子どもの身長はいつ伸び始め、いつ止まるの? 成長曲線からわかること【発育研究専門家】
「うちの子はずっと背の順で前のほうだけれど、大丈夫かな?」「最近体つきがぽっちゃりした気がするけれど、肥満じゃないよね?」など子どもの発育が気になるママ・パパは多いでしょう。そんなときにぜひ活用したいのが、成長の推移を可視化できる成長曲線です。成長曲線とは基準の発育曲線上に、子どもの身長・体重の数値の点を打ち、その点がつながってできる曲線のこと。成長曲線をチェックすることで、どんなことがわかるのでしょうか。子どもの発育に詳しく『子どもの異変は「成長曲線」でわかる』(小学館新書)などの著書もある、発育研究者の小林正子先生に聞きました。
成長曲線から子どもの心と体の健康状態が見えてきます
0~1歳ごろの赤ちゃんがいるママ・パパにとって、もっともなじみが深い発育曲線は、母子健康手帳に掲載されている乳幼児身体発育曲線でしょう。
「発育曲線とは、横軸を年齢、縦軸を身長・体重でグラフ化したものです。母子健康手帳に記載されている乳幼児身体発育曲線の場合は、97パーセンタイル基準線を帯の上限、3パーセントタイルの基準線を帯の下限としてシンプルに表しています。パーセンタイル基準線とは、その身長・体重の測定値が同年齢の集団の中で順番にして何パーセント付近にあるかを表したもの。
一般的には上の画像のように3,10,25,50,75,90,97と7本のパーセンタイル基準線で表します。
基準のグラフ上に身長・体重の数値の点を打ち、その点がつながってできる曲線を成長曲線(または発育曲線)と呼びます」(小林先生)。
わが子の成長曲線を見るときに難しく考える必要はありません。乳幼児の場合、基本的には身長・体重の測定値が3~97パーセンタイル基準線内におさまり、どれかの基準線にほぼ沿うように伸びていればOKです。
「成長曲線は最も客観的に子どもの心身の健康状態を知ることができる強力なツールです。身長や体重の異変にもいち早く気づき、生活習慣を見直したり、受診したりするなどの適切な働きかけもできます。
身長・体重の測定値が3~97パーセンタイル基準線内におさまってないといけないわけではありません。基準線内でなくても、基準線に沿うように伸びていれば問題ないことも多いです。ただ、成長曲線に急な変動やよくない傾向が続いているようなら、子どもが体か心に問題を抱えていると考えたほうがいいです。まずは食生活、運動、睡眠などの生活習慣を見直しましょう。改善しない場合は成長曲線を持参して医師に相談を。そのほうが診断も早くなります」(小林先生)
成長曲線の傾きから身長がいつごろから伸び始め、いつごろ止まるか予測できる
子どもの身長がいつごろ伸び始め、いつごろ止まるのかということも成長曲線を見ていればだいたいわかると言います。伸び始めの時期は明らかに傾きが急に上を向きます。
「人生には身長・体重とも爆発的に伸びる時期が2回あります。1回目は生まれてから1歳になるまで、2回目は思春期です。
ママの胎内では、0.15ミリメートルくらいのサイズの受精卵がおよそ10カ月で、身長約50センチメートルの赤ちゃんに成長するわけですから、その成長速度のすさまじさがわかると思います。『車は急には止まれない』と言いますが、赤ちゃんの成長も急には止まれないんです。生後1年間くらいはママのおなかの中にいたころの成長速度が持続していて、身長・体重ともにぐんぐん成長するんですね。
思春期の成長が始まる時期は個人差が大きいですが、女の子は9歳半ごろ、男の子は11歳前後が多いです。子どもの発育は、よく木の成長にたとえられます。木には季節ごとに高く上へ伸びるタイミングと木の幹の年輪が増えて太くなるタイミングがあり、人間にも季節ごとに身長が伸びるタイミングと体重が増えるタイミングがあります。これを『季節変動』と言いますが、思春期の成長の勢いはそれさえ壊してしまうほどです。思春期の急激な成長期が終わる目安として、わかりやすいのが男の子は声変わりをするころ、女の子は初潮が来るころ。このころには、そろそろ身長がぐんと伸びる時期は終わり、緩やかな成長にうつっていくと考えていいでしょう。
こうした発育の知識を持っておくと、一時的な変化やまわりの情報にとらわれすぎず、大局的に子どもの成長を見ていくことができます」(小林先生)
身長が止まる時期についても成長曲線を見ていれば、ある程度予測は可能です。だんだんと傾きが緩やかになってきた時期がそれで、一般的には18歳ごろと言われます。
