男の子、女の子、性別は関係ない。大切なのは、性暴力の被害者にも加害者にもしないこと【ママ泌尿器科医】
ママであり泌尿器科医でもある岡田百合香先生の連載第36回。今回のテーマは、「性暴力の被害者について」。「男性が受ける性暴力被害にも、ようやく社会の目が向けられるようになってきました。男の子だから、女の子だからの先入観は持たないで」と岡田先生は話します。「お母さんのためのおちんちん講座」ママ泌尿器科医#36です。
考えたい、性暴力被害について
以前、保育園に通う息子から、「●●くんがぼくにチューしてきて嫌なんだよね」と打ち明けられたことがあります。その子は明るく活発で、お迎えに行ったとき息子と仲良く遊んでいる様子を何度も見ていました。
きっと、彼にとっては愛情表現や遊びの一環としての「チュー」なのでしょう。
つい「あなたのことが好きなんじゃない?」と言いそうになりますが、それは絶対にNG。
「そうだよね。勝手にチューされるのは嫌だよね。」と子どもの「嫌」を受け止めた上で、「嫌だったこと、ママに話してくれてありがとう」と、伝えてくれたことへの労いも付け加えました。
「相手の同意なくキスをする」という行為は、大人の世界では犯罪です。
一方で、「無理やりキスをして事件になった」と聞けば、多くの人は、男性が女性に対して行った状況をイメージするのではないでしょうか。
女性が男性に対して行った場合や、男性同士でキスを、時に強要することは、「ラッキー」や「笑い」として軽視されていると感じます。
保護者の皆さんも、自分の息子が女の子にキスをしようとしたら「まずい!」と思うのに、娘が男の子にキスをしても「ほほえましい」と感じてしまうことはないでしょうか。
性暴力に関して、被害者=女性、加害者=男性
という構図が多くの人の意識にしみついています。もちろん男性による加害で女性が被害者となっているケースが非常に多いというのも現実です。
だからといって、男性の性被害の問題が置き去りにされてはいけません。
女の子だから、男の子だから、は関係ない
性暴力の動機は性欲だけではありません。同性間でも実行されるし、相手の心を傷つけたり、支配するための手段としても使われます。
男性が被害者にならないなんてことは決してなく、受ける心身へのダメージは女性が被害者であった場合と同様、きわめて深刻なものです。
息子を性暴力加害者にしたくない!
という気持ちから、「女の子のプライベートゾーンに触ってはいけない」「女の子にはやさしくしなければいけない」と熱心に伝えようとする保護者の方もいます。
それが悪いわけではないのですが、「プライベートゾーンの大切さに性差はない」「わが子が被害者になることだってある」いう視点を決して忘れないで欲しいと思います。
多くの小児性加害者と向き合う専門家の著書「小児性愛という病」(斉藤章佳)には、男の子ばかりを加害する男性の事例が登場します。「スポットライト」という映画は、神父が子どもたち(多くが男児)に性加害を行った実話を元にした作品です。
「男児が性暴力の被害者になる」というイメージがつかめないという方はこういった本や作品に触れてみてください。
「女の子は弱いから、身を守るための性教育を」
「男の子は強いから、相手を傷つけないための性教育を」
そうではなく、性別問わず、性暴力の被害者にも加害者にもしないこと。
大人の認識をアップデートしていきたいところです。
さて、息子がクラスの男の子にキスをされて嫌だったと打ち明けてくれた時、どう対応したらいいか悩みました。
息子に「『やめて』って言っていいんだよ」と伝えて様子を見るか、早い段階で先生に相談すべきか。こんなとき、性教育に積極的な先生がいてくれるととても心強いですよね。
きっと、子どもたちが集団生活する日々の中には今回のような性教育の芽がいたる所にあるでしょう。先生や園児たちが日常生活の中で性教育に触れられる機会が増えていくといいなと思います。
構成/たまひよONLINE編集部
●記事の内容は2023年4月の情報で、現在と異なる場合があります。