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日本の患者数は400人程度、筋肉が萎縮する難病になった一児の母。希望を捨てずに「車いすでもあきらめない世界」を目指す理由

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織田友理子さんと、夫の洋一さん。

次第に筋肉が萎縮して、やがて寝たきりになるといわれる進行性の筋疾患「遠位性ミオパチー」。大学4年生のときに診断を受けた織田友理子さんは、その後に出産・育児を経て、患者会を設立。難病指定を受けるための活動や、車いすユーザーのためのアプリ開発、国内外での講演など、さまざまな活動を続けています。今回は、逆境を跳ねのける織田さんのモチベーションや今後の目標について伺いました。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

※遠位型ミオパチー…体幹から遠い筋(遠位筋)である手足から全身の筋肉が低下していく難治性疾患。20~30代で発症する人が多い。日本の患者数は400人程度と推測されている。

患者にもできることがある――冷たい視線を浴びても街頭に立った

――長男・栄一くん出産の2年後に、ご自身の病気(遠位性ミオパチー)の患者会を設立されました。

織田 遠位性ミオパチーは、主治医から「生きている間に同じ病気の人に会うことはないかもしれない」と言われたほど珍しい病気です。それでもインターネットが普及したおかげで、ブログなどを通じて同じ病気の人たちと交流をもつことができていました。そのご縁があって、2008年に「PADM(遠位型ミオパチー患者会)」の設立に関わることになったんです。

――織田さんご自身も闘病や育児で大変な中で、どのような思いで活動したのでしょうか。

織田 患者会を設立して1年も経たないうちに、遠位性ミオパチーの治療に有効な研究があることが発表されました。私たちの病気は国内にわずか400人程度と患者数が極端に少ないので、製薬会社が薬を開発するのはとても大変なことなんです。でも、有効な治療法確立の可能性があるのに、黙って見ているわけにはいきませんでした。国の難病に指定されることと、治療薬の開発。この2つが、私たち患者会の目標になりました。

 私が病気でいながらも生活できているのは、夫や周りの方々のおかげです。たくさんの人に助けていただいて、環境的に恵まれていると常々感じていました。社会にお返しをしていかなければと思ったときに、自分にできるベストな形が当事者としての活動だったんです。

 署名活動のために、全国の街頭に立って呼びかけました。批判的な声もありましたし、行政や議員の方々から冷たい態度をとられることもありました。でも、幸いにも多くの皆さんの協力をいただいて、2014年には204万筆以上の署名を集めました。大量の署名の後押しもあって、2015年には遠位性ミオパチーは指定難病になりました。

――夢の1つを実現できたのですね。

織田 はい。もう1つの夢である治療薬の開発も、製薬会社や研究者の方々のご尽力のおかげで第三相試験が終わり、今あと少しで承認審査に進める段階まで来ました。未来に向けて「患者としてできること」が叶えられそうなのが、とてもうれしいです。最近、同じ病気の診断を受けたばかりの方とお知り合いになったのですが、その方はまだ歩くことができています。筋肉が残っているうちに今後承認されるであろう新薬を服用できたら、これからずっと歩くことができるかもしれない。そうなると本当にうれしいなと思っています。

 私は病気が進行しすぎているので、もし新薬を服用しても若干の効果はあるとは思うのですが、もうなくなってしまった筋肉が復活するわけではありません。でも、私の今までの活動が、同じ病気の人のこれからをつないでいくかもしれない。そういう希望を持ててよかったなと心から思います。

「情報」さえあれば、車いすでもどこにだって行ける

大洗町のバリアフリービーチにて、夫の洋一さん、当時7歳の栄一くんと。舗装された道と水陸両用車いすのおかげで、行くたびにみんなで海水浴を楽しむことができました。

――スマホアプリ「WheeLog!(ウィーログ)」の活動にも取り組んでいます。

織田 出産してから、「私には普通の育児ができない」と感じることがたくさんありました。たとえば、栄一が生まれて自分が車いすユーザーになってから、どこかに行こうとするたびに「車いすで行けるのかな?」とインターネットで調べて、初めてだから、情報がないからと不安になって止めてしまうことも多々あったんです。海水浴もその一つでした。

