「性教育は0歳から」と言われるスウェーデン。同性婚・共同親権・シングルなど家族の形もさまざま【YouTubeふたりぱぱ】
日本人のみっつんさんとスウェーデン人のリカルドさんは、2011年に結婚し、2016年にアメリカでの代理母出産で男の子を授かった国際同性婚カップルです。現在は7歳になる息子くんと家族3人でスウェーデンで暮らしています。YouTube『ふたりぱぱ FutariPapa』のみっつんさんに、スウェーデンでの幼児教育や性教育、多様な家族のあり方について話を聞きました。
保護者の育休は最低1年間、1歳からは就学前学校に通う子どもたち
――スウェーデンの幼児教育について教えてください。息子くんは何歳から保育園などに通っていましたか?
みっつんさん(以下敬称略) スウェーデンでは現在幼保一体のフォシュコーラ(förskola)と呼ばれる就学前学校があり、1歳から6歳までの子どもが通えます。子どもが生まれてから最低1年間は父親または母親が育児休暇を取得することが多いので、0歳児保育は実施されていないようです。就学前学校は保護者の就労状況に合わせて保育・教育時間が決められています。保護者が無職であっても就学している場合には、子どもの就学前学校の利用が認められます。
僕たち家族は息子が生まれてからスウェーデンに住むことになりました。僕はスウェーデン語が話せないしすぐ働けなかったので、ハローワークのようなところに登録して求職中でしたが、保護者が求職中だと週に15時間預けることができました。さらにそのあと、僕がスウェーデン語の語学学校に通ったので、通学による就学前学校の利用も認められて週に20時間くらい預けられることになりました。
――日本では保育園の送迎をするパパの姿が増えた印象ですが、スウェーデンでは就学前学校の送迎風景はどうですか?
みっつん ママ・パパどちらも見かけます。パパのほうが多いくらいじゃないかな。スウェーデンは女性の約8割が就業していて共働きが多いので、朝遅く出勤するほうが子どもを送っていき、夕方早く仕事が終わるほうがお迎えに行くことが多いようです。
就学前学校の預かり時間は、朝7時から夕方18時くらいまでで、申請すれば朝ごはんも食べさせてくれます。うちの場合も朝ごはんを頼んでいて、朝起きて着替えさせたらすぐに息子を就学前学校に連れて行って、そのあとに自分たちの朝食をとる、という感じでした。
スウェーデンの0歳からの性教育は、環境を整えることから
――みっつんさんは自身のYouTube配信の中で、スウェーデンでは性教育も早期から行われると話していました。日本でも幼児期の性教育が注目され始めています。スウェーデンではいつごろからどんなふうに始まりますか?
みっつん スウェーデンでは、性教育は0歳から始まると言われています。だからといって当然だけど幼児に生殖のことや性の知識を教えるわけではなく、子どもたちが自然に学べる環境を整えるのが先生の仕事とされています。
先生が発言する言葉も、男らしさ女らしさで分けないこと、そのような表現を使わないこと、教材に使用するイラストや色にジェンダーバイアスを固定しないようにする(男の子はこの色、というふうに固定しない)、「女の子はお人形で遊ぼうね」などと性によって遊び方を決めないことなどをとても大事にされています。
息子が通った就学前学校の教室を見学したとき、壁に「LOVE」をテーマにしたコラージュが飾られていました。男性同士がキスしている写真や、ドラァグクイーンの人が半分メイクをして半分は素顔の写真など、多様な性のあり方を表した写真がコラージュになっていたんです。子どもたちが過ごす環境にそういった作品が当たり前にあり、「これが愛だよ」と教えなくても、日常的に愛の多様性を目にすることで子どもが自然に学ぶ環境が作られていて、感心しました。
ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、5~18歳を4段階に分け、年齢別の学習目標を設定していますが、その中でレベル1の5〜8歳では「赤ちゃんがどこから来るのかを説明する」ことが目標とされています。息子が通っていた就学前学校でも、そのガイドラインに沿って、妊娠・出産の話をしたそうです。
――息子さんには、自分がどのように生まれたかをどんなふうに伝えましたか?
