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全身にできた小児がんの腫瘍に効く治療を求め、自宅から900キロ離れた病院へ母娘で向かう。家族は離れ離れに【小児神経芽腫体験談】

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名古屋大学医学部附属病院に転院してほぼ1年後の2021年1月、さい帯血移植を受けました。

2歳10カ月のとき神経芽腫と診断され、しかも、腫瘍が全身に広がっていることがわかった小田ましろちゃん(6歳)。両親のゆりさん(42歳)と哲(さとし)さん(43歳)は、ましろちゃんの病気を治したい一心で、自宅から900キロ離れた名古屋大学医学部附属病院に転院することを決めました。ゆりさんはましろちゃんに付き添い、哲さんは生後3カ月の下の子と自宅で暮らします。
名古屋でのましろちゃんの入院治療は1年6カ月にも・・・。ましろちゃんの病気と闘病の日々のことを聞きました。4回シリーズの2回目です。

CV感染で危険な状態に・・・。娘の生きる力を信じて毎日祈り続ける

CV感染によって敗血症性ショックとなり、ICUで治療を受けました。

地元・長崎の病院で約4カ月治療を受けたあと、名古屋大学医学部附属病院に転院したのは、2019年12月2日、ましろちゃんが3歳になって間もなくのことでした。
転院してすぐのころ、ましろちゃんはCV感染(カテーテル関連血流感染)して菌が全身をめぐり、命が危ない状態になってしまったそうです。

「夜、いきなり高熱が出ました。すぐ先生に診てもらったんですがよくならなくて、翌朝、血圧を測ったら上が40台で下は測定不能に・・・。即刻、ICUに入ることになりました。『CV感染』という言葉を聞いたのはこのときが初めてで、CV感染がどういうものなのかわかっておらず、カテーテルを抜いたらよくなるんだろうと考えていました。
ところが、そんな生やさしい状況ではなかったんです。『全身に菌が回ってかなり厳しい状況』という話を先生から聞いたとたん、ショックで大泣きしてしまいました。
さらに『お父さんはすぐに来られますか』って言うんです。夫が駆けつけなければいけないほど危険な状態なんだと理解し、ただただ泣き続けていました。付き添い入院は1人だけ、ということは理解していましたし、千蒼のお世話もあって仕事もある夫が自宅にいる必要があることはわかっていても、夫に一緒にいてほしかった瞬間でした」(ゆりさん)

哲さんのところに主治医の高橋先生から連絡があったのは、しばらくあとになってから。勤務中のことでした。

「多少冷静になった妻から先に連絡があったので、CV感染を起こしたことは理解していました、高橋先生から電話があったのは初めてだったので、シビアな説明があることは覚悟していました。

ところが、高橋先生が私に電話をくれたときには状況が好転していたようで、『危機的な状況は脱したから、しばらく様子を見ます。今すぐお父さんが駆けつけなくても大丈夫です』とのことでした。
先生がそうおっしゃるのであれば、ましろの生命力を信じようと思い、自宅で待機しました」(哲さん)

血液をきれいするために透析を行うことになり、その間ましろちゃんは麻酔で眠った状態に。ゆりさんは病院に併設したマクドナルド・ハウスで待つことになりました。

「今、ましろの近くにいるのは私だけ。泣いている場合じゃない、しっかりしなければいけないと自分に言い聞かせながら、ましろが目を覚ますのを待ちました。麻酔が切れたら病棟から呼ばれてICUに会いに行くというのを、1週間くらい続けました」(ゆりさん)

危機を脱し、親子3人でマクドナルド・ハウスに宿泊。ささやかにお正月を祝う

パパが名古屋まで会いに来てくれて大喜びしています。

CV感染を起こす前、ゆりさんと哲さんは、親子3人一緒に新年を迎えるプランを立てていました。

「ICUに入ってすぐのころ、そのことを先生に話すと、『それは難しいかもしれない』という返事が返ってきました。なんとかして、大好きなパパとお正月を過ごせるようにしてあげたい。でも、私にできることは回復を祈り、待つことだけした」(ゆりさん)

「とてもうれしいことに、娘は予想より早く回復。年末ぎりぎりに一時退院の許可が出て、私は喜び勇んで名古屋へ。ましろとお正月を迎えることができました」(哲さん)

一時退院といっても、過ごす場所はマクドナルド・ハウスです。

「自宅が近い人は家に帰りますが、うちのように遠方の場合、短期間の一時退院では帰宅してもとんぼ返りになってしまいます。できるだけましろとゆっくり過ごしたいから、マクドナルド・ハウスで年越しをしました。感染症がこわいので外には出ませんでしたが、マクドナルド・ハウスのお正月イベントでおもちを出してくれたり、書初め大会をしてくれたりして、ましろも喜んで参加していました」(哲さん)

「マクドナルド・ハウスは自炊もできるので、ましろと一緒にホットケーキを焼いたり、たこ焼きを作ったりして楽しみました」(ゆりさん)

お正月休みのあと、本格的な治療が始まります。

「ましろは体質的に抗がん剤が効きにくいようです。長崎の大学病院に入院していたとき、抗がん剤の副作用が少なくて、予想していたほどつらそうではなかったので、家族みんなで喜んでいたのですが、副作用が少ないのは、抗がん剤が効きにくいから、効いていなかったからだったのかもしれません。

