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バラのつぼみのようにくっついた手足の指を切り離す手術を、1年に1回のペースで。毎回、胸が詰まる思いに【アペール症候群体験談】

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生まれてすぐの陽香さん。手足の指がくっついていました。

村山陽香(はるか)さんは、先天性難病のアペール症候群を抱える中学1年生です。生まれたとき、指はすべてくっついていて、頭蓋骨が変形した状態で、たくさんの手術後も、指は短く、曲がりませんが、4歳からピアノを弾き始めました。現在は、数々のコンクールで賞に輝く、注目のピアニストに。陽香さん本人と母親の尚子さんにインタビュー。陽香さんが生まれたときのことや、手術のこと、陽香さんの日常の困りごとと工夫について聞きました。全2回の前編です。

妊娠も出産も順調そのもの。それなのに、産後の分娩室ではざわつきが

生まれたときの陽香さんは、手足の指がバラのつぼみのような形にくっついた状態で、頭蓋骨は変形していました。

――陽香さんは初めてのお子さんですね。妊娠経過や生まれたときの状況はいかがでしたか?

村山尚子さん(以下敬称略、尚子) 妊娠経過は順調で、おなかの赤ちゃんに病気などトラブルの兆候はみられませんでした。

出産も39週5日に、自然分娩で順調なお産でした。ところが、出産直後に赤ちゃんの処置をしている看護師さんたちがざわざわしていて、何かあったんだろうと感じました。すると、取り上げてくださった先生が陽香を連れて分娩台の私のところにきて、まず、「赤ちゃんを抱っこして、見てね」と。先生からは、陽香の手と足の指がくっついていること、顔面の容貌が今まで見てきた新生児と違うことから、「何らかの疾患の疑いがあるだろう。すぐに大きな病院へ搬送しよう」といった説明がありました。

――その話を尚子さんはどのような気持ちで聞いたのでしょうか? また、夫さんもその場にいましたか?

尚子 私は医師の説明を聞きながら、頭が真っ白になりました。妊娠も出産も順調で、生まれたら産後は赤ちゃんのお世話で忙しくなる毎日が始まるんだろうなと思い描いていたのに、搬送になるなんて。このような展開はまったく想像していなくて、パニックになりました。

夫は、出産に間に合わず、陽香が救急車で搬送される直前に産院に到着して医師から説明を受けました。私がパニック状態だったのに対して、夫は冷静でいてくれたので、私も少し落ち着けたと思います。ありがたかったです。

――搬送先の病院で、陽香さんはどのような様子でしたか?

尚子 入院中の2週間、一度も保育器に入らず、ハイローチェアに乗せられ揺れていました(笑)。陽香は、検査が必要でしたが、元気で、緊急の治療は必要なかったんです。母乳もよく飲み、私が搾乳して届けた母乳がたりなくなって看護師さんから連絡が入るほど元気でした。

2週間かけてひととおり検査した結果、陽香はアペール症候群の「疑い」があることがわかりましたが、5万~15万人に1人、年間発症数8人程度しかいない珍しい病気のため確定診断ができないと言われました。そこで、生後2週間でその病院は退院し、大学病院へ。その大学病院が外部から専門の先生を呼んで診察してもらい、正式にアペール症候群と診断されました。

生後6カ月に頭蓋骨の大手術。指を切り離す手術は毎年のように行った

生後6カ月に頭蓋骨を取りはずす大手術をした直後の陽香さん。発熱と痛みで眠れずぐずぐずしていました。

――アペール症候群とはどのような病気なのでしょうか?

尚子 先天性の指定難病で、手足の指がくっついていたり、頭蓋骨が小さいなどの特徴があります。陽香は、頭蓋骨が変形し、手足の指はバラのつぼみのようにくっついた状態で生まれてきました。

――陽香さんはどのような治療をしたのでしょうか?

尚子 頭蓋骨の変形を治す手術と、指を切り離す手術をしました。最初の手術は生後6カ月。頭蓋骨を取りはずして変形を治し、元に戻す大手術でした。その後、1歳で両手の指を切り離してそれぞれ3本指に、2歳で5本指に、3歳で両足の指を切り離してそれぞれ3本指に、年少で5本指にする手術を行いました。さらに、右手の指の骨にとげのようなものができてしまったのを除去する手術を、年中と小5に行っています。

――赤ちゃんのときから1年に1回のペースで手術をしてきたんですね。

尚子 はい。「一緒に頑張ろう」と決意したものの、毎回、手術が近づいてくると胸が詰まる思いでした。

とくに、生後6カ月の手術の前は、医師からの2つの指示を守ることに必死でした。1つは、ワクチンの予防接種を予定どおり済ませておくこと。術後は、しばらく予防接種が受けられないかもしれないからです。もう1つは、風邪をひかせないこと。手術に合わせて体調をととのえるためでした。
この指示を守るために、私たちは感染予防を徹底する必要があり、私と陽香はほとんど外出できなかったんです。

――「風邪をひかせてはいけない」というプレッシャーがあったんですね。

尚子 それもありますが…。実は、私に陽香を連れて外に出る勇気がなかったという理由もありました。ほかの人が陽香を見て「あら、手はどうしたの?」などと声をかけられたときに、何と答えていいかわからなかったんです。私自身、陽香の病気を受け入れることに、まだ戸惑いがあったのかなと思います。

――日中は陽香さんと2人きりになることが多かったんですね。苦しくなかったですか?

