育児は、子どもが生まれた当事者として、男女関係なく最大限力をつくしたい【育児まんが家・パパ頭】
ににくん(6歳・年長)、ととくん(3歳・年少)の2人の男の子の育児の様子をまんがにしてSNSで発信しているパパ頭さん。妻や子どもたちへの愛情あふれるエピソードは、多くの人の共感を呼び大人気となっています。公立高校の教員でもあるパパ頭さんに、育休をとった理由や育児をするなかで気づいたことなどについて話を聞きました。
出産による命のリスクを負えない分、できることをやろうと決めていた
――公立高校の教員でもあるパパ頭さん。育児まんがの執筆を始めた理由について教えてください。
パパ頭さん(以下敬称略) 2017年の夏に長男が生まれ育児を始めてみたら、人生で感じたことのない強烈な感情や奇跡をたくさん感じました。でも、次から次へとやることがわき出てくるような怒濤(どとう)の日々の中では、強烈だったはずの体験の記憶が薄れていってしまいます。長男の育児の感動を忘れるのがもったいないと思い、文字と絵で記録したいと思いました。
教員になる前から趣味でゲームを題材にしたまんがを描いていたんですが、長男が生まれてからは育児まんがを描いてSNSに投稿し始めました。単純に漫画を描くのは好きで自身のリフレッシュにもなっていましたし、感じたことをアウトプットすると自分の考えが整理できて、改めて再発見することの楽しさもあります。
――パパ頭さんは1人目の出生後に1カ月、2人目は3カ月の育休を取得したそうですが、いつごろから育休を取ることを決めていましたか?
パパ頭 妻と出会い結婚する前から、妻との間に子どもができたら育休は絶対取りたいと思っていました。理由の一つに、妻に対する思いがあります。妻のことを愛していて、尊敬していて、幸せになってもらいたいし、妻の幸せのために自分ができるだけのことをしたいと考えていました。
子どもが生まれれば育児の負担はどう考えても重いだろうから、2人の前に立ちはだかる育児という巨大なミッションを、妻だけに負わせるのではなく当然2人で取りかかりたいと考えていました。
――まずはパートナーのために育児参加しようという気持ちが強かったのですね。
パパ頭 はい、それに女性は命をかけて出産をしますよね。そこが女性と男性では生物的にどうしても平等じゃない部分だと思います。自分は死のリスクを負えない部分はどうしようもない分、そのあとに担えるものは引き受けたいと思っていました。
また、僕には10歳下の妹がいます。僕の母は専業主婦で、父は昭和的なというか、早朝から深夜まで仕事をしている人でした。僕は幼いながらに母がワンオペ状態で妹の育児をする大変そうな姿を見ていたので、母親1人で子どもを見るのはあまり望ましくないなという感覚があったのかもしれません。
――そのパパ頭さんの考えについてパートナーはどう思っているのでしょうか?
パパ頭 妻は、僕が育児にかかわることに対して援助やアシストという感覚はおそらくなくて、子どもが生まれた当事者として、男女関係なく最大限力をつくすべきだと考えていると思います。彼女が僕と逆の立場だとしても、彼女は育休を取っているでしょう。僕が育児にかかわることを過度に感謝している様子はなさそうですし、その認識はお互い一致していると思います。
出産したら育児の知識がインストールされるわけではない
――実際に育児をしてみてどうでしたか?
パパ頭 子どもが生まれる前は、夜眠れないとか、体力的にすごく疲れることを予想していました。でも実際に育児をしてみると、体力的なこと以上に精神的な疲れが大きいことがよくわかりました。24時間体制で小さな生き物の命を預かっている責任感、さらにその生き物に四六時中要求をされてそれに答える必要があったりして、精神的にすり減ることをはっきりと自覚しました。これは想像以上にハードだな、と実感しました。
女性は赤ちゃんを産むと自動的に育児に必要な知識や経験がインストールされるようなイメージを持っている男性が、もしかしたらいるかもしれませんが、おむつ替えも沐浴も何もかも、妻だって初めてなわけで、自分で体験して獲得してきているんですよね。育児でわからないことがあったらつい妻に聞いてしまいがちですが、自分も主体者として育児をするには、すぐに妻に助けを求めずに、まずは自分自身でその体験をそしゃくして自分のものにしていく過程が大事だなと思いました。
――パートナーに注意されたようなことがありましたか?
