「自分はほかの人より秀でている」と思えないのは自然ですし、そういう気持ちがあってこそ努力することもできますね。この回答結果だけで、日本の子どもは自己肯定感が低い、とは必ずしも言えないのではないかと思います。
ただ、少し心配なのは「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」「社会現象が変えられるかもしれない」「将来への希望」などの項目に「そう思う」「希望がある」との回答率が低いことです。
今の子どもたちが育っている環境を見ると、間違ってはいけない、早くきちんと1つの正解を答えなくてはいけないと、学校からも親からも課せられているのではないでしょうか。正しさを求めるあまり、失敗したり自信をもてない今の自分を見つめることから逃げざるを得ないとしたら、それは心配だなと思います。
まず親が自分を肯定するには?
加藤 子どもの自己肯定感を考えるとき、では私は親として自分を肯定できているかな?と考えると、子育てではわからないことだらけ、反省だらけです。母親としてこんなところはよくできてるな、と思えることなんてない気がします・・・。不安を抱えながらの育児でもいいんでしょうか?
大日向 だれにとっても子育ては「初めて物語」で、これで大丈夫だろうかと不安になるのは当たり前だと思いますよ。子どもって親の思い通りにならないことばかりですよね。かわいいけれど、いたずらもあやまちもたくさんしてくれます。子どもの失敗やあやまちにおおらかに向き合うには、親自身も失敗した経験や、不安で揺れ動く気持ちがあるほうがいいと思うんです。親自身も悩みながら生きてきたのなら、子どもが失敗しても「やっぱり私の子だわ」と思えますものね。
むしろ不安や迷いがないほうが私は心配です。いつも正しく立派に生きてきて失敗や悩んだ経験があまりない親が仮にいるとすれば、子どもの自信のなさや、悪さをしたときのドキドキした感覚に寄り添えないのではないでしょうか。
「私の子育て、大丈夫かな・・・」と悩んでいる自分に気づいたら、「これはきっと私が一生懸命子育てをしている証拠なんだわ」と思ったらいいんです。それこそが、自己肯定感です。
ただ、そういう悩みや不安をストレスにしないためには言葉にできる場所があるといいですね。日記でもいいし、家族でも友だちでもいいし、自分に合った発散場所や相手を持つことが大事です。今はSNSなどでつぶやく人も多いようですね。そんなところをのぞいてみると、私だけじゃないんだ、って思えるかもしれません。
ママたちを苦しめる“べきおばけ”
加藤 私は今年52才で、8才と5才の子を育てています。私たちの世代は、努力して反省をして頑張った先に成功がある、という価値観で「自分のこんなところはダメだな」と自分を裁きながら育ってきたように思います。でも、今は世の中が変わり始めていて、自分が育ってきた「こうあるべき」という価値観が揺らいでいます。「ママだから正しいことを教えてあげるべき?」と悩みますし、子育てでやるべきことやそうじゃないこと、正解がわからないままです。
大日向 「母親なら〜すべき」という世間の考え方や空気が強迫観念のようになって、ママたちを苦しめている現象は2019年ころから“べきおばけ”と言われ始めました(※2)。ママたちは「ママはいつでも笑顔でいるべき」「離乳食は手作りするべき」といった“べきおばけ”にとらわれて、子育てをプレッシャーに感じて苦しくなってしまう、というものです。かつては“母性神話”や“三歳児神話”という言葉が使われていました。
このように、実態のないものがネーミングによってその存在のおかしさに気づけるようになったことはすごいことだと思います。子育てしていて「母親ならこうすべき」とだれかに言われたり、自分がその考えにとらわれたりして苦しいときに、「これは私が悪いんじゃなくて、もしかしたら“べきおばけ”なんじゃない?」と問い直すことができますよね。
このとき大事なのは、自分の感性です。つらい、大変だ、と感じたら、それを封じ込めないこと。自分がつらいと感じるのはなぜ?と考えて、「“べきおばけ”のせいかも」とわかれば、不必要に自分を責めずに済むのではないでしょうか。
加藤 悩みながら、わからないながらでもいいんですね。
大日向 そうです。「〜べき」にとらわれる必要はないし、みんなと同じでない自分にあせったり、コンプレックスを持ったりしないことです。時には孤独に強くなることも必要かもしれませんね。
子どもに失敗させたい親はいない
加藤 自分が子どものときに経験した失敗や後悔を、子どもにはできるだけさせたくない、成功体験をいっぱいさせてあげたいな、と願うと、つい力が入ってしまいます。それがかえって子どもの行動を狭めたり、窮屈にしたりしているんじゃないかな、というのも心配です。
大日向 加藤さんは、まじめに一生懸命に子育てしていらっしゃるんですね。子どもに失敗をさせたいと思う親はきっといないですよね。私もそうでした。「どんな失敗も無駄ではないから、失敗しなさい」なんてなかなか言えませんよね。でも、子どもたちは私の知らないところで当然傷ついたり、失敗しているわけです。そのときに親が「大丈夫よ」と傷ついている気持ちをそのまま受け止めてあげられればいいのではないでしょうか。
ラグビーの元日本代表選手で監督だった平尾誠二さんが、「ラグビーボールはほかの球技のボールと違って、目標の場所に落としてもどこに飛ぶかわからないのが面白い」とおっしゃっていたそうです。子育てもまさにラグビーに似ていると思います。
親がよかれと思ってしたことでも、子どもはラグビーボールのように予想外のところに飛んでしまうこともありますよね。そんなとき、親1人でボールを守ったり、追いかけたりは絶対できません。親せきや地域の人、保育園・幼稚園・学校の先生やお友だち、そういうチームで見守るものだと思うのです。
だからこそ、親は自分の手の届かないところを率直に認めて、ほかの人に素直に助けを求めることだと思います。それができるのもまた自己肯定感にほかならないと思います。
お話/加藤貴子さん、大日向雅美先生 撮影/アベユキヘ 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
子どもの自己肯定感を伸ばすには、まず親自身がありのままの自分を認めることが大事なのだそうです。1人で抱え込んだり自分を責めたりせず、周囲に上手に甘えたり助けを求めることが大切です。
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加藤貴子さん(かとうたかこ)
PROFILE
1970年生まれ。1990年に芸能界デビューして以降、数々の作品に出演。代表作として『温泉へ行こう』シリーズ(TBS系)、『新・科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)、『花より男子』(TBS系)などがある。
『もう悩まない! 自己肯定の幸せ子育て』
幸せな子育てのためには、まず親が自分を認めること。多くの親が抱える育児悩みの原因と解決策を探り、親自身の自己肯定感について考える。子育てのモヤモヤがすっと楽になる一冊。大日向雅美著/1540円(河出書房新社)