むぎゅ!と抱きしめると、相手の気持ちを理解し寄り添える子に。共感力が育つ、幸せホルモン“オキシトシン”って?【脳医学者】
脳医学者・瀧先生は「子どもの将来の可能性を伸ばすために大切なことは、『知的好奇心』と『共感力』を育てること」と言います。東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之先生の短期連載 第4回のテーマは「共感力とオキシトシン」について。11才の男の子のパパでもある瀧先生に、子どもの脳の発達から見る子育てのヒントについて聞きました。
人とのぬくもりで分泌されるオキシトシンとは?
――子どもの将来の可能性を伸ばすために大切といわれる“共感力”について教えてください。
瀧先生(以下敬称略) 共感とは、英語ではシンパシー(sympathy)とエンパシー(empathy)の2つの言葉があります。脳科学では、シンパシーは相手の気持ちを理解すること。エンパシーは相手の気持ちを理解して、さらに適切な行動をとること、とされています。
悲しんでいる人を前にして、こういう顔をしているからこの人はきっと悲しんでいると知ることだけではなく、じゃあこの人にどう接するか、どうサポートをしてあげるかと考え、適切な行動をとることがエンパシーです。人を思いやる力、相手の気持ちを理解し寄り添える力は、コミュニケーション力や社会性の土台となります。将来、社会の中でさまざまな人と一緒に生きていく力を育てるためにも、このエンパシーの力、つまり共感力が重要です。
そして、この共感力が育つには神経伝達物質の一つである「オキシトシン」が関係しています。
むぎゅ!と抱きしめると、子どもにも親にも幸せホルモンが流れる
――オキシトシンとは、どんな時に出され、どのような役割があるのでしょうか?
瀧 オキシトシンは神経伝達物質の一つで、「愛情ホルモン」「幸せホルモン」ともいわれます。抱きしめてもらったり、スキンシップをしたりといった人と人とのぬくもりや、親子の愛着形成に関連する行動に触れることで分泌されるといわれています。ストレスや不安な気持ちをやわらげたり、信頼の気持ちを作り出します。
最近は人だけではなくペットと触れ合うことでもオキシトシンが分泌されるともいわれています。また、1対1の相手だけではなく、家族や友だちなどの集団への帰属意識も高めるといわれています。
――スキンシップによって、子どもの脳にもこのオキシトシンが働いているのでしょうか?
瀧 生後どのくらいから、というのは正確にはわかりませんが、ママやパパに抱きしめてもらい、愛情を注いでもらっている時には、子どもの脳にはオキシトシンが流れ、信頼感や幸せな気持ちになります。このような体験が、相手の気持ちを理解して寄り添える、思いやりの心のベースとなります。
また、子どもを抱きしめたママやパパにもオキシトシンが流れます。愛情たっぷりのスキンシップで、親子に互いにオキシトシンが流れ、安心し信頼しあえる関係が生まれると考えられます。
脳医学者パパ・瀧先生の子育て体験を教えて!
――瀧先生は、息子さんが小さいころに一緒に遊んでいた触れ合い遊びなどはありますか?
瀧 一緒に虫取りにはよく行きましたし、息子をひざに乗せて読み聞かせをしたりしていました。あとは、今も寝る前に家族3人で寝室で読書をする習慣があるんですが、読書のあとに、子どもがまだ1〜2才のころの思い出話などをすることもあります。
――そのような親子の会話によって共感力が高まる効果もあるのでしょうか。
瀧 豊かな会話がコミュニケーションスキルを高めるといわれています。相手の表情や言葉から感情を理解して適切な行動をとる共感性は、まさに人との会話で鍛えられます。寝室で親子がくっついて話をすればオキシトシンも出るでしょう。
子どものころの思い出を回想することやノスタルジーを抱くことは、それが豊かであるほど人の気持ちを安心させてくれるものです。小さいころの話をすることは、子どもの精神安定にもすごくいいと思います。
【瀧先生に聞く】ママ・パパからの気になるQ&A
子育て中のママやパパの困りごとや悩みに、瀧先生からアドバイスをもらいました。
【Q】パパの仕事が忙しく、接し方もよくわからないようです。抱っこだけでもスキンシップになる?
【瀧先生より】
抱っこをしてもらってぬくもりを感じることは、愛着形成の上で非常に大事です。頻繁でなくても、時間が合う時でいいので、できる範囲で抱っこして、目を見て、笑顔で話しかけることでも十分だと思います。少しずつでも、それをやるとやらないの差は非常に大きいと思います。
【Q】5才ころからママと手をつなぐのを嫌がります。スキンシップ以外で子どもの共感力を高める方法は?
【瀧先生より】
たくさん親子で会話をすることです。スキンシップは、ただ横に座って肌が触れ合うだけでも十分です。共感力が育つには、コミュニケーションの量もとても大事です。子どもの成長によってスキンシップの機会は減るかもしれませんが、折に触れてリアルな会話をすることが大切。親子以外でも、SNSでのやり取りだけではなく、相手の表情やしぐさ、声の抑揚がわかるような、できるだけ対面の会話を増やすことが、子どもの共感力を豊かに育てます。
取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
オキシトシンはママやパパの心にも幸せをもたらす効果も。親子の何気ないスキンシップが共感力を育て、将来の子どものコミュニケーション力の土台となります。
●記事の内容は2023年7月の情報であり、現在と異なる場合があります。