「とても困っている、助けてほしい」と言える場所に。自身の経験を糧に無料塾を始めた2人の子の母。育児放棄や貧困など厳しい現実に向き合って【体験談】
東京都町田市で活動する一般社団法人「つるかわ子どもこもんず」は、中学生向けの無料塾でかかわりのある子どもへの個別サポート、地域の大人と子どもが一緒に学ぶ場などを展開しています。始まりは、2018年、代表理事である福田有美子さん(56歳)が1人で無料塾を開いたことでした。毎日子どもたちと接するなかで痛感するのは、貧困や育児放棄などの厳しい状況だと言います。
2018年、中学生向けの無料塾を始めたことで気づいた、子どもたちの貧困や教育格差
――福田さんが主宰している「つるかわ無料塾 結い」では、おにぎりなどの軽食も提供しているそうです。
福田さん(以下敬称略) 私たちが開いている塾は、公立中学校に通う生徒であればだれでも通えます。収入制限などはありません。
2018年に開校したばかりのころに通塾していた子どものなかに、いつも青白い顔をしていねむりばかりしている子がいました。「どうしたの?」と聞くと「ごはんを全然食べてない」と言うんです。町田市の中学校は給食ではなくお弁当です。親にお弁当を作ってもらえないと、子どもはお昼ごはんがないんです。塾にきて空腹では勉強どころではありません。だから、少しでもおなかを満たしてもらおうと思って軽食のサービスを始めました。
開校して間もないころから手伝ってくれた仲間の1人が、お湯を注げばみそ汁になるみそ玉と、おにぎりを作って持ってきてくれました。
今でも塾で出す軽食は名物になっていて、塾を手伝ってくれる仲間たちが毎週おいしいおにぎりとおみそ汁を作ってくれています。
――現在でも、子どもが苦しい状況に置かれていると感じることはありますか?
福田 とても感じます。コロナの影響もあるのかもしれませんが、私の活動している地域では経済的に困窮している家庭は年々増えている印象です。
今私たちの活動には、地域の農家の人たちが野菜を寄付してくれています。生徒たちが好きに持って帰っていいように入口に置いてあります。あるとき、シングルマザー家庭の子が大きな丸ごとの白菜を「これをもらっていい?」と聞くんです。その子は電車で通っている子で、大きな白菜を抱えて電車に乗るのは恥ずかしいと感じるであろう年ごろです。それでも、その子は白菜があれば家計が助かると判断したのでしょう。白菜だと思われないように包んで持たせましたが、それでも重い白菜を電車で持ち帰ったことは大変だったと思います。
育児放棄されている子どももいました。親は子どもに食事代を渡すのもしぶるようでした。洋服も気をつかってもらえず、いつも袖口が汚れた制服のワイシャツを身に着けていました。こういうケースの場合、寄付された新品の洋服などをさりげなく渡すこともあります。でも子どもには苦しかった経験を糧にして、自力で頑張るエネルギーがあるんだと感じています。
だから、ただ与えるだけでなく、見守り、支えることも大切だと思って寄り添っています。その子は高校卒業後進学し、アルバイトをして、好みのファッションを楽しむようになりました。その子にとってとても苦しかったし、悔しかった経験でしたが、生きる原動力になっていると思います。だからこそ、勉強をして大学に行く道を頑張れたんだと思います。
学校に行かない子どもたちのために無料フリースクールを開校。キッチンカーの運営も
――塾や個別の子どもサポート以外にも、無料のフリースクールも開校されたと聞きました。
福田 塾に通っている子どもたちのなかには、学校に行かない子もいました。夜は無料塾に来て勉強できますが、昼間は居場所がないというのです。
現在、いわゆる不登校の子は全国で24万人以上いるといわれています。そのため、フリースクールも増えているものの、どこも有料です。平成27年に文科省が調査したデータによると、当時のフリースクールの平均月謝は約3万3000円でした。近年はさらに上がっていると思います。経済的な困難を抱えている家庭では、簡単に出せる金額ではありません。学校に行けなくなった子どもたちが昼間、安心して過ごせる居場所づくりとして無料のフリースクールを立ち上げました。
――ボランティアや寄付も多いとのことですが、ほか資金面はどうしているのでしょうか
福田 わずかな助成金では活動資金がたりなくなってしまいました。寄付もとてもありがたいのですが、費用は不足しています。