抗がん剤がよく効く子は、2、3クール目で腫瘍が消えていくこともあるらしいのに、ましろは11ク―ル行ってもあまり効果がなく、逆に悪化することもありました。でも、腫瘍は抑えられているという説明を受けていたので、絶対に効果が現れる!と信じ、ましろを励まし続けました」(ゆりさん)

「パパに会いたい」と泣く娘。カレンダーに印をつけてカウントダウンを

パパが長崎に帰るときは、毎回「帰らないで~」と大泣きしていました。

お正月はパパと一緒に楽しい時間を過ごせたましろちゃんですが、長崎の病院にいるときのように、頻繁にはパパに会えません。

「ましろはすごくパパっ子で、パパがお見舞いに来てくれるのをいつも待っていました。『長崎の病院のときのようにパパに会えないのよ』と説明はしましたが、3歳のましろには家から遠い場所にいることはわからないんですよね。『パパに会えないなら前の病院に帰りたい』とだだをこねたり、毎日のように『パパは?』と聞いてきたりするようになりました。

このままだとましろの気持ちが後ろ向きになって、病気と闘う力がなくなってしまう、何とかしなければ、とあせりました。何かいい方法はないかと考え、思いついたのは、夫がお見舞いに来る日が決まったら、カレンダーのその日にましろにハートマークを描かせ、毎日寝る前に終わった日に×をつけさせること。パパに会える日が近づいているのを、視覚的にわかるようにしたんです。すると、会える日が来るのを楽しく待てるようになりました」(ゆりさん)

ましろちゃんに寂しい思いをさせないように、哲さんは月1回は必ず会いに行くようにしました。名古屋に転院した2019年12月2日当初はまだ新型コロナの感染が日本では問題になっておらず、お見舞いは自由にできました。

「夫が来ると、ましろの顔がぱあっと明るくなるんです。『やっとパパに会えた~!!』って。でもその分、帰る日には必ず大泣き。夫にしがみついて離れなくて大変でした。そんなましろを見て、夫も泣いていました。
また、治療がつらかったり、寂しくなったりすると、『パパに会いたいよう』と泣くんです。そんなときは、ましろの気持ちが落ちくまで抱きしめることしか、私にできることはありませんでした」(ゆりさん)

息子に会いたい。でも、赤ちゃんだからよかったこともあると自分を納得させる

入院している子どもたちのために、院内でさまざまなイベントが開催され、ましろちゃんも調子のいいときは喜んで参加。

名古屋に転院したとき千蒼くんは6カ月。哲さんが名古屋に来ている間は、自宅から車で30分の場所にある哲さんの実家で、主に義理のお姉さんが千蒼くんの面倒を見てくれました。

「長崎の大学病院に入院していたときは、少なくとも週末は千蒼に会えましたが、名古屋からはそう簡単には帰れないので、千蒼にかわいそうな思いをさせている・・・と申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
でも、夫の両親、兄夫婦、それに当時中学生と高校生だったいとこがすごくかわいがってくれて。送られてくる写真や動画はいつも笑顔だったので、ほっとしました」(ゆりさん)

ましろちゃんは、千蒼くんが3カ月のときに入院生活が始まってしまいましたが、弟のことは覚えていたそうです。

「夫と義姉がほぼ毎日、千蒼の写真と動画を送ってくれました。それらをましろと見ながら、『今日のちーくんはこんなことをしているね。かわいいね』と毎日話していたので、ましろは弟のことをわかっていたと思います。

千蒼に会えないのはとても寂しかったです。でも、同じ病棟に入院している子どもたちは、うちのように遠く離れた地域から転院してきたケースも多く、『小学生の上の子を置いてきている』というお母さんも珍しくありませんでした。そういう方の話を聞くと、『ママがいない』という状況を理解できない月齢の千蒼は、小学生の子のように寂しい思いはしていないから、赤ちゃんだったのはむしろありがたいことなんだって考えるようにしていました」(ゆりさん)

【高橋義行先生より】病院敷地内にあるマクドナルド・ハウスは、患者さん家族の「第二の家」をめざしています

病院のおひな祭りイベントで、おひなさまになったましろちゃん。

ましろちゃんの病気は転移がある高リスク神経芽腫のため、長い期間抗がん剤の治療を行って、全身に転移しているがん細胞をできるだけ減らす必要があります。そうしないと残ったがん細胞が増えてきて、再発してしまうためです。とくにましろちゃんの病気は、ほかの小児がんの患者さんと比べても入院での治療期間が長くなります。家族がみんなで一緒に宿泊できる病院敷地内にあるマクドナルド・ハウスは、家族にとって「わが家のようにくつろげる第二の家」をめざして、ボランティアの方が中心になって運営されています。

お話・写真提供/小田ゆりさん・哲さん 監修/高橋義行先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

名古屋大学医学部附属病院に転院してすぐに、ましろちゃんは予想外の危険な状態に陥ってしまいました。でも、先生たちの賢明な治療とママ・パパの祈りが通じて回復。その後、本格的な治療が始まります。パパ・弟と900キロ離れた名古屋の病院でのましろちゃんの闘病生活は、長く続くものになりました。

高橋義行先生(たかはしよしゆき)

PROFILE 
名古屋大学大学院医学研究科 健康社会医学専攻 発育・加齢医学講座 小児科学/成長発達医学教授。名古屋大学医学部附属病院小児がん治療センター センター長。専門分野は血液・腫瘍。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年7月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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