わずか356gで生まれた超低出生体重児。歩けないかも、と言われたけれど、3歳で初めての一歩が【体験談】
岡山県に住む草野永愛(えま)ちゃん(5歳)。5人きょうだいの末っ子である永愛ちゃんは、2017年10月に体重356g、身長27cmで生まれた超低出生体重児でした。生後9カ月で退院し、医療的ケアが必要だった当時から現在までの成長や発達の様子について、ママの和美さんに話を聞きました。全3回のインタビューの最終回です。
口から飲んだり食べたりする練習に苦労した
出生後すぐからNICU(新生児集中治療管理室)に入院し、生後9カ月までの間に8回もの手術を受けながら、少しずつ成長した永愛ちゃん。2018年7月に生後9カ月で退院したときには酸素と経管栄養のチューブをつけ、在宅医療ケアが必要な状態でした。酸素チューブは体の成長によって生後1歳半くらいにはずすことができましたが、経管栄養のチューブで栄養をとっていたため、口から飲んだり食べたりする練習に苦労したそうです。
「小さく生まれた赤ちゃんは、鼻から経管チューブを入れて胃に直接栄養を与えている場合、口から栄養をとったり飲み込んだりすることが苦手なことがあります。退院後は3〜4時間ごとに栄養ミルクを与え、1歳半ごろから少しずつ口から栄養をとる練習をしました。
永愛は水やお茶が苦手なので、市販の赤ちゃん用ジュースにとろみをつけて与えたり、ペースト状の離乳食から食べる練習を始めました。永愛は食べることになかなか興味が持てなくて、きょうだいが食事している様子を見ても、『私も欲しい!』という感じにもならず、食べさせるのにかなり苦労しました。永愛が食べられるものを欲しがるときに、行儀が悪くてもダラダラ食べてもいいからとにかく食べさせるようにして、2歳9カ月のころにやっと経管栄養のチューブもはずすことができました。
5歳になった今はおにぎり、シューマイ、から揚げ、コロッケなどが好きです。でもかむ力が弱いので、本当に小さくしたり切ってあげたりして、少量ずつ食べています」(和美さん)
歩けないかもしれないと言われていたけれど・・・
運動発達の面では、生後11カ月くらいのときに初めて寝返りができるようになりました。退院したころから股関節(こかんせつ)や手足の関節を動かすようなリハビリや、座位保持の椅子(適切な姿勢で座るための機能がついた椅子)に座る練習をしていました。おすわりは1歳7カ月のころ、はいはいは1歳8カ月のころにできるようになりました。
「2020年の初夏、4歳になる直前ごろから、月1回のリハビリで靴をはいて歩行器で歩く練習を始めました。
永愛の初めての一歩が出たのもちょうどそのころです。
週末にきょうだいたちと一緒にお散歩に出かけたときのこと。私と手をつないででしたが自分の足で一歩踏み出すことができ、きょうだいたちは『わぁー!』と歓声を上げて喜んでくれました。永愛はNICUを退院するときに、寝たきりになるかもしれない、歩けるようにならないかもしれないと言われていたので、ここまでできるようになったことも本当にすごいことです。
今も、月1回のリハビリに通い、歩行器で歩く練習と階段の上り下りをする練習をしています。歩行器も購入し、リハビリで練習方法を教えてもらって自宅でも練習をしています。今も家の中での移動ははいはいなので、保育園ではなく週に1回の療育に通っています。」(和美さん)
永愛ちゃんは言葉の発達もゆっくりです。5歳を過ぎて2語文が出るようになってきました。
「『ママ』と言い始めたのは4歳のころ。最近になってやっと『ここ、きて』とか『ここ、おって』といった2語文が出るようになってきました。言葉がなかなか出ないので、自分が訴えたいことはジェスチャーで表しています。『おにぎり』は左手をグーにして右肩をポンポンとたたくのが永愛なりの『おにぎり』。それを受け取れるように私が覚えてコミュニケーションをとっています。でも、永愛はおしゃべりがとっても大好きで、常に何か声を出したり歌ったりして、元気で明るい子に育っています」(和美さん)
4歳を過ぎて2度のけいれん、新型コロナ感染も
永愛ちゃんがNICUを退院して自宅で過ごすようになってから、和美さんたち家族は、風邪をひかないように、手洗いやうがいなどの予防を日常的にとても気をつけていました。永愛ちゃんは合併症で何度かの手術や入院を経験したものの、2歳を過ぎると成長とともに健康状態も落ち着いてきました。ところが、4歳を過ぎた2022年から、心配なことが続けて起こりました。2月と11月にけいれんを起こし救急搬送されたのです。
「2022年の2月、永愛が4歳4カ月のころに、自宅でいきなり意識をなくして倒れ40分以上も続くけいれんを起こしました。救急に連絡をするとドクターヘリで救急搬送となり、ICUに入院することに。その後2週間ほどで退院して状態は落ち着いていたんですが、10月に家族からの感染で新型コロナウイルス感染症を発症し40度の高熱が。1週間ほどで回復しましたが、その後2022年11月に再びけいれんを起こしてしまいました。『てんかんの可能性が高い』と診断され、現在もてんかん予防の服薬を続けています。