もちろん、子どもたちから塾代などを取るつもりはありません。だから、運営費を確保するためにクラウドファンディングで車を買い、キッチンカーの事業を始めました。私たちの活動の中では、キッチンカーが唯一収入を得る事業です。
正直なところ、十分な活動資金を得るほどの利益はありません。でも、無料塾の管理栄養士をめざす卒業生がアルバイトをして職業体験することもできるし、卒業生たちがお客さんとして来てくれて、元気そうな顔を見せてくれます。頼もしく成長した姿を見ると、本当にうれしいです。
それに、塾やフリースクールで待っているだけでは、困っている人を見つけられないかもしれません。まもなくスタートする「移動子ども食堂 ぽかぽかキッチン号」で私たちが移動することで、新しいつながりが生まれるのではないかとも考えています。
人に助けてもらうことの大切さを教えていきたい
――運営には大変なことも多いと思いますが、活動を持続させる秘訣はなんでしょうか。
福田 「人に助けてもらうこと」だと思います。もちろんすべてを人に委ね、頼りっぱなしになるのはよくないと思うのですが、「今、こんなことをやろうと思っています。でもここがたりないんです」と声を出し、力を貸してもらうことは非常に大切だと思います。
こう考えるようになったのは、長男が難病にかかり、私1人ではどうしようもなくなった経験が大きいです。私は「人に弱みを見せてはいけない」と、すべてを1人で抱えこみがちでした。でも、長女もいるなか、長男が難病にかかり長期入院したことで、私だけでは手が回らなくなってしまったとき、周囲のたくさんの人たちが手を差し伸べてくれました。この経験が大きな転換点になりました。
――福田さん自身に気持ちの変化があったのですね。
福田 助けてくれる仲間が増えれば、相乗効果で大きな力が発揮されると思います。
子どもたちにも、1人で悩みを抱えるのではなく、周囲の大人に相談したり、助けてもらったりすることが大事だと伝えたいです。塾に在籍中の子どもはもちろん、卒業生たちにとっても、SOSを出せる存在が私たちでありたいと思っています。だから「卒業したらさよなら」ではなく、ちょっとしたときに「元気?最近どうしてる?」とLINEするなど、「あなたのことは忘れていないよ」とメッセージを送っています。子どもたちにとっても、見守ってくれている人がいるというのは、心の支えになるのではないかと感じます。支援は継続的に行うことが重要だと感じています。
――子どもたちにとっても強い心のよりどころになりそうです。
福田 私たちは、「子どもこもんず」という名前を掲げ、子どもたちの支援をしています。でも、子どもたちを通じて感じることは、今はとても子育てがしにくい環境になっているということです。悩みを打ち明けられず、孤立しているお母さんたちも少なくありません。子どもも親も「今、とても困っている、助けてほしい」と言える環境づくりを、地域を巻きこんで作っていきたいです。
今、政府も子育て支援を進めていますが、子育て世代が本当に求めていることが伝わっていない気がしています。だから「こんなことで困っている」ということはどんどん声をあげていくべきだと思います。子どもたちにも、自分たちの権利を侵害されそうになったら「それは嫌だ」と意思表示をしっかりする必要があると伝えています。私たちのできることは小さなことかもしれません。でも、活動を続け、少しでも支えに思ってくれる人が増えるといいなと思います。
お話/福田有美子さん 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部
福田さんからは、子どものためを思い、さまざまな事業を展開する圧倒的なエネルギーを感じます。「子どもを支援したい」と一途に思う気持ちが伝わるからこそ、たくさんの人が協力してくれるのでしょう。福田さんは「子どもたちからは本当にさまざまなことを学ばせてもらっています」とも話します。
福田有美子さん(ふくだゆみこ)
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岐阜県出身。一般社団法人「つるかわ子どもこもんず」代表理事。東京都町田市鶴川地区で、中学生向けの無料塾、無料フリースクール、子どもへの食事提供、発達障害児などの子どもの学習支援、大人と子どもが一緒に学ぶ勉強会などを運営する。