「歯ブラシがのどに刺さり集中治療室…」歯磨き中、のど突き事故に注意!【小児歯科医】
![お母さんと娘は歯を磨く](https://img.benesse-cms.jp/tamahiyo/item/image/normal/7445c259-3b0f-4143-a499-2403399d8c57.jpg?w=720&h=480&resize_type=cover&resize_mode=force)
子どもが1人で歯を磨いている間、ちょっとしたすきに転んだり、ぶつかったりして歯ブラシでのどを突き、大事故につながることがあります。消費者庁では、子どもの歯磨き中の、のど突き事故に関して注意喚起をしています。乳幼児の口腔(こうくう)環境に詳しい、小児歯科医 浜野美幸先生に、歯ブラシによるのど突き事故について話を聞きました。
乳幼児の歯ブラシ事故は、5年間で120件
消費者庁は、医療機関ネットワーク事業(※)の参画医療機関から、6歳以下の子どもが歯磨き中に歯ブラシをくわえたまま転倒してのどを突き、口の中に刺さってけがをしたなどの情報が2016年4月から2021年3月末までの5年間で120件寄せられたと発表しています。
※医療機関ネットワーク事業は、参画する医療機関から事故情報を収集し、再発防止にいかすことを目的とした消費者庁と国民生活センターとの共同事業。2010年12月から運用を開始。2021年3月末時点で30機関が参画。
歯ブラシによる事故が多いのは1~3歳。原因のトップは転倒
<年齢別事故件数>
消費者庁の調査によると、歯ブラシによる事故が多いのは1~3歳。けがを負った理由は、トップが転倒(72件)でした。そのほかはぶつかる(13件)、転落(12件)などでした。
「歯ブラシがのどに刺さって集中治療室へ」幼児の事故報告事例
医療機関ネットワーク事業に寄せられた事故報告事例を紹介します。
●歯ブラシをくわえたまま、2歳の子が大人用ベッドの上で飛び跳ねていました。保護者が気づいたときは、口の中に歯ブラシを入れたまま、はいはいの姿勢で泣いていました。歯ブラシ はすぐに取れましたが、転倒した際に咽頭(いんとう)部に刺さったと考えられました。咽頭粘膜の下に空気がたまっていたため、集中治療室に入院。8日間入院しました。
●歯磨き中に上の子とじゃれ合い、下の3歳の子が転倒。保護者は隣にいたものの転倒の瞬間は見ておらず、気づいたときには口に歯ブラシが入った状態でうつぶせになっていました。口腔内損傷と頸動脈周囲まで空気のたまりがあったため、集中治療室に入院。6日間入院しました。
●5歳の子が、洗面所で歯磨きを。仕上げ磨きのために保護者がいるリビングに向かう際、歯ブラシをくわえた状態で転倒。保護者が、物音で気づいたところ、はいはいの姿勢で泣いており、歯ブラシは床に落ちていました。夜間に痛みと熱っぽさがあり受診。 画像検査で、 頸動脈血管損傷を疑われ、集中治療室に入院。10 日間入院しました。
歯ブラシ事故による「通院」は41%、「入院」は22%にも
<治療の必要性・処置見込み>
消費者庁の調べによると、歯ブラシ事故による治療は、要通院と要入院を合わせると63%と半数以上を占めます。事故報告事例にもあるように、集中治療室に入院するケースもあるため、決して軽視できない事故です。
歯ブラシ事故を防ぐ3つの約束とは!?
歯ブラシによるのど突き事故を防ぐには、どうしたらいいのでしょうか。
小児歯科医・浜野先生は「乳幼児の事故予防の基本には、3E(Environment:製品・環境デザイン、Education:教育、Enforcement:法規制)という考え方があります。歯ブラシによるのど突き事故も、この3つの側面からのアプローチを組み合わせる必要があります」と言います。
そのため事故を防ぐには、次の3つの約束を守りましょう。
1.椅子や床に座って磨く
自分磨きでは、立って磨かせている家庭は多いと思いますが、子どもは立っていると動きたくなるものです。歯ブラシをくわえたまま動いているうちに転倒したりして事故が起きるので、3歳以下の子は必ず。4歳・5歳でも動いてしまう子は座って磨くことを習慣にしてください。椅子や床から立ち上がったり、モゾモゾ動き出したら“ママ(パパ)が磨くね”と言って、歯ブラシを預かって仕上げ磨きをして、歯磨きタイムは終わりにしましょう。
2.のど突き防止の歯ブラシは、正しく使う
写真のようなのど突き防止の歯ブラシを使いましょう。のど突き防止の歯ブラシは、安全パーツを確認して正しく使うことが大切です。
3.歯ブラシは、歯磨きのときだけ持たせる
歯ブラシは、歯磨きのときだけ持たせましょう。歯ブラシの保管場所にも気をつけてください。歯ブラシを持ったまま歩いたり、遊んだり、きょうだいでじゃれ合ったりしていて事故になっています。
「子どもは、ママやパパのマネをするので、大人も歯を磨きながら立ち歩かないようにしましょう。
こうした約束を守ることと、習慣をつけることで、歯ブラシによるのど突き事故は防げます。
また就学前の子は自分磨きだけでは不十分ですので、自分で磨く気持ちを大切にしつつ、仕上げ用の歯ブラシを使って大人がしっかりプラークを取れることが大事です」(浜野先生)
事故が起きたときは、ライトで口の中を確認
万一、歯ブラシでのど突き事故が起きたときは次の3点を確認してください。1つでも該当した場合は、かかりつけの小児科や小児歯科、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
また家庭で口の中を見るときは、明るい場所で。懐中電灯やスマートフォンのライト機能などを使うと見やすいです。
1.口の中に傷や出血がある
ほおの内側やのどの奥、舌の裏側に傷や出血がないか確認する。
2.歯ブラシに血が付いている
ブラシの部分だけでなく、柄の部分も見て出血があるときは受診する。
3.傷・出血はないが泣き続ける
傷や出血がないのに時間がたっても泣き続ける場合は、念のため受診を。ママやパパでは見えない部位に傷ができている可能性もあります。
「口の中には約400種類の雑菌がいます。ママやパパから見ると、出血や傷は大したことないと思っても、歯ブラシから細菌感染を起こして、飲み込むときに痛がったり、飲み込みづらくなったりすることがあります。
そのため歯ブラシによるのど突き事故が起きたときは3日ぐらい、子どもの様子をよく見てください」(浜野先生)
グラフ・写真提供/消費者庁 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
歯ブラシによるのど突き事故は、消費者庁などが注意喚起をしていても一向になくなりません。しかし浜野先生は、歯ブラシによるのど突き事故は、紹介した3つの約束を守ることにより防げる事故だと言います。これまで死亡例はないものの、事故報告事例にもあるように集中治療室での入院が必要なほど、大きな事故につながるケースもあります。そのため今日から座って磨く習慣を作り、子どもを事故から守りましょう。