尚子 孤独でした。でも、そんなときに救ってくれたのが保健師さんの訪問でした。市が私たち親子を気にかけてくれたのか、保健師さんが月に何度も訪問してくれて、私の気持ちを聞いてくれたり、陽香の発達の相談にのってくれたんです。私にとって、唯一の社会とのつながりで、とても救われました。

――乳児期や幼児期の手術となると、術後も大変でしたか?

尚子 はい。術後は毎回発熱して、さらに骨を切っているので痛みもあって、陽香は夜も眠れず、数日間は朝までずっと陽香を抱っこしていたのを憶えています。
そして、元気が出てからは1日がとにかく長い! 入院は毎回3週間くらいでしたが、外出はできないし、絵本を読んであげても飽きてしまうし、親子で1日どう過ごそうかと…。廊下から外の景色を見て過ごしたり、院内のコンビニがオアシスでした。

“ガラガラを鳴らしたい”けど手で持てない…、それならわきのしたがある!?

指を切り離す1回目の手術をしたときの陽香さん。1歳のとき。

――陽香さんは、どのような赤ちゃんでしたか?

尚子 警戒心が強い一方で、これと決めたら絶対やる子でした。たとえば、ガラガラをおばあちゃんからもらったときのこと。当時、陽香の指は全部くっついていて、ガラガラを自分で持てなかったんですが、陽香はどうしても音を鳴らしたかったようで、わきでガラガラをたぐりよせてわきのしたでガラガラを挟み、音を出したんです。びっくりしました。こんな具合に、陽香はやりたいことはなんとか工夫して、やりとげる子でしたね。

その後も、1歳の指の手術後に指が3本になった陽香は、3本の指でおもちゃを持つようになりました。クレヨンや歯ブラシも3本の指で工夫して持って、お絵かきや歯磨きを自分でできるようになりました。

できないことがあったら、どうすればできるようになるか考える

幼稚園時代の陽香さん。地元の幼稚園で健常児と一緒に過ごしました。

――陽香さんに聞きます。小さいとき、大変だったことは何ですか? また、それに対してどのような工夫をしましたか?

村山陽香さん(以下敬称略、陽香) 私は、指を切り離す手術をしたあとも、手足の指は関節が少なくて短いため、曲げられないし握力が弱いです。でも、いろいろな工夫をしながら、地元の幼稚園や小学校に通いました。

たとえば、幼稚園では、私が水道の蛇口をひねることができなかったので、園が蛇口にアダプタをつけて私の握力で操作できるようにしてくれました。
また、お母さんが工夫してくれたこともあります。私が園服のボタンを留めるのが難しいので、ブラウスのボタンを大きなボタンに付け替えたり、スモックのボタンはマジックテープに付け替えてくれました。

工夫とサポートで、ピアノもお出かけや旅行も楽しむ

陽香さんはひざの痛みで長い距離を歩けませんが、車いすを使いながら家族で旅行にも。

――園生活や学校生活以外ではどうですか?

陽香 日常生活でも、たとえば私はおはしを握るのが難しく、子ども用のトレーニングばしを使っています。また、肩が上がらなくて背中が洗えないので、背中はお母さんに洗ってもらっています。

ほかの人より自分で工夫したりサポートしてもらったりすることは多いかもしれないですが、そのたびに乗り越えて、ピアノを弾き、お出かけや旅行もどんどん楽しんでいます。

お話・写真提供/村山尚子さん・陽香さん 取材・文/大部陽子、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>後編 

赤ちゃんのとき、おもちゃを手でつかめなくても、わきのしたを使ってガラガラを鳴らしたという陽香さん。音色への興味や、自分で工夫する姿は赤ちゃんのときから見られたようです。現在のピアノに対する姿勢につながっていると感じます。
後編では、そんな陽香さんのピアノとの出合いや、才能を開花させた独自の演奏方法、中学校生活の工夫について聞きます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指して様々な課題を取材し、発信していきます。

村山陽香さん・尚子さん(むらやまはるか・なおこ)

PROFILE
村山陽香さんは尚子さんの第1子として、2012年に誕生。生後まもなく指定難病のアペール症候群と診断。4歳でピアノを始め、全国大会でも入賞する、注目のピアニストです。

参考

難病情報センター「アペール症候群(指定難病182)」

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年6月の情報で、現在と異なる場合があります。

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