子どもの「やってみたい!」気持ちに火をつける、脳のメカニズムを刺激するには?【脳医学者】

子どもの「やりたい!」気持ちを起こさせ、いろんなことにチャレンジさせるには、親はどんなふうにかかわればいいのでしょうか。東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之先生の短期連載 第7回のテーマは「挑戦したくなるメカニズム」について。11才の男の子のパパでもある瀧先生に、子どもの脳の発達からみる子育てのヒントについて聞きました。
挑戦したくなるメカニズムとは?
――以前、子どもが「楽しい」と感じるとドーパミンが出て知的好奇心が高まると聞きました。では、子どもが何かに挑戦してみたい、と思うとき、脳の中ではどんなことが起こっているのですか?
瀧先生(以下敬称略) 私たちの脳には、ミラーニューロンという模倣に関係する働きがあります。ミラーニューロンシステムは、単に運動の模倣だけではなく、相手の気持ちを理解する、あるいは相手に共感して適切な行動を取るという、社会的認知の側面も関与しているといわれます。親が楽しそうに何かに取り組んでいる様子を子どもが目にすると、まさにこのミラーニューロンシステムが働いて、自分も挑戦してみたい、という気持ちになると考えられます。
保育園や幼稚園で先生や友だちが楽しそうに遊んでいるところを見て、「私も入れて!」と仲間に入りたがることがあると思いますが、それもミラーニューロンシステムの働きによるものと言えます。だれかが楽しそうに何かをやっているのを見るとやりたくなる、というメカニズムは、子どもに何か挑戦させるときのヒントになるでしょう。
――では習い事などに挑戦させたいと思ったら、体験会などに参加して本人が実際にやってみるより、まずは楽しく取り組んでいることを見ることを重視して見学させたほうがいいのでしょうか?
瀧 その子の個性に合わせて、どちらでもいいと思います。すごく好奇心旺盛な子でどんどんやりたがるなら、まずやらせてあげるといいでしょう。逆に引っ込み思案な子どもだと、なかなかパッとチャレンジできないこともありますよね。僕もそうでした。そういう子には、スポーツ観戦や観劇・コンサートなど、実際に目で見るチャンスを増やしてあげると、興味があることを見つけチャレンジするきっかけになると思います。
「ゲーミフィケーション」は行動を変えるきっかけになる
――お手伝いなど親が子どもにやってほしいことや、早起きや勉強などの習慣を身につけさせたいときには、何かいい方法がありますか?
瀧 子どもだけではなく大人にとっても、何か新しいことを始めるとか、それまでと行動を変えることは難しいことです。何かを始めるときに、やるべきことをゲーム化して行動する「ゲーミフィケーション」は、きっかけの1つになると思います。以前、世界的ブームとなった『ポケモンGO』が例になるかもしれません。位置情報を活用し、実際に街を歩きながらポケモンを集めるゲームで、歩いた先で新しいキャラが見つかるとか、ポイントがたまるといった楽しみがあることで、普段運動をしなかった人もウォーキングするようになった、ということがありました。このように、何か外からの報酬によって行動を変えることを「外発的動機づけ」と言います。小さい子どもなら、トイレでおしっこできたらシールを貼ろう、とゲーム性を持たせるのも同様です。
ただ、ゲーミフィケーションは行動を変えるきっかけにはなりますが、その行動を継続するためには、だんだん「散歩が楽しい」「体が健康になる」など、「内発的動機づけ」、つまり「やりたい」気持ちに変わっていくことが必要です。
これはたとえば勉強にも言えること。ひらがなやカタカナの練習を始めたとして、初めは親にほめられるのがうれしくて練習すると思いますが、乗り物が好きな子なら、勉強を進めるといろんな働く車の名前がわかるようになって楽しい、ということもそうです。自分からやりたい、と思えれば次の挑戦にもつながるでしょう。
――自分からやってみよう、続けよう、と思うためには、親も応援したり、一緒にやったりするといいでしょうか?
