女性の胸は「性的」なもの?「隠す・隠さない」権利とともに考える【ママ泌尿器科医】
ママであり泌尿器科医でもある岡田百合香先生の連載第35回。今回のテーマは、「プライベートゾーンについて伝える中での『胸』の扱いについて」。海外での考え方や歴史も踏まえながら考えていきます。「お母さんのためのおちんちん講座」ママ泌尿器科医#35です。
公共の場での女性のトップレス、どう考える?
先日、ドイツ、ベルリンの市営プールで、女性のトップレスがOKになったというニュースが飛び込んできました。
トップレスというのは、胸を衣類で隠さない、乳首を露出した状態のこと。
背景にあるのは、「男性は上半身の服を全て脱ぐ権利があるのに、女性にはないのはおかしい」という男女平等の視点。ドイツ以外にフランス、アメリカといった国々でも(州によって方針が異なるものの)女性が公共の場所でトップレスで過ごす権利を認めています。
プライベートゾーンについて伝える中で、一番悩ましいのが「胸」の扱い。
「どうして男の人は胸を出してもいいのに、女の人は隠さないといけないの?」
と、子どもに聞かれたら、皆さんはどう答えますか?
現代の日本では女性が胸を隠すのは当たり前すぎて、いざその理由を考えみると困ってしまう方も多いでしょう。
確かに、「選択の権利」という視点でいうと、男性は胸を隠す・隠さないを選ぶ権利が与えられているのに、女性は「隠さない」を選べないのは、不平等と言えますね。
「胸」の扱いを男女で平等にしようとすると、選択肢としては2つ。
・男性も女性も隠さなくてはいけない場所にする
・男性も女性も隠さなくてもよい場所にする
今回のベルリンの判断は、後者ということです。
日本のYouTubeで「男性の乳首も放送禁止」という対応は、前者にあたるでしょう。
日本より性教育が進んでいる欧米で、「女性が自分の胸を隠さない権利」を認める方向に進んでいるのは大変興味深いです。
「隠す権利」「隠さない権利」「見たくない権利」
そもそも、女性の胸はどうして性的なものと見なされるのでしょう。
出産・授乳を経験するまで、私にとって女性の「胸」というパーツは、大きさや形、乳首の色で(主に男性によって)優劣をつけられる存在でした。
授乳をするようになってからは、「赤ちゃんが吸いやすいように乳首をマッサージして!」「量が足りてないね」など、これまでと全く異なる「機能面」で評価されるようになり、「ああ、乳房って、乳汁分泌という役割を持った臓器なんだな~」と実感しました。そこに男性からのジャッジは存在しません。
周りを見ると、雑誌やネット広告、時に公共のポスターにも女性の胸を異様に強調したものがあふれていることに気づきます。女性の胸が「性的・エロいもの」になっている現状と、ジェンダーの問題は関係していると思っています。
さて、「胸」に関する歴史を調べていたら、驚きの情報を見つけました。
なんと、1930年代にアメリカで男性のトップレスを求める運動があったそう。
それまでは、男性の乳首も隠さなければいけないものとして、ビーチでもタンクトップ型の水着着用が義務付けられていました。そこから、男性たちの「乳首解放運動」が起こり、乳首を露出する権利を勝ち取ったんだとか。男性の乳首が「隠すべき」だったという歴史はとても興味深いですよね。
日本、欧米ともに、昔の美術作品や衣類の歴史をたどると、「性的」「隠すべき」と捉えられている身体のパーツは時代によって異なることが分かります。
イギリスでは胸より脚が「性的」だとされていた時代があったり、日本の江戸時代には女性の胸はそれほど「性的」なものではなかったようです。
宗教も大きく関係しているでしょう。女性は胸どころか肌すら見せてはいけないことになっている宗教もあります。
つまり、歴史や文化の中で、「性的な身体の部位」は変わりゆくものなんですね。
「隠したい人」の権利が尊重されるのは当然ですが、「隠したくない人」と「見たくない人」の権利の折り合いをどうつけるか。男女の間に存在する差をどうしていくか。
その国の考え方や民主主義、ジェンダー平等に関する腕の見せどころでもあります。
日本では今後「胸」がどうなっていくのか。引き続き注目していきたいです。
文・監修/岡田百合香先生 構成/たまひよONLINE編集部
参考:アメリカの男たちが闘った「乳首解放」運動 | 「俺たちはトップレスで泳ぎたい!」 | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)
https://courrier.jp/news/archives/153241/
●記事の内容は2023年3月の情報で、現在と異なる場合があります。