赤ちゃんに増えている「食物たんぱく誘発胃腸炎」。診断されにくいから気をつけたいことは?【小児科専門医】
国立成育医療研究センターのアレルギーセンター、救急診療部、免疫アレルギー・感染研究部などは、厚生労働省の研究班と共同で、嘔吐タイプの食物たんぱく誘発胃腸炎(以下、FPIES・エフパイズ)のアクションプランを作成。日本初となるこのプランの作成にかかわった、同センター・アレルギー専門医の山本貴和子先生に、アクションプランがなぜ必要なのか、その意義について聞きました。
FIPESの症状が現れたときの対応を示すフローチャート
――まずFPIESの特徴を教えてください。
山本 FPIESは食物たんぱく誘発胃腸症という病気の一つで、ほかに食物たんぱく誘発直腸結腸炎、食物たんぱく誘発腸症があります。
FPIESは原因食物によっておなかの症状を起こし、急性の場合は、原因食物を食べて数時間後に何度も嘔吐するようになります。
――今回のアクションプランは、嘔吐タイプのFPIESと診断がついている子どもが、間違って原因食物を食べたときの対応を示しています。
山本先生(以下敬称略) アクションプランとは、症状や発作などが起きたときの対応を示した書面のことです。
FPIESと診断された子どもが原因食物を間違って食べてしまった場合、重症だと脱水症状やショックに至ることもあります。最悪では命が危なくなることもあるため、迅速な対応が必要です。
日本では2019年2月に診療ガイドラインが作成されたのですが、今もまだ認知度が低く、ママ・パパや子どもに接する仕事についている人だけでなく、医療従事者にも理解が進んでいないと感じています。
そこで、「患者様用(保護者向け)」のアクションプランは、注目してほしい症状や救急車を呼ぶタイミングなどを、フロー形式でまとめました。一方、「医療機関用」はFPIESに関する情報を提供するとともに、急性期症状への対応をまとめました。
FPIESと診断された子どもに症状が現れたとき、ママ・パパなど保護者が冷静に対応するための助けになることと、緊急時に診る医療従事者が適切な治療を行うための支援につなげることが、このアクションプランを作成した目的です。
――アクションプランが効果を発揮した例があったら教えてください。
山本 FPIESと診断され、卵黄を除去していたのに、誤って卵を使ったパンを食べてしまった8カ月の男の子のケースをデモ(模擬症例)として紹介します。
この男の子は7カ月のとき国立成育医療研究センターのアレルギー科を受診し、卵黄が原因のFPIESと診断されました。付き添っていたママには、離乳食から卵黄を除去するように指導するとともに、アクションプランを渡し、間違って卵黄を食べて嘔吐したときの対応方法を説明しました。
それからは卵を食べさせないようにしていたそうなのですが、10カ月のとき、卵入りのパンを間違えて食べさせてしまい、その2時間後に嘔吐。さらに立て続けに2回嘔吐したそうです。
ママは診断時の説明を思い出してくれ、すぐにアクションプランのフローチャートを確認しました。
男の子はぐったりはしていないけれど、水分がとれない状態だったとのこと。手足を見てみると色は悪くなく、話しかけると視線が合うため、「重症ではない」と判断。軽症・中等症だろうけれど受診は必要と考え、すぐに当センターの救急外来を受診しました。
男の子は軽度の脱水があると判断されて、生理食塩水を投与して経過をみて、水分摂取もできるようになり、元気になり、帰っていきました。
軽症でも6時間程度はよく観察を。医師の指示があるまで原因食物は除去します
――保護者向けのフローチャートは、原因食物を食べて(可能性を含む)子どもが嘔吐したあと、子どもの様子によって「軽症・中等症」と「重症」に分かれています。
山本 ママやパパと視線が合う、手足を動かす、機嫌よく遊ぶなど、いつもと様子が変わらなければ「軽症・中等症」と考えられます。嘔吐が収まったらスプーン1杯ずつ水分補給を始め、自宅で安静に過ごせば大丈夫です。
ただし、途中から症状が急変する可能性もあるので、子どもの様子をしっかりと観察し、4~6時間は子どもを1人にしないで観察することが重要です。
――「軽症・中等症」でも、水分がとれない場合は受診が必要になります。
山本 脱水症状を改善するために、医療機関で生理食塩水などの投与を行います。子どもの様子が落ち着いて帰宅したあとは、症状が再び現れないか、いつもと違うところがないかなどに注意してください。
――「軽症・中等症」で嘔吐が治まった場合、その後、原因食物はどのように食べさせることになりますか。
山本 即時型の食物アレルギーと違って、原因食物は除去が治療の基本となります。症状が治まっても、ママ・パパの判断で勝手に食べさせるのは厳禁です。主治医に「食べてもいい」と判断されるまでは除去を続けます。
――視線が合わない、泣き声が弱い、手足をだらんとしているなど重症の症状が見られ、救急車で緊急受診した場合、入院は必要になりますか。
山本 症状が進行する可能性があるので、救急外来で4~6時間程度経過を観察しますが、状態が落ち着いたら入院せず帰宅するケースが多いです。ただし、中には入院が必要になることも。一般的には、1日程度の入院で済むことが多いと思いますが、まれに、ICUに入る必要があるくらい重症化することもあり、その場合は、入院期間が長くなる可能性があります。
子どもを診る医療従事者が適切な対応をできるようになることもめざす
――FPIESは医療従事者の中でも認知度は低いとのこと。受診したときに適切な対応をしてもらえるか心配です。
山本 医療従事者用のアクションプランを作成したのは、そうした課題を解決するためです。FPIESの症状が現れた子どもを診るすべての医師に、適切に緊急時対応をしてもらうためのアクションプランなのです。
卵黄などの原因食物を何回か食べても問題がなかったのに、あるとき突然、食べて数時間後に頻回に嘔吐するのがこの病気の特徴です。そして、通常のアレルギー検査では原因物質は特定できず、エピソードから診断できない場合は、診断目的の食物経口負荷試験が必要になります。
このアクションプランはすでに嘔吐タイプのFPIESと診断がついた子どもへの対応法を示していますが、これを機に医師にFPIESへの認知度を高めてもらい、この病気が疑われる場合は、食物経口負荷試験を実施できる施設を保護者に紹介する。そのような流れをつくり、適切な対応ができる環境を整えていくことをめざしています。
お話・監修/山本貴和子先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部
FPIESは重症になると緊急搬送も必要になるなど、適切な対応が欠かせません。この病気と診断された子どもがいる家庭はもちろんのこと、離乳食が始まっていろいろな食べ物を食べるようになった子どもがいる家庭は、この病気のことを理解し、対応法を知っておくことが大切です。
●記事の内容は2023年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。