瀧 そうですね。親も一緒に伴走するのがいちばんでしょう。1人で頑張るより、一緒に楽しさを共有できたほうがいいと思います。朝、早起きしてみよう、というチャレンジなら、親子で一緒に起きてラジオ体操をしてみるのもいいと思います。泳ぎの練習なら、親子で競争するのもいいと思います。やってみてこんなにいいことがある、楽しい、ということがわかると、自分で継続することにつながるでしょう。
脳医学者パパ・瀧先生の子育て体験を教えて!
――瀧先生の息子さんが最近興味を持って挑戦したり夢中になっていることはありますか?
瀧 息子は以前からYouTubeでマインクラフト(3Dブロックで構成された仮想空間の中で、ものづくりや冒険が楽しめるゲーム)を見てやりたがっていました。そして今、時間を決めてPC版をプレイしています。
私もこっそり息子の攻略本を読み、息子のプレイを一緒に見ています。マインクラフトの面白いところはゴールがないところです。敵を倒すようなゲーム要素もありながら、道具や建物や農作物を作ることもでき、非常に創造性を高められるところが魅力だと思います。
また、マインクラフトをプレイすることで、プログラミングに興味を持ったようで、スクラッチというプログラミングソフトで簡単なゲームを作っているようです。それが算数などの論理的思考にもつながっているように思います。また、コンピューターに親しむことで、パワーポイントで写真を取り込んだスライドを作ることもできるようになり、このスキルは将来の仕事上にも役立つだろうな、と感じています。
【瀧先生に聞く】ママ・パパからの気になるQ&A
子育て中のママやパパの困りごとや悩みに、瀧先生からアドバイスをもらいました。
【Q】園の発表会で逆上がりの種目があり練習させたいのですが、挑戦する前から「難しい、できない」とすぐあきらめてしまいます。
【瀧先生より】
私も同じ経験があり、気持ちはすごくわかります。わが家の場合は、息子の逆上がりの練習につき合うときに、まず私が逆上がりをやってみせました。隣で何度もやってみせながら、少しずつ一緒に練習をしました。同時に子どもの気持ちに「逆上がりって難しいよね」「やりたくない気持ちもわかるよ」と共感することも大事だと思います。共感してもらい相手への信頼感が高まると、「練習してみようか」と誘ったときに素直に挑戦しやすいでしょう。
実は私は泳げないのですが、息子が泳ぎの練習をするとき、いかに自分が泳げないか、泳げないなりに努力をしているかを見せました。すると息子のほうはどんどん泳げるようになってしまって…競争をしてもすぐに抜かれてしまいました。親を抜かすのは快感だったようです(笑)。
何かにチャレンジするときは、まずは親が見せてあげるのがいいけれど、もし親もできなければ一緒に頑張ろう、と親子でチャレンジしてみたらどうでしょうか。
【Q】夫が休みの日に子どものお世話を頼むと、1人でスマホゲームばかり。子どももまねしてしまうのではと心配です。
【瀧先生より】
パパが休みの日には好きに過ごししたいという気持ちになるのもよく分かります。その上で、子どもが小さいうちには親子のコミュニケーションを優先されるとよりいいかなと思います。
パパがどうしてもゲームをしたいのであれば、パパ1人ではなく子どもと一緒に遊べるものにしましょう。ゲームの時間を決めて遊びつつ、もしその後ゲームに強い関心を持って真剣に取り組み、将来ゲームに関連する仕事につくことも立派なことです。
子どもにとっては、ゲームによって友だちとのコミュニケーションが増えるツールでもあります。
子どもにこうなってほしい、ということを親が率先してやることが、子どもの共感力や知的好奇心を育てるでしょう。
取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
子どもに何かを挑戦させたいと思ったら、子どもだけではなく親も一緒に楽しみながらやってみるといいそうです。自分で「やりたい」気持ちが生まれたら、次の段階の興味関心にもつながり、知的好奇心を高めることにもつながるでしょう。
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