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「聴こえるママがよかった」と不満をぶつける娘。聴こえない親と聴こえる子どものコーダ育児に向き合う【体験談】

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耳が聴こえない母 ミカヅキユミさん ろう者育児インタビュー

イラストレーターのミカヅキユミさん(@mikazuki_yumi)は2012年に長男を出産、2016年に長女を出産した2児の母。ミカヅキユミさんは生まれつき両耳が聴こえないろう者で、その日常をコミックエッセイに綴っています。全2回のインタビューの2回目の今回は、子どもたちとのコミュニケーション方法や、娘さんに「きこえるママがよかった!」と言われたときのことをお聞きしました。

1、2歳で肩をポンポンするように。ママを呼ぶ方法はバリエーション豊富

――子どもたちとのコミュニケーションや、母に対する子どもたちの反応についてお聞かせください。

ミカヅキさん(以下敬称略)「子どもたちとは手話、口話、ホームサイン、ジェスチャー、紙に書くなど、いろいろな手段で会話をしています。

1、2歳くらいから、私を呼ぶときは背中や肩をポンポン叩いて呼んでくれるようになりました。そのときから私が聴こえないことを知っているんだなと思いました。

私を呼ぶ方法もいろいろあります。
床を足でドンドン踏み鳴らしたり、テーブルを叩いたりして振動で呼んだり、紙ヒコーキを飛ばして呼んだり、柔らかいものを投げて呼んだり……様々です。

呼び方で緊急性も伝わってきます。急ぎのときは、ダダダダダダダダン!!と床を超高速で揺らしたり、肩・背中を叩く力が強かったり、後ろからではなく前から来て呼んだり(顔が見えることで状況がより掴みやすくなる)します。遊びとして楽しみながら紙ヒコーキで呼ばれることもあります。
ただ“呼ぶ”だけでもこんなにバリエーションが豊富です!」

「ママ見て!」「こっち向いて!」と母を呼ぶとき、ミカヅキ家の場合はたくさんバリエーションがあると話してくれました。耳が聴こえない母に対して子どもなりに「どうしたらママが振り向いてくれるのか」いろいろ考えて、微妙にニュアンスを変えながら呼び方を工夫しているようでした。

「きこえるママがよかった!」と子どもに言われたときは……

「きこえるママがよかった」 ミカヅキユミさん ろう者育児インタビュー
「きこえるママがよかった!」

――ミカヅキユミさんが育児で心かげていることは?

ミカヅキ「子どもの話を聞くことです。
『子どもから見たら大人であるだけで“大人の言うことはすべて正しい”と思われがちだけど、そうじゃないんだよ。間違えることもたくさんあるんだよ』と伝えています。そして『間違えた!』と思ったら謝ります。(いっぱい間違えるわたしです……)」

――たびたび娘さんから「きこえるママがよかった!」と言われることがあるとのことですが、そのときはどのようなことを子どもに伝えていますか?

ミカヅキ「『聴こえないのがわたしだよ』と伝えています。耳が聴こえないからこそ“あなたのママ”で、耳が聴こえていたら中身は全然違う人だよということを話しました。

このように冷静でいられるのは、娘が第2子だからかもしれません。
第1子の息子が5歳のときに『ママと話すのめんどくさい!』と言われたことがあり、このときは気持ちに余裕が持てず『私だってめんどくさいよ!』と怒ってしまいました。そのあと、2人で泣きながら『めんどくさいけれどそれでも繋がっていたいんだ』と話したような記憶があります。

のちになって『母が聴こえないことで生じるような不満を私に直接ぶつけてくるって、子どもにとっては大切なことかもしれない!』と気がついてからは、5歳の息子のときに『不満を言ってくれてよかった!』って脳内でくす玉を割って祝ってあげればよかった、そうしてあげられる余裕が欲しかったなぁと、怒ってしまった自分に対して反省しています。

私が一度怒ってしまったことで、息子は不満を抑え込んでしまった時期があったかもしれません。本当のところはわかりませんが、もしそうだったらと思うと申し訳なくて……。なので息子が小5になった今は、私が何度も聞き返して息子が超めんどくさそ~な顔をしたり、『なんでわかんないの?』ってイライラしながら言われるとちょっと嬉しくなるんです。これからも2人にたくさんくす玉を割ってあげたいです」

娘が不満をぶつけてくれてよかった!

コーダ育児 ミカヅキユミさん ろう者育児インタビュー
脳内でくす玉割ってます

娘さんの「きこえるママがよかった!」とう言葉は一見グザッとくるひと言ですが、ミカヅキユミさんは子どもが“不満が言えること”に安堵しているようでした。上の息子さんのときには気持ちに余裕がなく、同じように対応してあげられなかったことを申し訳なく思っていることを話してくれました。

傷ついた言葉「聴こえないあなたに育児ができるの?」

――これまでに周囲からかけられて傷ついた言葉、嬉しかった言葉は?