てんかんはいつ発作が起きるかわからないから、永愛を1人にするのがこわいです。急に意識がなくなって、ガクガク震え始める・・・けいれんを起こした永愛の姿が今も脳裏に焼きついています。私たちが住んでいる地域には救急車が1台しかないので、救急車の音が聞こえると『もし今発作が起きたらどうしよう』と、永愛の発作の様子がフラッシュバックします。成長とともに体調が落ち着いてきたと思っていましたが、去年ごろから心配事が続いてしまいました。今はてんかん発作を起こさないか毎日が不安です」(和美さん)
似た境遇の人との出会いが心の支えに
和美さんは産後に精神的に不安定になったことや、小さく生まれた赤ちゃんの成長のことなどを話し合える仲間を探しましたが、当時は岡山県にはリトルベビーサークルはありませんでした。
「永愛を出産してから、ずっと1人で孤独で悩んでいました。でも永愛が退院するころ、当時中学生だった長男にSNSの使い方を教えてもらい、SNSで低出生体重児のママたちとつながることができました。もっと早くSNSを始めていたらよかった、と思うほど、ママたちとのつながりに心が救われました。
SNSには、それまで母子健康手帳に書き込めなかった、小さく生まれた永愛の成長の様子を記録することもできました。そして永愛が2歳になる少し前の2019年夏、広島県の『しずくの木』というリトルベビーサークルが、世界早産児デーに合わせて写真展を開催していることを知り、私も岡山で何かできたら、と思うようになりました。その後SNSのつながりからリトルベビーハンドブックのことを知りました」(和美さん)
リトルベビーハンドブックは母子健康手帳のサブブックです。一般的な赤ちゃんよりも成長がゆっくりな低出生体重児の成長を記録するためのページや、先輩ママ・パパのメッセージがあり、現在日本各地でリトルベビーハンドブックの作成要望活動が広がっています。
「月齢にとらわれずに、自分の子どもの成長記録を書けるのがリトルベビーハンドブックのいいところです。そこで岡山県でも作成したいと思い、県内の低出生体重児のママと一緒に2021年の5月リトルベビーサークル『toiro』をに立ち上げました。サークルでは月1回のオンライン交流会を実施しながら、2021年8月に県庁に要望書を提出して、9月に岡山県議会で予算に組み込んでもらうことができました。県庁の担当者とZoomやメールなどでやり取りしながら作成が進み、2023年の3月から配布が始まりました。自分と同じ気持ちのママたちの支えになりたい一心でしたが、自分でも自分の行動力に驚いています(笑)」(和美さん)
現在は岡山県内のNICUのある病院と、市役所や保健所、保健センターなどで配布しています。
「サークルの交流会では、状況はそれぞれ違うけれど似た境遇のママ同士だからこそ、心を許せて話ができたり、一緒に涙を流して共感し合えます。それがみんなの心の支えになればと思っています。
赤ちゃんの成長は、一分一秒が奇跡の連続です。たしかに大変なこともたくさんあるけれど、私は周囲の人とつながり合うことで励まされてきました。小さく生まれた赤ちゃんのママやパパには、仲間がいると知ってほしいし『1人じゃないよ』と伝えたいです」(和美さん)
【髙橋章仁先生より】小さな生命はやがて大きな財産へ
新生児医療は大事な生命を守るという急性期の医療とそのお子さんの成長を見守っていく、成育をサポートしていくという慢性期~長期的な視野にたった医療も求められています。当院のような急性期医療の施設と地域の小児科医院、保健師さん、訪問看護、訪問リハビリ、小児療育施設等との連携は全国的にも大変重要なテーマになっています。永愛ちゃんという小さな生命を守り育てていくという経験を通して、私たちはそういったテーマに比較的早くから取り組めることができたのではないかと思います。今回あらためて小さな生命がもたらしてくれた大きな経験を再確認できました。永愛ちゃんのお母さんも大きなお仕事をされておられたのですね、これこそ将来の赤ちゃんとその家族への大きなプレゼントになることでしょう。
お話・写真提供/草野和美さん 監修/高橋章仁先生 協力/板東あけみ先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
岡山県のリトルベビーハンドブックには、和美さんと貴之さんもメッセージを寄せているのだとか。「このハンドブックは私たちの家宝のようなものになりました。一方で、障害のある子どもたちにももっと使いやすいようにしたいな、とも考えています」と和美さんは話します。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
『toiro』岡山リトルベビーサークル 公式LINE:@208ptppu
『toiro』岡山リトルベビーサークルお問い合わせ toiro.oka.lb@gmail.com
髙橋章仁先生(たかはしあきひと)
PROFILE
小児科医。倉敷中央病院小児科(NICU)勤務。1969年岡山県倉敷市生まれ。ムツゴロウさんの動物王国に憧れて、夢は獣医師であった。子ども好きが高じて岡山大学小児科学教室へ。福山医療センター、松山赤十字病院、高知医療センターで小児科研修後、淀川キリスト教病院や大阪母子医療センターで新生児医療の勉強をし、2008年9月から現職。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年5月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。