予定日より3カ月早く、573gで生まれた息子。9カ月に及ぶ入院、コロナ感染、そして在宅での医療的ケアの大変さも【体験談】
2021年4月、木下葉琥(はく)くんは予定日より3カ月早く、緊急帝王切開で生まれました。パパの謙太さん(31才)、ママの亜紀さん(31才)と3人家族です。葉琥くんの出生体重は573g。超低出生体重児です。NICU(新生児集中治療室)に入院中に心配だったことや、退院後の成長の様子について父親の謙太さんに話を聞きました。
生後9カ月におよぶ入院。退院後の自宅ケアを夫婦でなんとか乗り越えて・・・
――ママの亜紀さんが妊娠26週のとき、赤ちゃんの心拍が下がってしまったため、緊急帝王切開での出産となったそうです。2022年4月初旬、予定日より3カ月早く、体重573g、身長28cmで生まれた葉琥くん。NICUに入院中の様子について教えてください。
謙太さん(以下敬称略) 出産直後の医師からの説明では、肺が未熟ということ、1週間は感染症による命の危険があることなどを説明されました。また、MRI検査で脳に影が見えたため脳出血の可能性があるとも聞きました。小さく生まれた赤ちゃんは脳の血管が切れやすいらしく、脳出血がある場合は、成長段階で障害などの症状が出てくるかもしれないけれど、現状はまだわかりません、という説明でした。
生後1週間でいったん状態が安定したと言われてほっとしたのもつかの間、生後2週間では感染症にかかってしまいました。葉琥はほかの小さく生まれた赤ちゃんと比べても肺の機能が未熟だったらしく、肺に負担をかけないようにミルクを与える量もごく少量にする必要があり、体重の増えもゆっくりでした。未熟児網膜症の手術を2回受け、慢性肺疾患もあり・・・、心配なことだらけでした。
それでも、医療スタッフの方たちにも助けられながら葉琥は少しずつ成長してくれ、生後9カ月の退院時には、身長57.7cm、体重5820gにまで成長しました。
――葉琥くんが退院したのはいつごろですか?
謙太 2022年1月、ちょうどお正月のころです。退院時の検査では、葉琥は脳室周囲白質軟化症の可能性があると言われました。脳室周囲白質軟化症は運動神経にかかわる病気らしく、歩行や運動に支障が出る場合があるようで、出産し入院していた病院でリハビリを継続して受けることになりました。
そのほか、慢性肺疾患があるために在宅酸素のチューブを24時間つける必要があること、ミルクを飲むのに時間がかかりすぎてしまうため経管栄養のチューブもつけての退院となりました。
医療ケア、新型コロナ感染などの試練が次々と・・・
――家族3人で暮らせるようになってどう感じましたか?
謙太 もちろんうれしい気持ちはいちばんでしたが、最初の1カ月くらいは葉琥の医療ケアの対応に慣れるのに大変でした。夜中に在宅酸素のチューブがはずれないかと心配で、夜もあまり眠れず、毎日が疲労困憊(こんぱい)で、怒涛のように過ぎていった感じです。
1カ月が過ぎたころ夫婦2人ともあまりに疲れてしまって、私の仕事が車に乗ることが多く睡眠不足では危険ということもあり、葉琥が生まれた病院の医師に相談したんです。その結果、退院後2カ月目からは家族の寝室を別にすることに。夜のミルクを妻が担当し、朝のお世話を私が担当、と分担して、お互いの睡眠時間を確保するようにしました。夫婦でなんとか、試行錯誤しながら乗り越えてきています。
――現在自宅での医療ケアのほかに、リハビリなどはどうしていますか?
謙太 週1回の通院と、週1回の訪問リハビリの合計週2回のリハビリを受けています。また、ミルクを経管チューブで与えているので、そのチューブを週1回交換する必要があります。訪問看護師さんがきてくれるときに、妻が一緒に交換をしてくれています。
妻はそのほかにも、葉琥のフォローアップ外来への毎月の通院や、未熟児網膜症の経過観察のために眼科に行ってくれたりしていて、感謝しています。
――退院後の成長で心配なことはありましたか?
