抗体ができるまでの乳幼児期にかかりやすい「感染性結膜炎」。細菌性とウイルス性の違いとは?【ママ眼科医】
「子どもの目の病気について正しい情報を」と活動するママ眼科医の先生たちのリレーコラムをお届けします。
3回目の今回は、「感染性結膜炎」についてです。ボストン小児病院眼科に研究留学中の八木瞳先生による、細菌やウイルスによって引き起こされる結膜の炎症についての治療や予防についての解説です。
子どもに起きやすい、細菌やウイルスによる結膜の炎症
感染性結膜炎とは、細菌やウイルスによって引き起こされる結膜(白目やまぶたを覆う透明な膜)の炎症をさします。体に入り込んできた細菌、ウイルスを排除するための反応です。生後半年まではお母さんからもらった抗体によって守られていますが、徐々に免疫がなくなり自分で抗体を作り出すまでの乳幼児期は、細菌やウイルスに感染しやすい段階です。
【図1】白目を覆う透明な組織(結膜)の炎症
結膜は、まぶたの内側と白目の部分(強膜)を覆っている薄い膜です。結膜の炎症は結膜炎と呼ばれます。結膜炎は、ウイルス、細菌、アレルゲンなどに対する体の防御反応です。
細菌とウイルスは何が違うの?
細菌は肉眼で見えない小さな生物で、人に病気を引き起こす細菌や、体の環境を保つための細菌がいます。普通は害を及ぼさない細菌でも、抵抗性の低い子どもに対しては病気を引き起こすことがあります。
ウイルスは細菌の50分の1の大きさで、自分の細胞をもたず、ヒトなどの細胞に入って生存し増殖します。抗生剤は細胞の増殖の邪魔をして薬として作用しますが、増殖のしかたが異なるウイルスには効果がありません。
膿状の目やにが多い細菌性、水っぽい目やにのウイルス性
細菌性の結膜炎では、まぶたの縁や目じりに膿(うみ)のような目やにがたくさん見られ、まぶたをふいたあとでも数分で再発する特徴があります。充血と目やには片目が一般的ですが、両目で起こることもあります。風邪をひいたときにかかることが多いです。年齢によって、原因となる細菌の種類が異なります。
新生児ではクラミジアや淋菌、乳幼児ではインフルエンザ菌、学童期にかけては肺炎球菌やブドウ球菌などが原因になります。
一方、ウイルス性の結膜炎では、突然の両側の充血、水っぽい目やに、多量の涙、痛み、まぶたの腫れなどが典型的な症状です。症状は通常24~48時間以内に両目に広がりますが、ときには受診した時点では片方の目だけに症状が出ている場合もあります。風邪に続く場合もあれば、目だけの感染のみの場合もあります。
アデノウイルスやエンテロウイルスが原因で、感染力が強く、患者さんの目やにや汚染されたものを触ることで広がります。炎症が強い場合、黒目(角膜)に点状の斑点が現れることがあります。
充血、目やに、まぶたの腫れは非感染性のアレルギー性結膜炎にも見られる症状ですが、アレルギー性結膜炎は主な特徴はかゆみです。一方、感染性の場合はかゆみがそれほど強くありません。
【図2】細菌性とウイルス性結膜炎の症状
細菌性、ウイルス性結膜炎ともに充血と結膜の腫れを引き起こします。細菌性結膜炎の目やには膿のような不透明でかたまりをつくる目やにで、ウイルス性結膜炎の目やには透明で水っぽく、流涙を伴います。
どんな検査をするの?
風邪の有無や、周囲に同じ症状の人がいるか、発症の経過などの病歴を聞き取り、その後顕微鏡検査を行います。細菌性が疑われる場合、目やにに含まれる細菌を特定するために培養検査を行います。この検査によって、原因となる細菌を数日後に特定することができます。
アデノウイルス性結膜炎に対しては、迅速検査を行うことができ、陽性の結果が出れば確定診断が可能です。ただし、陰性の場合でもウイルス性結膜炎が疑わしければ、点眼治療や感染対策を実施することがあります。
細菌性とウイルス性では治療が異なります
細菌性結膜炎が疑われる場合は診断当日から抗生剤治療を行います。子どもの場合、目薬を使用する際は目を閉じた状態で目頭に目薬を垂らし、まばたきをしてもらうことで目に入れることができます。泣いてしまって点眼の使用が難しい子どもには、まぶたの裏にとどまる軟膏も効果的です。治療には数日で反応が現れ、通常は1週間程度で症状が改善します。しかし、治療に反応が見られず症状が続く場合は再び眼科を受診するようにしてください。また、再発するときは、逆さまつげや涙嚢炎(るいのうえん)などのほかの問題がないかを確認します。
一方、ウイルス性結膜炎に対しては、特別な目薬や全身の抗ウイルス剤はなく、免疫系がウイルスに対して抗体を生成するのを待つことになります。通常、炎症を緩和するための目薬と、免疫力が低下したところにほかの細菌が感染しないように予防するための抗生物質の点眼を行います。充血や目やにの症状は、始まった時点から1週間程度悪化することがあり、症状は2~3週間続くことがあります。
感染予防にはどんなことが大切?
細菌性とウイルス性はどちらも感染力が強く、目やにに直接触れたり、汚染されたものに触れたりすることで感染します。ハンカチ、ティッシュ、タオル、リネン、食器などを共有しないようにしましょう。
とくにアデノウイルスによる流行性角結膜炎(いわゆる「はやり目」)やプール熱などは、学校保健安全法による指定感染症で、「病状により感染のおそれがないと認めるまで」「症状が消失してから2日後まで」出席停止となるように定められています。
充血、涙、目やにが収まってきたら、眼科を受診してから登園の可否を判断しましょう。保育園によっては登園許可証が必要な場合もあるので、事前に確認しておくことが大切です。
監修・文/八木瞳先生 構成/たまひよONLINE編集部
感染性結膜炎にかかったときの感染予防対策は、家庭内での対応が大変だったり、通園・通学を控えることで仕事への対応など影響は大きいですが、感染を広げないためには周囲の方々へもこの重要性を伝える必要があります。
●参考文献
日本小児眼科学会, 結膜炎.
八木瞳先生(やぎひとみ)
PROFILE
眼科医。2017年慶應義塾大学眼科学教室入局、2018年国立成育医療研究センター眼科、2022年よりハーバード大学ボストン小児病院眼科にて研究留学。日本眼科学会専門医。3歳男児のママ。