みっつん 息子の場合は4歳くらいのときに就学前学校で妊娠・出産の話を聞く時間がありました。といっても、全部詳しく教わるわけではなくて、子どもがわかる範囲で「赤ちゃんはお母さんのおなかの中で育って生まれてくるんだよ」と教えてくれたようでした。それで、「うちにはお母さんがいないけど僕はどうして生まれたんだろう」という疑問が出てきたので、そのタイミングで、息子がどのように生まれたかを伝えました。
息子の代理母のステファニーが、息子の妊娠中にエコー写真を貼って成長の様子をまとめたアルバムを作ってくれたので、そのアルバムを家族3人で見ながら話をしました。息子は「うちにはパパが2人いて、ママはいないけど自分を産んでくれた人がアメリカにいて、その人はステファニーだ」ということは理解しています。7歳になった今では卵子提供者の人もまた別にいるということも話をしています。
同性婚、シングル、ステップファミリー・・・多様な家族の形はボーナスファミリー
――スウェーデンで暮らす中で、ほかの家族の形はどうですか?ふたりママ、ふたりパパも多いですか?
みっつん ふたりママは多いですね〜。スウェーデンでは生殖補助医療の保険適用が受けられるんですが、レズビアンカップルや、シングル女性で1人目の子どもがいない人も、保険適用で精子提供を受けて人工授精、体外受精などの不妊治療を受けることができます。不妊治療でなくても、医療を介さずに精子提供を受けるセルフ・インセミネーション(人工授精)もあったりします。
僕たちの近所に最近まで住んでいたふたりママも子どもが4人いるし、以前住んでいたアパートでもふたりママの家族がいました。先日ルレオでプライドパレードというセクシュアル・マイノリティーのパレードイベントがあったんですが、それを見てもふたりママが増えたな〜という印象です。
スウェーデンでは数年前に『Bonus Family(ボーナスファミリー)』というドラマが大流行しました。再婚相手の子どもなどの関係で増える家族をボーナスファミリーと呼ぶんです。日本では最近「ステップファミリー」という言葉が広まりはじめているようですが、スウェーデンでは再婚などで家族が増えることを「ボーナス」と前向きにとらえられているんだと思います。
――同性婚が法律で認められているスウェーデンでは、いろんな家族の形があるんですね。
みっつん はい。リカの親戚だけ見ても本当にいろんな家族の形があります。僕たちふたりぱぱは同性国際カップルですし、離婚してシングル同士で共同親権で子どもを育てる人、単独親権のシングルマザーで2人の子どもの父親がそれぞれ違う人、スウェーデン人と難民としてやってきた男女カップル、あとはいわゆる典型的な男女カップルに子どもが2人のファミリーもいます。
スウェーデンで暮らしていると、本当に家族の形っていっぱいあるなと思うし、それをだれも否定しない感覚があります。
リカの弟の場合、パートナーと未婚で子どもができ、そのパートナーとは別れました。でもリカの母親は、孫とはもちろん、別れたパートナーの母親とも仲がよくて一緒に遊んだりしています。日本ではパートナー同士が離婚したらその家族同士はほぼ疎遠な状況になるのではないでしょうか。でもスウェーデンでは、両親が離婚をしても、子どもにとってみたらどちらも家族だし、子どもが大きくなるまでお互いの家族が責任を持って一緒に育てたほうがいいよね、という感覚が大事にされています。もちろん、けんか別れして完全に単独親権の人もいますけど、離婚しても共同親権で育てる人のほうが多いように感じています。
お話・写真提供/みっつんさん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
幼児期から性の多様性について自然と学ぶ環境があるというスウェーデン。さまざまな家族のあり方をお互いに認め合える環境で、みっつんさんたち家族も「自分たちらしく過ごせる」のだそうです。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年8月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
ふたりぱぱ
PROFILE
スウェーデン人のリカと日本人のみっつんと息子くんの同性婚ファミリーYouTuber。みっつんとリカは結婚後、代理母出産により息子くんを授かり、リカの故郷スウェーデンへ移住。スウェーデンで現在7歳になる息子の子育てに奮闘する様子をYouTubeやブログで発信している。
『ふたりぱぱ ゲイカップル、代理母出産(サロガシー)の旅に出る』
スウェーデン人男性と同性婚をしたみっつんの人気ブログ『ふたりぱぱ』の連載「サロガシーの旅」の書籍化。ゲイが子どもを授かる方法、サロガシー(代理母出産)のプロセスなど、ゲイカップルが子どもを授かるまでの“旅"をリアルに語るエッセイ。みっつん著/1870円(現代書館)