6万人に1人の難病ミトコンドリア病の長男。「生まれたときは標準サイズだったのに・・・」その後発育が遅く、「食べてくれない」ことを悩み続けた【体験談・医師監修】
私たちの体はたくさんの細胞でできていますが、細胞一つ一つの中にミトコンドリアが存在して、細胞に必要なエネルギーを作り出しています。しかし何らかの原因によって、ミトコンドリアの働きが低下しさまざまな症状を引き起こす、「ミトコンドリア病」という病気があります。ミトコンドリア病は、6万人に1人の発症率ともいわれる難病です。
福岡県で中学1年生、小学4年生の2人の男の子と夫と暮らす小浦ゆきえさん(47歳)。小浦さんの長男は5歳になる少し前に、難病ミトコンドリア病と診断されました。診断がつくまでのことを聞きました。
出生体重3022g、身長47.5cm。生まれたときは標準だったのに
小浦ゆきえさんが長男を授かったのは、33歳のときでした。
「大学で生物化学を学び卒業後、鉄鋼メーカーに入社しました。関西でシステム系の部署で仕事をしていましたが、大学時代からつき合っていた夫と一緒に暮らすために退職して福岡へ。その後結婚して、33歳で長男を授かりました。
妊娠中、最初は自宅近くの産科クリニックに通っていたのですが、妊娠初期に受けたエコー検査で『おなかの赤ちゃんの首の後ろにむくみのようなものがあるのが気になるから、大学病院に行くように』と言われました。しかし、大学病院での詳しい検査では、むくみは消えていて異常はないとのことでした。
それ以外で、妊娠中気になったことは逆子のことだけでした。出産予定日が近くになっても、逆子のままだったので、妊娠40週のときに予定帝王切開で産むことになりました。長男は出生体重3022g、身長47.5cmで生まれました」(小浦さん)
1歳を過ぎると、成長ホルモンの分泌不全を疑うように
しかし長男が生後3カ月になったころから、発育が気になり始めます。
「3カ月ごろには、首もかなりしっかりしてきて、運動発達は順調だと感じていました。しかし体が大きくならないのが気になっていました。授乳は完全母乳でしたが、3カ月健診では『完全母乳の赤ちゃんだと体重が増えにくいことがあります。首もすわっているから大丈夫よ』と言われました。
3カ月健診時の身長は51.5cm、体重は3450gでした。私も夫も身長が157cmぐらいなので、小柄なのは私たちに似たのかな?と思っていました」(小浦さん)
1歳を過ぎると、さらに発育・発達が気になり始めます。
「9カ月ごろからつかまり立ちを始めたのですが、そこから先に進まないんです。手を離して立っちもしないし、あんよもしません。結局、やっと歩き始めたのは1歳10カ月ごろでした。
まわりの子と比べると明らかに体が小さくて、母子健康手帳の発育曲線に書き込んでみると曲線の下のほう。1歳6カ月のときは身長73.4cm、体重8430gでした。
離乳食のスタートは順調で心配はなかったのですが、1歳6カ月ごろから食べる量が減ってきました。極端な好き嫌いはないのですが、とにかく食べる量が少なかったんです。
また1歳6カ月ごろから、湿疹やかぶれはないのに、夜、ふとんに入ると全身をかゆがるようになりました。かゆくてつらくて、眠れません。アレルギー科を受診してアレルギー検査をしてもらったのですが、アレルギー反応は出ませんでした。医師からは、全身に保湿クリームを塗るように言われたのですが、それをしても効果がなくて・・・。毎晩、かゆがって子どもは寝ないし、私も寝不足でかなりつらい時期でした。
後からわかったのですが、かゆがるのは小食からくる栄養不足が原因でした」(小浦さん)
このころから小浦さんは、成長ホルモンの分泌不全を疑うようになりました。
「私は大学で生物化学を勉強していたので、少し知識がありました。体が小さめなのは成長ホルモンが影響しているのではないかと思ったんです。1歳6カ月健診のとき小児科の医師に相談したところ、『成長ホルモンの検査はかなり大変だから、1歳6カ月では受けるのは難しいよ。3歳児健診のときに、もう一度考えましょう』と言われました。
言葉の発達は順調で、1歳10カ月で歩き始めたので、私も体の発育は気にはなるけれど、もう少し様子を見ようと思いました。ただ二男が生まれて、長男が2歳6カ月のころ、お散歩をしているとすぐに『つかれた~、だっこ~』となるんです。足があまり強くないのかな?とは感じつつ、二男と2人の子育てにドタバタの毎日でした」(小浦さん)
3歳になり専門クリニックで、成長ホルモンの検査を
