歯ブラシを口に入れて立ち上がったり、走ったりさせないで!【小児科医】
消費者庁消費者安全課では定期的に「子ども安全メール」というものを出しています。2023年6月8日のvol.629 は、「歯ブラシがのどに刺さる事故」という内容でした。小児科医の太田文夫先生も、事故事例を診察したことがあると言います。「小児科医・太田先生からママ・パパへ、今伝えたいこと」連載の#34です。
“歯ブラシでのどを突いた”男児を診療しました
千葉市では当番に当たった開業医や勤務医が、病院に出向いて夜間救急外来を担当していますが、数カ月前に夜間救急外来(19:00~21:00)を担当していたときに、歯ブラシでのどを突いたという2歳前の男児を診療しました。2歳前の男児は、母親との来院でした。母親によると
「夕食後の歯磨きが終わって、さあ歯ブラシを片づけようとしていたとき、子どもがねらっていたようにサッと歯ブラシを取って口にくわえて走りだして、そして転んでしまったんです。とっさのことで止めることもできなかったんですが、口の中を痛がっているので、のどに刺さったかもしれない・・・」とのことでした。
上あごの奥のやわらかい部分が赤く
診察すると、上あごの奥のやわらかい部分に一カ所、ちょっとだけ赤くなっているところがあります。そこが転んだ瞬間に刺さった傷かもしれない、傷の程度をしっかり検査することが必要だと考えて、その後の対応を入院や検査のために待機している病院の当直医師にお願いしました。
歯ブラシや箸、おだんごや焼き鳥のくしなどの長くて細いものは深い傷になって、場合によっては命を落とすことにつながることもあるので、傷が小さいからとか、診たところ血が出ていないから大丈夫とはいえないのです。
後日届いた報告書には、「赤くなっていたところに歯ブラシが刺さって深い傷ができており、しばらく入院治療を要した」と書いてありました。
私としては、そのまま帰さないでよかったとホッとしましたし、母親が夜間救急外来に受診してくれたことにも感謝しました。
子どもの歯磨き時には注意が必要
日々の診療中でも「のどを突いた」ことがあるという話は時々耳にするので、1歳6カ月健診、3歳健診のときには、歯磨き後に子どもに歯ブラシを渡してはいけないという説明は必ずしていますが、実際に事故直後の子の診察をすることはめったにありません。今回は貴重な経験をさせてもらったので、ぜひみなさんにも知っておいてほしいと思います。
複数の子どもを順番に歯磨きする際に、1人終わって次の子の歯磨きに取りかかったときに歯ブラシを取られないように気をつけなくてはいけないというような説明もしていますが、今回のように子どもが2歳近くになると「歯ブラシを取ってやろう」とねらっている場合もあると知ると、本当に一瞬たりとも油断できないなと思いました。
私が事故に遭遇したのは数カ月前でしたが、2023年6月8日に配信された消費者庁の「子ども安全メール」が、この事故の注意を促す内容でした。
調べてみると3年前にも同じような内容のメールが発信されているのを見つけました。親も子どもも入れ替わるので、こういった情報は繰り返して発信すべきものだと思いますが、事故は、気をつけてさえいれば起きないとは言えないということの証明でもあるとわかり残念でもあります。
大人は、子ども自身が歯ブラシをくわえてしまうことが命にかかわる事故を起こす危険があることを知っていますが、子どもは、興味本位で自分でも磨いてみたい、甘い歯磨きジェルをなめてみたいと思うだけで手にしたがります。事故につながる危険性はわかっていないので、歯ブラシを手に入れたら、怒られたり、追いかけられたりしないようにと、走りだすこともあります。このギャップがさらに事故のリスクを高めているのでしょう。
子どもの事故予防の情報にアンテナを立てて
事故予防は、大人が気をつけていれば大丈夫という単純なことではありません。消費者庁が作成した「子どもを事故から守る!ハンドブック」は、母子健康手帳の事故予防ページから簡単に検索できます。今年4月に発足した“こども家庭庁”も子どもの事故予防にも力を入れており、ホームページ(HP)に子どもの事故防止に関するサイトも立ち上げて、多くの情報を提供して事故予防の啓発をしてくれています。こういった情報をうまく利用して事故予防に役立てましょう。
子ども安全メール登録は、消費者庁のサイトや、母子健康手帳の子どもの事故ページから登録ができます。ぜひ活用してほしいと思います。
構成/たまひよONLINE編集部
「歯ブラシののど突き事故」何度も注意喚起がされていても、なかなか無くならないようです。危険をしっかりと認識し、歯磨き中の行動はしっかり見守り、歯ブラシをおもちゃのように渡すのはやめましょう。
●記事の内容は2023年6月の情報であり、現在と異なる場合があります。