 でも栄一が3歳のとき、インターネットで調べたら茨城県の大洗町に、車いすでも行けるバリアフリーのビーチがあると知りました。おかげで念願の海に行くことができて、親子のすごく良い思い出になりました。

 車いすでも、情報があればいろいろなことができるし、いろいろなところに行ける。そう思って、国内外のバリアフリー情報を伝える「車椅子ウォーカー」というYouTubeチャンネルを始めました。また、一方通行な情報発信だけじゃなくて、みんなでつくりあげられる地図を実現したいと考えて開発したのが「WheeLog! (ウィーログ)」というアプリです。車いすユーザーが実際に走行したルートや訪れたエリアのバリアフリー情報をマップ化して共有できる地図アプリで、多くのユーザーさんのご協力でとても有益なマップが作り上げられています。

――「WheeLog!」では、私がよく行くレストランも、車いすユーザーにとってすごく使いやすい位置にエレベーターがあるなどの情報が記載されていて、とても参考になりました。

織田 うれしいです!アプリのコンセプトは「あなたの“行けた”が誰かの“行きたい”になる」なのですが、ベビーカーや子ども用の車いすを使う方々にとっても役立つ情報だと思います。これからはマップに加えて、たとえば嚥下障害を持つ患者さんが行けるレストランなどの投稿機能も拡充したいと思って、クラウドファンディングを実施しているところです。

日本のバリアフリー情報を世界に伝えたい

2023年6月に神奈川県川崎市で行われた、WheeLog!6周年記念街歩きイベントにて。

――織田さんの取り組みが、多くの同じ立場の人たちの後押しになっていますね。

織田 私のことをメディアで知ってくださった障害者の方々が「私も結婚しました」「出産に踏み切りました」と報告してくださることもあって、とてもうれしいです。5年くらい前、車いすの女の子が声をかけてくれたのですが、中学生の時に私が取り上げられた報道番組を見て「結婚とか出産とかできないって思っていたけど、自分もできるかもしれないと思えてうれしかった」と話してくれました。

 私たちの患者会では、筋疾患の患者さんの出産に関するデータやアンケートの声を、医師や研究者に届けて研究データにまとめていただくこともしています。自分たちの経験をふまえて、同じ病気や類似疾患の人たちにお役に立てるように…ということをすごく意識しています。

――今後の織田さんの目標は。

織田 「WheeLog! 」の活動を通じて、バリアフリーの情報をさらに発信していきたいです。ヨーロッパの友達からは「日本ってあんまりバリアフリーじゃないんでしょ?」なんて言われたりするのですが、日本はヨーロッパよりも道が平坦で、スロープが付いていたりバリアフリーが進んでいるところもたくさんあります。これまで私は車いすで世界約20か国・地域を訪問しましたが、日本のバリアフリーは世界トップクラスだと感じています。

 たまひよ読者の子育て中のお母さんやお父さんは、ベビーカーを押したその瞬間から、車いすのことをわかってくださる理解者だと私は思っています。私の友達も、子育てを始めてから「本当に車いすって大変なんだね」と、バリアフリーについてさらに理解して心を寄せてくれるようになりました。「どうしたらもっと便利な社会になるのかな」とみんなが心を寄せ合って、日本のバリアフリー環境をさらによくしていきたいですね。

取材・文/武田純子、たまひよONLINE編集部

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年7月の情報で、現在と異なる場合があります。

織田友理子さん

1980年千葉県生まれ。一般社団法人WheeLog代表理事、NPO法人ウィーログ代表理事およびNPO法人PADM代表。2002年に難病「遠位型ミオパチー」の診断を受け、2008年にその患者会「PADM」を発足させる。2014年にYouTubeチャンネル「車椅子ウォーカー」開設。2015年のGoogleインパクトチャレンジでグランプリ受賞。2017年にバリアフリーマップ「WheeLog!」アプリをリリース。“車いすでもあきらめない世界をつくる”をミッションに活動を展開する。

車いすでもあきらめない世界をつくる!ウィーログ2023(クラウドファンディング、7/31まで)

一般社団法人WheeLog

NPO法人PADM -遠位型ミオパチー患者会-

YouTubeチャンネル「車椅子ウォーカー」

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