3歳児健診のときの長男の身長は81.5cm、体重は10.7Kg。やはり小柄なままでした。
「3歳児健診のとき、再び小児科医に相談して成長ホルモンの検査を受けることになり、紹介状を書いてもらいました。すぐに紹介状を持って専門クリニックを受診しました。大学病院と専門クリニックのどちらか迷ったのですが、下の子が生まれたばかりだし、息子もまだ小さいので待ち時間が少ない専門クリニックで検査を受けることにしました。
成長ホルモンの検査は、とにかく時間がかかりました。受診したクリニックでは、成長ホルモンの分泌を促す薬を点滴で投与して、時間をおいて何回か採血して血液中の成長ホルモンを測定したりします。1回の検査が半日ぐらいかかり、それを半年おきに1年半ぐらいかけて数回繰り返します。
後から知ったのですが、大学病院なら入院をしてもっと短期間で検査ができるそうです。
1歳6カ月健診のときに医師に『1歳6カ月では検査を受けるのが難しいよ』と言われた意味がよくわかりました。3歳でも大変です。長男はDVDで好きなアニメを見たりしながら、どうにか検査を乗りきってくれました」(小浦さん)
成長ホルモンの治療を受けるために行った脳のMRI検査で、脳の異常を発見
専門クリニックでの検査の結果、小浦さんが心配していたとおり、成長ホルモンの分泌不全がわかりました。そこで成長ホルモン補充療法の申請をするために、総合病院で脳のMRI検査を受けることになりました。
「成長ホルモンがたりないということがわかったことで『これでやっと治療ができる!』と、前に進めるうれしさでほっとしました。
脳のMRI検査は、成長ホルモンの補充療法のために必要な検査です。しかし総合病院の医師から言われたのは、予想外の言葉でした。『検査の結果、白質ジストロフィーという脳の病気の疑いがあるから、大学病院でもう一度、検査を受けてください』と言うのです。家に帰ってインターネットで白質ジストロフィーについて調べると、『大脳の白質がじょじょに壊れていく進行性の疾患』『獲得していた発達が失われていく』などと書かれていて、とても動揺しました。
長男が小柄なのは、成長ホルモンの分泌不全だ! ホルモン補充療法をすればよくなると思っていたので、脳に問題があるという現実が受け止められませんでした。
子どもたちの前では普段通りに振る舞っていましたが、夜になって、子どもたちが眠りについて、夫婦2人きりになると夫も私も涙が止まりませんでした」(小浦さん)
小浦さんは紹介状を持って、福岡大学病院で検査を受けます。
「10日ほど入院して、血液検査や脳のMRI検査などを受けました。検査の結果、医師から告げられたのはミトコンドリア病のLBSL(白質脳症)という、初めて聞く病名でした。
ミトコンドリア病には、いくつか病型があります。息子のLBSL(白質脳症)は2000年代に入ってから発見されたとても珍しい病型であり、息子はその疑いがあるとの説明でした」(小浦さん)
【山口先生から】LBSLの主な症状は、歩行障害や感覚障害。新生児から発症することも
ミトコンドリア病は、6万人に1人の発症率といわれる難病で、病型によって症状が異なります。その中のLBSL(Leukoencephalopathy with brain stem and spinal cord involvement and lactate elevation)は大脳白質変性疾患に分類される、常染色体潜性遺伝の疾患です。主な症状は運動に障害が出るため、歩行障害や感覚の障害です。
新生児から成人まで幅広い年齢で発症する可能性がありますが、まだ解明されていない部分が多くある病気です。
お話・写真提供/小浦ゆきえさん 監修/山口拓洋先生 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
ミトコンドリア病の診断がつくまでに時間がかかったのは「歩くのは少し遅かったものの、発達は比較的順調だったため」と小浦さんは話します。また、「『食べる量は個人差がある』『小柄なのは両親に似ているから』と思っていたから」だとも。
ミトコンドリア病は、現代の医療では有効な治療法がなく、治療は対症療法が中心になります。そのため小浦さんは、食事・栄養の面から、長男をサポートしています。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。
山口拓洋先生(やまぐちひろみ)
PROFILE
福岡大学医学部卒。2016年福岡大学医学部小児科に入局。小児科病棟での入院管理と専門外来の診療に従事している。専門は小児神経学。