謙太 2022年7月の末に私が新型コロナにかかってしまい、ちょうど第7波が出始めたときで、葉琥にうつしたくなかったのでホテルを取ろうとしましたがどこも満室で入れず、そうこうしているうちに葉琥も発熱してしまいました。
すぐに出産した病院に連れていき検査してもらうと葉琥も陽性とわかり、その場で入院になりました。その後妻も発熱したので、2人は10日ほど入院に。幸い重症化もせず後遺症もなく済みましたが、もともと肺が弱い子なのでひどく肝を冷やしました。
また、葉琥は鼠径(そけい)ヘルニアもあり10月に手術を予定していたんですが、術前検査でPCR検査を受けたら再びコロナ陽性が出てしまいました。葉琥は無症状で、食欲も元気もいつも通りで自宅療養で済みましたが、手術は延期になってしまいました。
――鼠径ヘルニアの手術はいつまでに行うなど期限があるですか?
謙太 葉琥の症状の場合、鼠径ヘルニアの影響で精巣が上のほうに位置しているらしく、鼠径ヘルニアの手術と一緒に、精巣の位置を直す手術が必要なんだそうです。この治療は2才くらいまでにしないと不妊につながる可能性があると聞きました。私たちも不妊治療をして葉琥を授かったので、ゆくゆく葉琥が不妊で悩むことはなくしてあげたいと、なんとか2才になる春までには手術させてあげたいと思っています。
ゆっくり、少しずつの息子の成長を見守りたい
――では、1才7カ月になった葉琥くんの発達の様子を教えてください。
謙太 体重や身長は順調に成長してくれていますが、発達はゆっくりです。1才7カ月現在、まだ1人でおすわりはできない状態です。
離乳食は、ちょうど3回食になったところ。固形物をかみつぶして飲むのが難しいので、おかゆのようなとろとろした状態のものです。たりない栄養の分は、フォローアップミルクを経管チューブで与えています。
――葉琥くんとの遊びで好きなことはどんなことですか?
謙太 まだおもちゃでは遊ばないんですが、音には敏感で、抱っこして口笛を吹いてあげるとよく笑ってくれます。なんとか葉琥に笑ってほしくて、いろいろ工夫したりふざけてみせたりして一緒に遊んでいます。
小さく生まれて、発達がゆっくりということはわかっているので、葉琥のペースで少しずつ成長してくれればいいと思いますし、日々の成長を見られることに幸せを感じています。
――小さく生まれた赤ちゃんのパパとして、ほかの人に知ってほしいことはありますか?
謙太 私の会社や上司は育児に理解があり、仕事柄スケジュールも自分で組みやすいので、急な仕事が入らない限りは、毎日定時で上がって葉琥と一緒におふろに入るようにしています。フォローアップ外来への通院も、2週間に1回は必ず半日休みをもらって一緒に行くようにしていました。
でも、妻と一緒に参加している低出生体重児サークルの家族の話を聞くと、休みたくても休めない、仕事の帰りが遅い、という話をよく聞きます。男性の育休取得のニュースを最近よく目にしますが、まだ男性が休みづらい現状なのかなと感じます。
子どもが生まれ、妻と2人でなんとか育ててきて、子育てはやっぱり夫婦でかかわるものだと感じました。とくに小さく生まれた赤ちゃんの場合は、在宅酸素などの医療機器は、通院のために持ち運ぶのも大変です。通院する車の運転中にチューブが外れてしまっても、ママ1人で運転してはすぐに直すことができません。
勤務状況や育休取得など、子育てに対しての理解やサポートがもっと必要だと、一父親として感じています。
【亜紀さんより】小さく生まれた赤ちゃんの家族サポートも必要
私はもともと保育士で、お休みをもらって妊婦健診に行ったはずが急な出産となり、そのまま1年の産休・育休に入りました。ただ、葉琥の入院は9カ月にもなり、医療的ケア児の預け先もなく、結局職場には戻れず退職することに。早産児のママたちは私のように就労に悩む人も少なくなく、サポートが必要だと感じています。一方で葉琥を出産したことでのたくさんの出会いや経験もありました。葉琥がくれた経験を生かして新たな資格や仕事にチャレンジしてみたい、とも思っています。
お話・写真提供/木下謙太さん、亜紀さん 協力/板東あけみ先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部