ミカヅキ「長男を妊娠中に『聴こえないあなたに育児ができるの?』ということは何度か言われました。そのあとなんでこんなこと言われなきゃいけないんだろうって、悔しくて悲しくて1人で泣きながら『いまに見ておれ〜!!』と、闘志を燃やしておりました。

嬉しかった言葉は、『聴こえないあなたに育てられるの?』と言ったひとりがその後、私と接する機会が増えたこともあり、私に対する印象が変わったのかと思いますが、子どもが生まれる少し前に『あなたならいいお母さんになれるよ』って言ってくれたことです。

『あんなひどいこと言ってきたのに…』と思いながらも、嬉しい気持ちを隠すことができませんでした。言葉も嬉しかったし、私のことを知ってくれたことも嬉しかったです」

『聴こえないあなたに育てられるの?』と言った人から

聴こえないあなたに育児ができるの?と言われたけれど ミカヅキユミさん ろう者育児インタビュー
「あなたなら大丈夫!」と言われて嬉しかった
レタスクラブ 連載『聴こえないわたし 母になる』

コーダ育児は「親が1番覚悟している」

ミカヅキ「また、子どもが生まれたばかりのときに、聴こえない先輩から『※コーダなのね。コーダはコミュニケーション取れないからむずかしい。大変』としかめっ面で言われ、モヤモヤしたこともありました。

※コーダ……耳が聴こえない、または聴こえにくい親のもとで育った“耳が聞こえる”子どもたちのこと。

今思えば、老婆心からの言葉だったのかもしれませんし、背景を考えると、そのような言葉が出てしまうことも、少しわかるような気がします。しかし、当時の私は赤ちゃんが生まれ、まさにこれから育児がスタートするというときでしたので、言われたときはかなり堪えました。

それでも、実際に自分が育児をしてみて、確かに聴こえない親と聴こえる子どもだからこそ生じる大変さというのはあるのかもしれませんが、それだけではなく、かわいさ、おもしろさ、豊かさなど、様々な側面があることを知りました。

コーダ育児は、親が1番覚悟していると思うんです。すごくいろんなことを考えながら向き合っていると思うんです。なので私も、わが家ではない他の家庭の聴こえない親とコーダに出会ったとき『聴こえない親がみんなそれぞれ異なるのと同様に、わが家のコーダと他の家庭のコーダは異なるということ』を肝に銘じておかなければならないなと思っています」

相手に悪気があったわけではないのかもしれない……でも傷ついた言葉は消えずにずっと胸に残る。特に妊娠中や産後はそのような言葉がたくさんあったようです。しかしその言葉を乗り越えた先には、子育てでしか得られない豊かな感情がたくさんあったと話してくれました。

耳が聴こえない人も、聴こえる人と同じ

――実際に子育てをしてみて、耳が聴こえない人が育児をする上で必要だと思ったサポートはありましたか。

ミカヅキ「保育園や小学校のイベントや役員の仕事をするときに、手話通訳がいると助かると思いました。聴こえる人(聴こえる保護者)と同じように、当たり前のように情報を得られるということは、とても大切なことだと思います。

また、欠席連絡など学校や園との連絡が必要になったときに、電話で連絡ができないためメールでやり取りをしてほしいと交渉したのですが『メール用のアドレスがありません』『メールは見落としの原因になりますので』『聴こえる家族に電話してもらって下さい』と断られてしまったこともありました。

そんなときは聴こえる夫が電話で学校や園とやり取りをしていました。自分でやり取りができないことは残念でしたが、子どもの親としての務めを果たしたい気持ちは、私も夫も同じです。それは『一緒に育てる』という意味で、私たち夫婦にとって大切なことでした。ですので、ここでは自分の気持ちはいったん置いておき、夫にお願いしようと思いました。

今は※電話リレーサービスを使って自分でも連絡をとることができるようになったので、とっても嬉しいです。
夫と『私が電話しとくよー』『頼んだ!』って会話ができることがホントにうれしい。少し前じゃ考えられなかったことです。

ほかにも、コロナ禍がきっかけで、聴者のニーズが増えたからなのかはわかりませんが、学校や保育園でも連絡アプリの運用がスタートしたり、連絡用メールアドレスを用意していただけるようになりました」

※電話リレーサービス……聴覚や発話に困難のある人と、聴こえる人との会話を通訳オペレータが「手話」または「文字」と「音声」を通訳することにより、電話で即時双方向につながることができるサービス。

――耳の聴こえない人に対してどのように接して欲しい、どんな世の中になって欲しいですか?

ミカヅキ「まずは耳が聴こえない人のことを知ってほしい。怖がらずに、お話をしてみてほしいです。
聴こえない人も、聴こえる人と同じ、ふつうの人間です。わたしのケースはたくさんいる聴こえない人の中での、ほんの一例に過ぎませんが、こういう人もいるんだって知ってほしいです。そんな気持ちで漫画を発信しています」

娘さんに「聴こえないのが私だよ」というように、耳が聴こえないのがミカヅキユミさんということ。耳が聴こえなくてもコニュニケーションの方法はたくさんあること。耳が聴こえないこと以外は耳が聴こえる人と同じということ……。ミカヅキユミさんの心情の一部に触れることできた今回の取材となりました。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることをめざしてさまざまな課題を取材し、発信していきます。

お話・漫画提供/ミカヅキユミさん 取材・文/清川優美、たまひよONLINE

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年8月の情報で、現在と異なる場合があります。

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