パパ頭 予防接種の予定を組むときに、これまで何を打ったか、次はいつのタイミングでどの予防接種を打ちにいくのかが複雑ですよね。僕も子どもが低月齢のころは把握していたんですけど、子どもが1歳前くらいになって、次の接種まで期間が開いてわからなくなったことがありました。予防接種の情報は母子健康手帳に記載があるので確認すれば把握できたのに、つい「どれを打ったっけ?」って忙しくしている妻に聞いてしまったんです。
そうしたら妻から「母親だからって自動的に知識を獲得してるわけじゃないから、あなたも自分で考えないといけない」とたしなめられたことがありました。
豊かな育児には余裕と過程が大切
――大変ななかでもできるだけ楽しみながら子育てするために大切だと思うことはどんなことですか?
パパ頭 育児って単純にすごく大変で、追われるような毎日です。でもその中でできるだけ豊かに子どもを育てることを突き詰めて考えたら、僕は、余裕と過程が大事だと思いました。
余裕が必要だと思ったのは、子どもがどんなにかわいくても、親にそれを受け取る余裕がなければかわいいと感じられないとわかったからです。これは2人目の育休で長男と過ごして感じたんですが、子どもが寝たあとに「なんであんなに注意しちゃったんだろう」と反省して涙が出ることがありました。翌日は優しくしようと思ってもまた同じようなことを繰り返してしまう。僕は子どもを育てる能力がないんじゃないかと自信を失いそうになったけれど、でもきっとこれは僕が悪いのではなく、環境条件が十分じゃないんじゃないかと気づきました。便利な家電を使ってみるとか、保育園の一時預かりにお願いしてみるとか、心に少し余裕が生まれるような環境を作る工夫も大事だと気づきました。
――では過程、というのはどういうことですか?
パパ頭 育児の喜びはどこにあるのかな、と考えたときに、たとえばこれまで歩けなかった子どもが歩けるようになった、その成長の結果はもちろんうれしく感じますが、歩けるようになるまでの過程を知ることは、その喜びの質をさらに高めてくれると思うんです。
少しずつ体を持ち上げようとしている様子や、うまくいかなくて転んじゃったとか、ソファにつかまり立ちしてうれしそうにしている笑顔とか。歩けるようになるまでの一つずつの過程を知っていると、子どもへの目線が変わります。何も知らないでいると子どもの夜泣きを「疲れてるのに勘弁してくれよ」と思ってしまうかもしれないけど、「公園でたくさん遊んで頑張ったから夜泣きもしかたないね」とやさしい気持ちで受け止めることができると思います。
それに、パートナーと子どもが育つ過程を共有できると、育児の大変さも目減りすると思います。頑張って作った離乳食を食べさせようとしたら、全部ひっくり返されてぐちゃぐちゃになってしまったとき、自分1人だと「もう俺はダメだ・・・」と立ち直れない気持ちになりますが、妻がいてくれれば「わかるよ、本当にやってられないよね」と理解し合えます。
負担的なものは分担してお互いに余裕を持てるようにして、育児の過程や喜びは共有していくことが、パートナーと一緒に育児を楽しむことにつながるのかなと思います。
――夫婦のどちらかが余裕がなくなったときに、お互いどのようにフォローしあっていますか?
パパ頭 とくにルールを決めているわけではなく、無意識に確認しあっていると思います。子どもに対する声のかけ方、声のトーンを聞いて、「あ、今イライラしてるかも」「余裕がなさそうだな」と察しあっています。僕が気づいたときには、子どもたちの注意をこちらに向けるようにしますし、妻も、僕が子どもたちにそっけない返事をしているのを見つけると、割って入ってくれて、子ども2人とも連れて行ってくれる、そういう連携をしています。自然と助け合えているのは、やはり2回の育児のスタートの時期をともに過ごした経験が大きい気がします。
お話・イラスト/パパ頭さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
パパたちが育児にかかわる状況の変化について聞くと、パパ頭さんは「ここ1〜2年で休日に子どもと一緒に過ごす男性の姿を見かけることがグッと増えたなという印象はあります」と話してくれました。教員の間でも若い世代では男性が育休を取ることが一般的になりつつあるのだそうです。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年7月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
パパ頭さん(ぱぱあたま)
PROFILE
2児の父。公立高校教員。妻子との日常や、男性として育休を取得した経験を漫画でつづっている。
『パパが育休とってみたら妻子への愛が深まった話』
X(旧Twitter)で大反響を得た「パパが育休を取った話」に大幅描き下ろしを加えて書籍化。家族の日常を描きながら、命をはぐくむことへの深い考察や、育休を取得して育児を経験したからこそわかったことがユーモアたっぷりにつづられる。パパの育休取得コミックエッセイ。パパ頭著/1210円(KADOKAWA)