「一般的には、身長は思春期で大きく伸びたあとは、次第にあまり伸びなくなり、18歳くらいで止まることが多いです。女子はもう少し早いことも。成長曲線を見ると、男女とも18歳付近ではほとんど伸びが見られません。ただ、身長の伸びも身長の伸びが止まる時期も個人差がとても大きく、20歳を過ぎても伸びたという話を時々耳にします」(小林先生)
成長曲線から、生活習慣の問題や病気が見つかることも
成長曲線を見るときのポイントは、パーセンタイル基準線のどれかに沿うように成長しているかどうかです。
「変動があったとしても基準線1本程度なら問題ないですが、それ以上の場合は、子どもの様子を注意深く観察し、適切な対応をする必要があります。成長曲線から異常が見つかった例を紹介します」(小林先生)
【例1】身長の伸びが小学5年生から3年間異常に低迷した男の子
小学校入学から75パーセンタイル基準線に沿うように身長が伸びていたのが、小学5年生から中学1年生にかけて10パーセンタイル基準線まで落ちました。小学校のときはテニスの練習に夢中になり、中学受験をした子で、テニスの練習量を減らしたところ、中学3年生からぐんぐん伸び始めて元の軌道に戻ることができました。
【小林先生】おそらくテニスの練習などの疲れが身長の伸びに影響したのでしょう
「テニスの練習と受験勉強の疲れがあって、身長が伸びなくなったのでしょう。骨が伸びる時期に、骨に負担をかける運動をやりすぎると成長を妨げることがあります」(小林先生)
【例2】摂食障害で体重がストンと落ちた小学6年生の女の子
「やせているほうがクール」という価値観の影響からか、小学6年生の身体測定で急にやせて弱々しくなった女の子がいました。体重が急激に減るだけでなく、身長も伸びていません。受診したところ摂食障害の診断が出て治療。大事に至らずに済みました。
【小林先生】成長曲線をつけることで摂食障害の発見につながりました
「意図的に食事を抑えてやせることを続けると倒れる寸前まで体重が減ってしまうことがあります。摂食障害にはさまざまな原因が考えられますが、成長曲線をつけることで病気の早期発見と迅速な治療に役立ちます」(小林先生)
母子健康手帳やアプリなどを活用して成長曲線を描いていこう
赤ちゃんのころは「ほかの子より小さめかな」「体重が増えないけれど大丈夫かな」など、よく発育を気にかけるもの。けれども3歳ぐらいになるとむやみに心配することも減り、母子健康手帳を予防接種の記録をつける程度にしか使わなくなっているママ・パパもいるかもしれません。
「幼児になればそれなりに安心するのでしょう。発育状態が見た目である程度わかるとはいえ、健診のたびに身長と体重の数値をもとにぜひ成長曲線を更新してほしいと思います。測定の理想は3カ月に1回ですが、難しければ1年に1回でもかまいません。誕生日にすると忘れにくく、おすすめ。測定値を入力するだけでグラフ化してくれるアプリを使ってもいいでしょう」(小林先生)
当たり前ですが、子どもの発育は小さいときだけで終わらず15~18歳ぐらいまで続きます。継続的に成長の推移を追い、成長曲線から極端に外れるなどの異変があれば適切に対応しましょう。
「子育て中はつい目先のことにとらわれがちですが、長期目線で見てほしいと思います。成長曲線を大人になるまで作成し続け、データとして取っておくことで、できるだけいい方向に子どもの発育を後押しすることが可能です。ぜひ成長曲線を有効活用してください」(小林先生)
監修/小林正子先生 取材・文/永井篤美、たまひよONLINE編集部
身長や体重の数値の増減だけでなく、曲線としてつなげることで、子どもの健康状態がわかる成長曲線。子どもが大人になるまで継続的に見ていくことで、子どもの健やかな成長をサポートできます。成長過程を把握した中で、今、子どもがどの地点にいるかを客観的に見ることが大事です。
小林正子先生(こばやしまさこ)
PROFILE
発育研究者。東京大学助手、国立公衆衛生院(現・国立保健医療科学院)室長を経て2007年より女子栄養大学教授、2020年より同大学客員教授。発育の基礎研究のほか、「発育グラフソフト」を開発し、成長曲線の活用を推進している。著書は『子どもの異変は「成長曲線」でわかる』(小学館新書)など。
子どもの異変は「成長曲線」でわかる
成長曲線を描くことが、身長・体重の異変にいち早く気づき、子どもの健康を守ることにつながると訴える。小林正子著/990円(小学館新書)
●記事の内容は2023年7月の情報であり、現在と異なる場合があります。